地域の歴史と特産品がぎゅっと詰まった加工所

きらきらと日の光を浴びながら、たっぷりのお湯で煮沸されていく瓶。どこか神聖さにも似た清潔感を感じるのは、30年という長い年月が、見えない地層のようにひっそりと横たわっているからかもしれません。

今回は、山口県周南市にある熊毛農産物加工所に来ています。こちらでは30年ほど前から、熊毛(くまげ)地域の農産物を活用した様々な加工品が作られてきました。

こちらの「なすびじゃむ」もその中の一つ。かれこれ10年以上、道の駅などで販売されているロングセラー商品です。イチゴ、ナス、キウイの3種類があり、それぞれの旬の時期にのみ採れたてを使って仕込まれます。

そもそも、なぜナスをジャムにしたのでしょうか。「食物文化コース」という学科のある山口県立熊毛北高校でお話をうかがってきました。

ナスのジャムが生まれた経緯をインタビュー

【家庭科の角(すみ)広子先生】

【家庭科の角(すみ)広子先生】

(先生)
「ナスのジャムは、収穫量が多すぎたり規格外だったりして出荷できないナスを活用するために考案されました。

今から13年ほど前、近隣の農家さんからの相談を受けた生徒たちが、約1年間かけてナスの活用レシピ集を制作。その中で提案したパイのフィリングがなすびじゃむの原型です。

その後熊毛農産物加工所の方が商品として開発してくださり、今の形になりました」

【2006年に当時の生徒らによって作られたナスのレシピ集。砂糖を加えて甘く炊いたナスをパイのフィリングとして提案している(左ページ)】

【2006年に当時の生徒らによって作られたナスのレシピ集。砂糖を加えて甘く炊いたナスをパイのフィリングとして提案している(左ページ)】

(甲斐)
「ナスのジャムはどうやって食べるんですか?」

(先生)
「普通のジャムと同じように、パンに塗ったりヨーグルトと合わせたりします。スイーツの材料としても使えて、先日はカボチャの羊羹に寒天で固めたナスのジャムを重ねたものを作り、生徒たちが運営している『くまきたレストラン』で提供しました」

(甲斐)
「ということは、

ナスのジャムは甘い

んですね?」

(先生)
「はい!味や食感は

りんごや梨に似ている

と思います」

「ナス≒りんご」……
謎は深まるばかりですが、ますます楽しみになりました。

それでは加工所に戻り、「なすびじゃむ」ができるまでをみなさんと一緒に見ていきたいと思います。

「ぼけなす」がおいしいジャムに変身

なすびじゃむの材料は、熊毛特産の「筑陽(ちくよう)ナス」。肉質が緻密で水分が多く、煮物やお漬物に向いています。大きなボウルに積まれたピカピカのナスたち、なんとこれらも全て規格外品。表面のツヤが弱く色がぼんやりとした「ぼけなす」なのだそうです。

総量約8kgのナスを、包丁1本で黙々と薄切りにしていきます。山のふもとにある加工所はとても静かで、包丁と扇風機の音だけが響きます。

切り終わったナスを大鍋に入れ、砂糖をまぶしてもみ込みます。コンロに火を入れるとナスの水分でぐつぐつと煮えてきましたが、まだどうしても煮物にしか見えません。

ナスの輪郭が少しずつとろけてきた頃、満を持して秘密兵器のレモン汁を投入。すると……

ジャムがみるみる、ナス本来の美しい緋色に変わりました。

もともとは皮と身を分け、先に皮でナスの色水を作ってから、でき上がったジャムと混ぜて着色していたそうです。数年前に皮ごと煮込んでレモン汁で発色させる現在の方法を編み出したとのこと。

開発も、改良も、誰に言われるでもなく加工所の中で繰り返されてきました。

できあがったジャムをスプーンで瓶詰めし、ばねばかりで重さをはかって念入りにふたを閉めていきます。鍋、包丁、木べら、スプーン、ばねばかり……昔から家の台所にある道具を使って、すべて手作業で作られていきます。

ラベルを貼って、完成!

「おしまい」の準備

「暑かったでしょう、ご苦労様でした」と言って、ご自身の方が何倍も暑かったはずのお母さんたちが、うんと冷えたお茶とクラッカーを出してくれました。クラッカーにはもちろん、できたてほやほやのなすびじゃむが。

熊毛のなすびじゃむは、とっても甘くてフルーティ。レモンの酸味がいい仕事をしていて、クラッカーの塩気とよく合いいくらでも食べられます。お皿一杯のジャムクラッカーの写真が無いのは、撮る前に私がぱくぱく食べてしまい、これが最後の1枚だから……。

熊毛農産物加工所で現在作られているのは、実はこのジャムとお漬物の2品のみ。若い後継者や開発中の商品は無く、現在働いている3名のお母さんたちが引退する時のために「おしまいの準備をしています」と言っておられました。

ジャムの仕込みはいい意味で淡々としており、お仕事というよりは呼吸や歯みがきのように自然。それでいて所作や雰囲気が美しく清廉でした。始まりと継続、そして終わりがあるのは自然なことですが、今日ここで見た風景をいつまでも心にしまっておきたいと思いました。

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【なすびじゃむ販売店】
まちのポート(周南市観光案内所)
住所:山口県周南市みなみ銀座1-8
TEL:0834-22-8691

道の駅ソレーネ周南
住所:山口県周南市大字戸田2713
TEL:0834-83-3303

取材時期:2019年9月
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。
最新の情報は直接各スポットへお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

熊毛農産物加工所

住所 山口県周南市大字小松原1721-1
TEL 0833-91-2233