「幸せます」。幸いです、有難いですというニュアンスの山口県の方言をあしらったポップな畳縁(たたみべり)で、和の空間に新しい風を起こしている吉井畳店(山口県防府市)。社長の吉井秀樹さんは、全国畳振興協議会の「畳ドクター」として、最優秀に選ばれた経歴の持ち主です。

洋室が増え、畳需要の減少傾向が続くなか、日本固有の敷物の素晴らしさを守り、伝えようと奮闘している吉井さん。その丁寧な語り口から見えてくるのは、時代の流れのなかで消えてほしくない「色と香り」でした。

端材利用で地域貢献。予想外のヒット

―「幸せます」の畳縁、なんかほんわかしていていい感じですよね。もともと、どういう発想から生れたんですか?

2015年くらいから、畳屋として何か地域貢献したいと考えていたんです。畳縁を使って、新しい展開ができないかと。そこで防府ブランドである「幸せます」をあしらった畳縁を作って、ミニ畳を生み出してみたんですね。するとこれがお土産物として予想外に好評で。人形や花瓶の台として使っているという声をよく聞きます。

【「幸せます」の畳縁を使ったミニ畳】

畳は部屋によって大きさがまちまちなので、いっぱい端材が出てしまいます。これまでは捨てていた端材を使うことで、喜ばれる一品ができる。とてもいい循環が生まれていますね。

―この畳縁、ミニ畳のほかにも用途がありそうですね。

そうなんです。実は同じころ、知恵を借りるつもりで手芸の先生たちが運営している「ほふほふ」という市内のハンドメイドショップに話をしに行ったんですね。すると先生方がたくさんアイデアを出されて、いまでは小物入れとか、バッグとか、リボンとか、その方たちのおかげで新しい製品が次々と誕生しています。

【畳縁を使った小物入れ】

ピンク、イエロー、レッド……カラフルな畳の世界

―面白い……。でも畳がもとになっているなんて、想像できませんね。

ああ、そうでしょうね。畳というと、昔ながらの地味なイメージしかない人がほとんどですから。だけど、いまはカラフルで、おしゃれで、かわいいものまで、本当に多種多様なんです。

―カラフルで、かわいい?

ええ。ピンクやイエロー、または「赤い彗星」のようなレッドまで、なんでもあります。柄だって様々ですよ。

【畳のサンプル。パステルカラーまである】

―イグサの緑色だけかと思っていました。

もちろん、それが本来の畳の姿です。でも、いまはイグサではなく、和紙や樹脂がメインになっていますから。

―イグサですらないんですね。まったく知りませんでした。

そうなんです。まだ昔ながらの畳のイメージが強く残っているのですが、イグサを使った畳は、どんどん少なくなっているんです。和紙や樹脂だから、多様な色や柄が可能なんですね。

―でも、カラフルな畳ってどんな用途で使われるのでしょうか?

和室というより、インテリアの一部ですよね。新しいマンションなどでは和室ではなく、フローリングに畳を数枚だけ置いた「畳コーナー」を設ける人が増えています。そうしたところではちょっとおしゃれな畳が求められたりします。

【フローリングに設けられた畳コーナー】

そういえば以前、畳替えに伺ったおうちで「小さな孫が怖がって和室に入らない」と悩まれていました。そこでピンクの畳を提案させていただいたところ、まったく怖がらなくなったということもありましたね。

―なるほど。そういう効果もあるんですね。

和紙や樹脂の畳もいいですが、やはり僕としてはイグサの畳を大切にしたいという思いがあります。でも、需要の減少に伴って、イグサ農家そのものがどんどん少なくなっているんです。

減り行くイグサ農家

―イグサって、どこが産地なんでしょう?

熊本県の八代地方です。ここで9割以上が生産されています。僕が小学生のころは岡山県と習ったけれど、工業地帯の造成などでいまはもうほとんど残っていません。その八代でも、農家の数は減っています。

―それほど農家が減ってしまって、品不足にはならないのですか?そこまで需要が落込んでいるということ?

畳の需要は20年前の3分の1と言われています。新築マンションなどにはほとんど和室がないし、うちのような畳屋も高齢化が進み、後継者不足でどんどん辞めていっているので。それに、中国産のイグサを使うことも多いですから。中国産と国産のものでは、一畳分の卸価格で数百円~数万円の差があるんです。だから「イグサの畳だったらなんでもいい」という人は、コストパフォーマンスのいい中国産を求める方が増えていますね。

そもそも、イグサってどんなものかご存知ですか?

―改めて聞かれると、分かりませんね(汗)。

イグサって、高さ1.3メートルほどに伸びるんです。それを、一畳分でだいたい7000本使っています。しかも農家が栽培だけでなく、織機を使って製品の状態にまでして出荷しているんです。だから、各農家の能力次第で品質にすごい差が出てくる。つまり、イグサ農家には大変な時間と労力が掛かっているのです。それなのに需要が減っている。結果として、トマト栽培などに切り替えていく農家が増えてしまうのです。僕も以前、いぐさ農家で研修させていただいたことがありますが、本当にきつかった。

ついでに言うと、イグサや和紙を使っているのは畳表と呼ばれる表面部分だけです。

―中にはいったい何が入っているんですか?

もともとは藁です。でもそれも、いまではほとんどがインシュレーションボードと呼ばれる木くずを圧縮した素材に変わっています。そのほうが軽いし、カビもこないので。

―ひとくちに「畳」と言っても、時代とともに大きく変化してきているんですね。そんな中、吉井さんはこれからどういった展開を考えられていますか?

イグサの価値を、もっと伝えていけたらと思っています。やはり香り、足触り、和の雰囲気……。イグサならではの良さがあるので。シミや汚れも、イグサなら日焼けしていくなかで自然と隠れて見えなくなっていきます。それに、そもそも質の良いイグサは時間が経つほどになんとも言えないきれいな飴色に変わりますから。あれは本当に風情があります。

【ブランド化を計画中の畳表バッグ】

―どのように伝えていきますか?

実はいま、手芸の先生たちと新しいブランドを企画中なんです。それは畳表を使ったバッグ。畳縁のバッグはあるけど、畳表のバッグを作っているところは全国でもまだ数カ所しかないから。そして、最終的には高級イグサで作ったバッグを世に出していきたいと考えています。そうすれば、イグサがどれほど味わい深いものか、きっと注目されるはずですから。

―最後に、これからますます畳の需要が減っていくなかで、10年後、20年後のことをどう見据えておられるのかについて、聞いてもいいですか?

そうですね……。かつて仕事で悩んでいたころ、いろんな経営コンサルを受けたんです。成果に結びつくものはほとんどなかったけれど、その中で、あるコンサルの方が「丁寧」という言葉を大切にされていて。

丁寧に計画して、丁寧に行動していくことの意義。それは、「幸せます」の畳縁を通じて広がった人々との繋がりを振り返ってみても強く感じるんです。結果がどうあれ、日ごろの人付き合い、言葉かけなどを常に丁寧に取り組んでいくなら、新しい風が吹き始める。それは、時代がどうなっても変わらないと思うんです。

畳は約1300年前の平安時代から続く日本固有の文化です。その担い手の一人として、これからも丁寧に、この地で畳を通じた縁を紡いでいきます。

取材時期:2019年7月
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吉井畳店

住所 山口県防府市開出本町12-17
TEL 0835-22-0319
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