三味線の音色が響くなか、着物の上にあっと言う間に現われる火の鳥……。

【マサキさん提供】

【マサキさん提供】

山口県和木町のアート作家マサキユミさんが率いるアートユニット「和天龍」。女性モデルの着ている和服にマサキさんが即興で絵付けしていくライブパフォーマンスだ。イベントや企業のパーティーなどのアトラクションとして出演依頼が後を絶たない。

「龍や獅子、狛犬など、その場でふと浮かんだイメージを数分で仕上げていきます」

斬新さと大胆さ、そして完成度の高さから「見たことのないパフォーマンス」として注目を集め、関東のアートサイトでも紹介された。これからさらに披露の場が広がっていきそうだ。

【パフォーマンスを披露する和天龍 (マサキさん提供)】

【パフォーマンスを披露する和天龍 (マサキさん提供)】

トールペイント界の第一人者

マサキさんは、トールペイント歴31年。講師歴は26年。作品は専門誌の表紙を飾るなど、その道の第一人者として全国的に知られている。だが、「ただ楽しいから続けてきただけ」と、本人はいたって謙虚だ。ハンドメイド作家や講師の多くが生徒集めに悩み、定期的な教室運営を続けられない中、25年以上続いているのは異例だ。

【自宅アトリエには、たくさんの作品が並んでいる】

【自宅アトリエには、たくさんの作品が並んでいる】

最近は、長く続けるコツについて聞かれることも多いという。でもマサキさんは「特別なことは何もしていない」とあっさり。「ただ、どうすれば生徒さんが簡単に、楽しく創作できるかということだけを考えて、いろいろと改善を続けてきただけなんです」

10年ほど前から始めたのが、絹糸を使ったシルクアートコラージュ。マサキさんが製作法を独自に考案し、誰もが手軽に仕上げられるよう工夫している。

シルクを絵の具のように

シルクアートコラージュは、絹糸を絵の具のように混ぜ合わせて描画でき、しかも立体的に仕上がるのが特徴。「たとえば」とマサキさん。「はさみで細かく刻まれた黄色い糸に、赤い糸の粉を混ぜ合わせていくと……だんだんとオレンジに変わっていくでしょう」

【多彩な絹糸】

【多彩な絹糸】

【粉状にした赤色と黄色の絹糸を交ぜると、オレンジに変わった】

【粉状にした赤色と黄色の絹糸を交ぜると、オレンジに変わった】

「絹糸は、ここが楽しいなと思って。どんな色でも作り出せるので」。刻まれた絹糸が蝶の羽をかたどった部分に落ちると、鱗粉そのものに見える。こちらもトールペイントと併せ、県内外に多くの生徒がいる。

多彩な活動を続けるマサキさんだが、その根底にあるものは共通している。

「楽しいか、楽しくないか。それが私にとって、大きな判断基準」

「楽しい」に込めた想い

その言葉には、決して「楽」なだけではなかったマサキさんのこれまでの人生が凝縮されている。20代のころ、妊娠、出産でのトラブルで不眠症になったことも。子育てと介護が同時期だったので、出口がないように思える日を過したこともあったという。

そんなときに、いつもアートクラフトが気分を変えてくれた。「教室で教えるとなると、やはりそこに集中するのでスイッチが変わります。視点が変わることで客観的に捉えることができ目標が生まれて、それが小さな光となって、また楽しい方向へと歩み出すことができたんです」

辛く、苦しいトンネルの先には、必ず明るい光がある……。マサキさんにとって「楽しい」を選ぶとは、そういう意味だ。「人間万事塞翁が馬。明けない夜はなく、太陽は必ずまた昇ります。人生において色々困難なことはありますが、起こった出来事を悔やんだり、後悔したりするのではなく、目標、目的を見つけてはクリアしていく。それを積み重ねていった先に、『楽しい』があるんだと思うのです」

マサキさんが一歩ずつ歩みながら蒔いてきた「楽しい」の種。それが30年間でどれほど芽吹いたのか。岩国市内のギャラリーで昨年開催した初の個展は、そのことがはっきりと感じられる結果となった。約2週間の期間中、県内だけでなく、関東や九州から計1000人を越える来場者で賑わい、出品した作品もほぼ完売したのだ。

「地元」をアートで盛り上げたい

活動30年を越え、これからマサキさんがさらに力を入れていくのが、作家活動。「教室と併せて、自己表現をさらに深めていきたい」。冒頭の和天龍を始め、自分が描きたいと思う作品の創作により重きを置く予定だ。

【「思うままに描いた」というイラスト (マサキさん提供)】

【「思うままに描いた」というイラスト (マサキさん提供)】

昨年は作品が、JR岩国駅近くのカフェで商品パッケージに採用された。「こういうコラボをもっとしていきたい。地元を楽しくする力になれるなら、本当に嬉しいので」

実は「地元」という言葉は、マサキさんにとって特別な響きがある。

父親の仕事の関係で幼い頃から大阪、埼玉、横浜、東京など引っ越しを繰り返し、小学校で4回、中学校で2回転校。そんなマサキさんにとって、和木町や岩国市は、人生で一番なじみ深い土地だ。「何も知らない自分を本当に支えていただき、助けていただきました」

だからこそ、これからは地域に根ざした活動もしていきたいと語る。「ほかの作家の方の支援や、教室を長く運営する方法など、経験から伝えられることでどなたかの力になれるなら、本当に『楽しい』ですね」

深いトンネルから何度も抜け出し、そのたびに表現世界を深めてきたマサキさん。復活を象徴する火の鳥のように、どこまでも鮮やかに飛翔し続けてほしい。

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マサキユミ

住所:山口県和木町
URL:https://masakiyumi.com/

取材時期:2019年8月
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