岩国市の錦帯橋近くにある浄土宗寺院、瑞相寺(ずいそうじ)。開山して800年以上、現在の地に移って400年以上の歴史あるお寺で、三谷彰寛(しょうかん)住職による「お寺改革」が進んでいます。先代だった父親が56歳で急逝し、深い悲しみと混乱のなか、25歳の若さで第35世住職となって5年。お寺がなくなっていく時代に、檀家数が年間100件単位で増えているなど、改革の成果は目に見えて表れています。完成したばかりの第二本堂にて、住職の想いをお聞きしました。

「カフェ」で敷居を低く

―ここはとても落ち着く空間ですね。ソファに座ってお茶をいただいているだけで癒されます。どういう経緯でつくられたのでしょう?

お寺には、葬儀やお墓の相談がほぼ毎日寄せられてきます。そうした方の多くが「悩みに悩んだ末に、意を決して来た」と仰います。つまり、お寺に相談するというのは敷居が高いということなんです。だったら、お茶を飲みながら気軽に話に来られるようにしようと思って。

【第二本堂。ここで「終活カフェ」の相談も受けている】

―ああ、それでカフェという形に。

ええ。「お寺終活カフェ」という取り組みは、こちらで行っています。カフェと言っても、コーヒーなどを自分でいれて、お茶菓子などをつまんでいただく程度なので、いわゆる街中の「カフェ」とは違います。ただ、皆さん1時間程度お話をお聞きするだけで、「肩の荷が下りました」「これで夜、眠れます」と明るい表情になられますね。

―当然ですが、終活についてのお悩みが多いのですか?

そうですね。ほとんどが、ご自分のお墓やお葬式の流れをきちんと整えておきたいという内容ですね。子どもに迷惑をかけたくないので、できる限り自分でと。葬儀、遺品整理、遺言、お仏壇などについては信頼できる業者さんも紹介しています。もちろん、相談料、仲介手数料はいただきません。

檀家数、1年間に約100件増

―近年では檀家が減って、続けていくのが難しいお寺が増えていると聞きます。そんななか、こちらは逆に檀家さんが増えていると聞きました。

確かに増えています。昨年1年間でも100件以上の方と仏縁を結ばせていただきました。

―それは、かなりの数ですね……。相当お忙しいのではないですか?

当初は本当に大変でした。昨年、弟の元秀が東京から戻って、副住職として一緒に寺を支えてくれるようになったので、随分と助かっています。

―それほど檀家数が増えている背景には、何があるのでしょうか?

特別なことはしていません。終活カフェの取り組みも、寺が人々の心の拠り所であるならば、当り前のことです。

ここにいらっしゃる方から一番多く受ける相談は、お金にまつわることです。皆さん、お葬式や法事の費用、お布施などで悩まれている方が非常に多い。瑞相寺では、お布施も、葬儀代も、こちらから金額を提示することは一切ありません。各ご家庭の経済状況はさまざまですから。例えば同じ1000円でも、余裕のある方と、日々懸命に乗り切っておられる方とでは、まったく受け止める感覚が違います。大切なのは、お気持ちですから。

―ということは、極端な話、無償でも受けられるということですか?

ええ、お受け致します。本来、お寺のお勤めは営利目的ではありませんから。瑞相寺には年会費も、護寺会費もありません。改修などに伴う寄付金も頂戴いたしません。おそらくそういったところが口伝えに広まって、檀家さんが増えているのだと思います。

―逆に言うと、金銭的負担が大きすぎて、それを理由にお寺を移られる方も多いということでしょうか?

実際にそういう話をよく聞きます。いくら以上でないと葬儀はしないとか、本堂を建て替えるので数十万ずつ寄付せよとか。このような相談を結構な頻度で受けています。それは本来のお寺の在り方、仏教の在り方ではないと、私は感じています。

祖父、父の想いを受け継いで

―瑞相寺さんでは、もともとそういう考えを持たれていたのでしょうか?

