岩国市の錦帯橋近く。古い家並みが残る横山地区を白壁沿いに歩くとすぐ、大きな木々に覆われるように立つ、古い門が目に入ります。

「古民家カフェ 光風堂」

門をくぐり、敷地の中に入ると、「樹齢280年」と書かれた大きなクスノキが迎えてくれました。

どう見ても「和」のお店ですが、玄関を開けるとフローリングのカフェスペースが広がっています。

2週間かけて味を調える「薬膳カレー」

ガラス越しに庭の豊かな緑を眺めながら、「薬膳カレー」を注文。オーナーの河中千佳子さんによると、ルーは完成までに約2週間もかかるそうです。

「まず2日間煮込み、続いて冷蔵庫で2~3日寝かせた後、さらに1週間、冷凍庫に置きます。そうしないと味が『若い』んですよ」

ハーブの専門家からのアドバイスを活かしつつ、独自にアレンジを重ねて開発したオリジナル。コリアンダー、クローブ、シナモン、山椒など10種類以上のスパイスに加え、フルーツ、味噌なども溶け込んでいるそうです。

赤く見えるライスは、無農薬玄米と黒米のミックス。

さっそくいただいてみると、もちもちとした歯ごたえのご飯と、どこか柔らかな甘みを感じるルーが、すーっと口の中に馴染んでいくようでした。でもその食感に浸る間もなく、ぴりりとした辛さが追いかけてきます。添え物の野菜をつまみながら食べ終わるころには、全身にじんわりと汗が出ていました。

スイーツは、主に隣の大竹市にある菓子工房「Oni Oni」から仕入れています。安心・安全の素材にこだわったケーキやプリンなどが年齢を問わず人気です。

薬膳カレーやスイーツだけでなく、河中さんの姉が栽培したショウガを使ったジンジャーティーや、無農薬ブルーベリーなど、メニューには「誰が、どこで」のはっきりしたものが並んでいます。

「やはり、お客さんに明るく、元気になって帰っていただきたいと思ってお店を始めたので。そこを軸に一つひとつ考えていたら、自然といまの形になったんです」。名古屋から豆を仕入れている炭火焙煎のコーヒーを淹れながら、河中さんがそう教えてくれました。

この建物が求めていたのは「光と風」

河中さんは以前、アパレルメーカーに勤務。友人を病気で失ったことにショックを受け「これからは本当に自分がやりたいことをして生きよう」と40歳で退職。手芸店に勤めながら「いつか、疲れている人が訪れて、笑顔で帰っていくような喫茶店を作りたい」との想いを温めていました。

そんな折り、手芸店が閉店。「これを機に、自分の道を歩み出そう」と決め、喫茶店としての物件を探しながら錦帯橋周辺を歩いていたところ、いまの店舗を見つけたそうです。

元武家屋敷だった土地に建つ店舗は、築80年以上。開店前には友人や家族にも手伝ってもらいながら、2ヶ月かけて床板、壁を張り替え、しっくいも塗り直したそうです。開かずの間のようになっていた小部屋も窓を開け、建物全体に光と風を通しました。

「ここを借りた当時、全体的に暗く、重たい感じがしたんです。そこで、建物自体が望んでいることに意識を向けてみたら、『光と風を入れて欲しがっている』という気がして。光と風は、きっと人のことも元気にするはずだと確信したんです」。店名を決めるのに、迷いはありませんでした。

2013年にオープンして6年。

和の空間と丁寧に生み出されるメニューは、米海兵隊岩国基地のアメリカ人にも好評。「ここに来ると落ち着く」と、リピーターになる人も少なくありません。異動で本国に帰った後も、ずっと交流が続いている家族もいるそうです。

老舗の扇子から、最新アクセサリーまで

店内には、アクセサリーや和雑貨など、多様な商品が並んでいます。それぞれに目を落とすと、400年以上続く老舗「伊場仙」(東京)の浮世絵をあしらった扇子や団扇、「ロザフィ」と呼ばれる紙で作るバラのアクセサリー、パワーストーンなどなど……。時代も文化も接点がないように思えるものばかり。でもなぜか、すべてがこの空間のなかに違和感なく収まっているから不思議です。

「いずれも、人の縁が繋がって扱わせていただくようになりました。出会いを大切にしていたら、いつの間にかここに集まってきたんです」

【浮世絵をあしらった団扇など】

【浮世絵をあしらった団扇など】

【紙でつくるバラのアクセサリー「ロザフィ」】

【紙でつくるバラのアクセサリー「ロザフィ」】

食と空間で人に元気を与えながら、縁を紡ぎ続けている河中さんには、ずっと大切にしている和歌があるそうです。

長き夜の 遠の睡(ねむ)りの皆目醒め 波乗り船の 音の良きかな
(ながい夜が明け、誰もが目を覚まし、ついに船出した)

「恩師の一人から教わった室町時代の歌です。このお店が、自分のやるべきことに気づいて、そこに向けて一歩を踏み出す場になったら嬉しい。そういう人同士が繋がり、輪が広がっていく空間に育てていきたいと願っています」

ゆっくりと流れる時間の中で、味わい深い食事を楽しみながらお話を聞いているだけで、なんだか心も体もすっきりとした感じがしました。何かに行き詰まったとしたら、また光と風を浴びに、ここを訪れようと思います。

取材時期:2019年9月
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古民家カフェ 光風堂

住所 山口県岩国市横山2丁目4-26
TEL 0827-41-2100
営業時間 9:30〜17:00(12月〜2月10:00~16:00)
定休日 水曜日