山口市大殿大路。アーケードや大きな通りから外れ、高杉晋作ら維新の志士が訪れたことで知られる「十朋亭」など、歴史ある建物が並ぶ町並みの一画に、行列のできるベーグル店「TSUKINOWA」はあります。

お客さんとのやりとりを大切に

かつては長屋だったという築100年以上の建物の中に入ると、開店間もないにもかかわらず、すでにお客さんでいっぱいでした。

ウォールナッツ、シナモンレーズン、抹茶……など、レトロ感漂う木製のショーケースには10種類以上のベーグルが並んでいます。トレーを手にひとり一人がピックアップするのではなく、皆さん、お店の人とやりとりしながら選んでいきます。まるで、かつてどこにでもあった商店街のような光景ですね。

「お店を始めた当初はトレーで選んでいただくスタイルでしたが、それだともう、私はレジを打つだけだったので。やっぱり、いらしてくれた方と少しでもお話したいですから」。オーナーの岡本千津子さんはそう語ります。

【オーナーの岡本さん】

【オーナーの岡本さん】

きっかけは、長女の体調

岡本さんは山陽小野田市出身。一時期暮らしていた沖縄で、ベーグルと出会ったそうです。

1歳だった長女のお腹の調子が悪く、腸内環境の改善に良いといわれる食べ物をいろいろと試していました。そのなかで天然酵母を使ってパンを焼き、食べさせてみたところ「はっきり調子がよくなったんです」。天然酵母のベーグル店を営んでいる女性とも知り合って、本格的に勉強を始めました。

沖縄を離れた後も独学を続けます。

「でも最初は、酸っぱかったり、ぜんぜん膨らまなかったり、失敗ばかりでした」。試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ腕を上げていきました。

いま使っている酵母は、自家製のフルーツ酵母。9年ほど前、広島県三次市にある無農薬栽培の果樹園に出かけ、そこのりんごとプルーンを生のまま発酵させたものです。「ビンのふたを押し開けるほどの強い発酵力で、びっくりしました。それでベーグルを焼いてみたら美味しくて」。以来、ずっと酵母を繋ぎ続けています。

そのほかの材料にもこっています。小麦粉は、国産小麦の中でも「幻の小麦粉」と言われる北海道産の「はるゆたか」が入ったブレンド粉を使用。「これを使うと、ムギュ、モチっとした理想の食感に一番近いベーグルが焼けるんです」。砂糖はてんさい糖、水は、岩国市の山間部で採れる地下天然水を使っています。

生地は低温で丸1日寝かせてから成形し、茹でた後で焼き上げます。「もちもちで、しかもふんわりとした食感を求めて辿りついた方法なんです」

お店は2013年に岩国市由宇町で開業。高台の住宅街で土曜日のみの販売でしたが、味の良さから評判が広まって、毎回すぐに売り切れるほどの人気に。5年間続けた後、知り合いの勧めで現在の場所に移り、2019年5月に営業を再開しました。

もとの場所と比べて市街地に立地していることもあり、営業日を週3日に、個数も100個以上多めに焼くようにしていますが、それでも完売する日が続いています。

「もちっ」「ふわっ」「しっかり」

筆者もいただいてみました。

まず、その弾力に驚かされます。指でちぎる際に抑えても、形が崩れません。すぐに生地がぺしゃんこになってしまう市販のものとはまったく違う「強さ」があります。それなのに、口に入れるとふわふわ。小麦粉の香りもほのかに広がっていきます。そして、なんと言っても十分な食べ応えがありました。

「ひとつが125グラムほどあります。軽くて柔らかいパンもいいですが、ぎゅっと中身が詰まったベーグルの良さも広めていきたいですね」

素材の良さからか、お客さんからは「食事がなかなか喉を通らなった子が、ここのベーグルだけは難なく食べてくれた」「食事中もふざけて食べ続けることのない2歳の子が、静かにぺろっとたいらげた」といった声も。

「そういう声が本当に嬉しいですね。妥協せずに続けてきて良かった」と岡本さん。これからは焼きたてをその場で食べてもらえるように、イートインスペースも設ける計画も。「ベーグルの専門店として、歴史あるこの地域に根付いていけるよう、地道に焼き続けていきます」

取材時期:2019年9月
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。
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TSUKINOWA bread bagels and sweets

住所 山口県山口市大殿大路134-1
TEL 080-3965-4402
営業時間 基本的に木・金・土曜、11:30~18:00(フェイスブックで要確認)
URL https://www.facebook.com/TSUKINOWA.bagels/