―そうですね。祖父も、父も、お勤めの金額を決めるということはありませんでした。ある総代さんは、「これほど多くの方がお寺に付いてきてくれるのは、おじいちゃん、お父さんがお金にとやかく言わなかったからだよ」と。それを聞いて、やはりそうなのかと納得しました。

【築300年以上の本堂】

―住職ご自身は、いまの取り組みを本格的に進めるきっかけとなる出来事があったのでしょうか?

そうですね。まだ住職となって間もない頃、ある葬儀社で枕経(亡くなってすぐにあげるお経)をあげました。終わって帰ろうとすると、隣の部屋にいらした女性がこられて「3分でも、いえ1分でもいいからお経をお願いします」と。話を聞くと、息子さんが亡くなって、経済的な理由などから直葬(葬儀などをせずに火葬すること)するつもりだったそうです。でも、出棺する間際に私の読経が聞こえたので、いてもたってもいられなくなったと。

―どうされたのですか?

お盆時期で忙しかったのですが、その方のご様子から「これはただごとではない」と感じて、無償でお経をあげさせていただきました。火葬場にも同行しました。その方はご家族とともに何度も深々と頭を下げて「有難うございます」と……。そのときです。「苦しんでいる人を助ける」という仏教本来の役割を改めて強く意識したのは。

住職となって5年。檀家さんの数が増えているのと反対に、お布施の総額は年々、右肩下がりとなっています。「葬儀代やお布施はお気持ちで」という私の想いが皆さんに届き始めたひとつの成果として、喜ばしく受け止めています。お布施の総額はすべて、私が年3回発行しているフリーマガジン「ごんねん」でも公開しています。

―そうした金銭面以外に、檀家が減り、維持できなくなっているお寺が急増している理由はありますか?

一番は少子高齢化ですね。人口が減り、過疎化が進むなかで、お寺を支えてこられた方たちが少なくなっていることが大きいと思われます。

「お寺本来の在り方」が問われている

―そうでしょうね。ただ、日本の人口は1950年ころにはまだ8000万人台でした。それでもお寺は維持できていたわけです。それがなぜ、当時より4000万人も人口が多くなった現代において続けていけなくなっているのでしょう?

そこには、家制度の崩壊と東京への一局集中、そして価値観の多様化が大きく関わっていると思われます。跡取りだから、先祖代々の土地だからという理由で、その家、土地を次世代へ繋いでいくという伝統的な価値観は崩壊しています。それに伴って、考え方や生き方への選択肢が増え、かつてあったお寺の存在感が薄くなってしまったのだと思います。

加えて、お寺自体の問題があります。本来、仏教は生きている者がどのように前向きに歩むか、そのための教えでした。そしてお寺は、悩んだり、苦しんだりしている人の心のよりどころとして存在していました。それが、そうではなくなってしまった。1990 年代に若者の一部がカルト宗教に走ってしまったのも、お寺が受け皿として機能していなかったことが指摘されています。

―なるほど、よく分かりました。では最後に、これからのお寺の在り方について、住職はどのように考えておられますか?

これから100年先、200年先も仏教が必要とされるためには、お寺はどうあるべきなのか?そこに立ち返って、お寺を頼ってこられた方に真摯に向き合って、お寺自体も在り方を顧みながら反省を続ける必要があると常々考えています。

いま、お寺が関わる領域がすごく広がっています。社会福祉関係だけでなく、遺言、相続、空き家の処分……。先日も、永代供養の相談に来られた方から、こちらに移住したいという相談を受けました。お寺の在り方、関わり方が、人の絆を育み、地域そのものの活力に繋がっていくはずです。そうした意識も持ちながら、これからもお寺本来の役割を副住職と共に深めていきます。

取材時期:2019年8月
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浄土宗瑞相寺

住所 山口県岩国市岩国1丁目14-21
TEL 0827-41-0805
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