「ブドウ畑までは大変な悪路なので、気を付けてお越し下さい」

取材前に届いた一通のメール。「いったいどんな場所にあるんだろう?」とすこしびくびくしながら周南市金峰地区に向かいました。

覆うように茂る雑草や雑木のなか、どこまでも続く細いじゃり道。このルートで本当にあっているのか……と、ハンドルを握る手のひらに汗がにじみ始めた直後、きれいに整備されたブドウ棚が目の前に広がりました。

「葡萄畑 ふくじろう」

車を降りると、激しく吠えるワンちゃんたちに大歓迎されました。

「これはモンキードッグ。ここはサルの害がひどくて。でもこの子たちがしっかり働いてくれるおかげで、うちには寄ってこなくなりましたね」

そう話しながらじゃれついてくる犬をなでるのは、園主の福本直樹さん。2014年の開園以来、妻の梓さんと2人で「安全・安心、そして美味しいブドウづくり」に励んでいます。

「幻のブドウ」の魅力

現在、栽培しているのは19種。ピオーネ、シャインマスカットのほか、栽培農家が少なく、ほとんど市場に出回ることのない種ありのブラックオリンピアや、「幻のぶどう」とも呼ばれるオリンピア、昭平紅(しょうへいこう)などもあります。

「種ありのほうが、味が濃くて美味しいんです。世の中は種なしが大半だけど、私はこれからも種ありを増やしていこうと思っています」

【いずれも種ありのブラックオリンピア(左)と、昭平紅】

【いずれも種ありのブラックオリンピア(左)と、昭平紅】

直樹さんのお話を聞きながら、種ありのブラックオリンピアと昭平紅をいただいてみました。いずれの実も「噛みごたえ」といっていいほど弾力があり、ギュッと詰まっています。甘いだけでなく、口の中に吸い付くような酸味も。特に昭平紅は、シャリッとした食感も味もまるでリンゴのようでした。

「これがブドウ本来の美味しさなんです。この味をもっと広めていきたいんですよね」

荒れ放題だった廃園を復興

直樹さんは兵庫県出身。公務員として大阪や和歌山などで働いていましたが、仕事に疑問を抱きはじめ、次第にうつに。療養中に、梓さんから「なんでもいいから、何かしたほうがいい」と促され、農業体験に参加。それが人生を変えるきっかけとなりました。

「農作業というより、見ず知らずの私を快く受け入れてくれた農家さんの人柄に強くひかれたんです。自分も農家になって、こういう人間になりたいと思いました」

就農先を探すなかで同じ金峰地区にあるブドウ園で研修できることを知り、2011年に移住。2年間経験を積んだあと、廃園となっていたいまのブドウ畑で独立しました。

ただ、10年ちかく放棄されていた約1ヘクタールものブドウ園は、「ほとんど山に戻る寸前の状態」。ブドウ棚が見えないほどに生い茂っていたクズやススキを伐採し、ブドウの木を植え替えて復活させていきました。

「子どもに安心して食べさせられるブドウを」

殺虫剤は不使用。農薬と化学肥料もどんどん減らし、近い将来には使わない方向で進めています。

そんな直樹さんも、当初はブドウ栽培で使われる農薬などを普通に使っていました。「でもある日、殺虫剤をかけたあとのブドウの木でバッタが瀕死状態になっているのを見かけて。こんなものがかかったブドウを、とても自分の子どもに食べさせられないな、と」

殺虫剤を使わない代わりに、木に虫がついていないかのチェックは欠かせません。180本すべてを、毎日丁寧に見て回ります。

【虫がついていないか丁寧に調べる直樹さん】

【虫がついていないか丁寧に調べる直樹さん】

「観光農園はしません」

収穫後はスーパーへの卸売りと、ネット注文で販売。観光農園はしていません。それは、研修中に苦い経験があるから。ある日、お客さんが帰った後に、袋の下を破って一粒だけ味見した房がたくさん見つかったそうです。「本当にがっくりきました。それらの房はもう商品になりませんから」

丁寧に育てた安心、安全で美味しいブドウを、理解のある方に食べていただきたい。そうした強い願いを貫き続ける直樹さん。

その純粋な姿をそばで見守り、支えてきた梓さんは「本当に生き生きしていますね。困難に出くわしても、乗り越えていく強さを感じます。苦しみながら悶々と働いていた公務員のころと比べると、完全に別人です」と、嬉しそうです。

「新しいルートがあるはず」

いまの課題は、既存の販路とは別の「新しいルートの開拓」とのこと。

「スーパーや直売所だと、遠くの人は通いにくい。かといってネット通販は送料がかかるので、お客さんの負担が大きい。その中間になにかある気がするんです。近くもなく、ネットで注文するほど遠くにいるわけでもない方にも、安心して食べられるブドウを届けたいので」

それは新しく果樹園を始めようとする方の後押しにもなると、直樹さんは信じています。「販路がしっかり分かれば、独立後の収入のめども立てやすい。そこまで伝えられるなら、新しく農園をやりたいという方も安心して始められるでしょうから」

殺虫剤などを使わず、観光農園もせず……。たとえどんなに険しくても「自分の道」を進み続ける福本さん。

確かに、このブドウが手軽に食べられるなら嬉しい。そして、福本さんのように効率よりも安全性を重視する生産者が報われ、増えていく社会になれば、本当に素晴しいだろうな……。

持ち帰った昭平紅のワイルドな味を自宅でゆっくりと堪能しながら、しみじみとそう思ったのでした。

取材時期:2019年9月
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。
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葡萄畑ふくじろう

住所 山口県周南市金峰東中原2594
URL http://budo-fukujiro.com/