「cafe & barショクバ」という変わった名前のお店が、山口市米屋町の商店街にある。1階はおしゃれでシンプルな人気のカフェバー。だが2階は、学生と地元企業との出会いや、異業種交流イベントなど、人財育成、新規ビジネス創出を目指す次世代育成サロンだ。地元企業が共同で出資し設立した「株式会社みんなのショクバ」が、昨年9月から運営。代表の弘中明彦さんに、この1年の手応えや、これからの地方の可能性について語ってもらった。

「cafe & barショクバ」の入っているビル

―「みんなのショクバ」ですが、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?

人口減、採用難、若者流出といった課題の解決を目指しています。学生などの若い人財には社会・経済に関する学びの場を提供したり、魅力ある地元企業で働く会社員との交流の場を設けたり。そうすることで、学生は地元で楽しく生きていく可能性を見出すでしょうし、人財確保に悩む企業は優秀な学生と出会えるかもしれません。カフェバーはそうした取り組みの拠点施設ですね。

―1階を本格的なカフェバーにした目的はなんでしょう?

誰もが気軽に入れる空間にするためです。よくある「創業支援施設」とかにすると、寄りつき難いじゃないですか。とにかく人と人が出会う場を作ることが大切ですから。そのためには、一番人が集まりやすい空間にしないと。

カフェバー。本格的な飲食が楽しめる

学生と企業のミスマッチをなくしたい

―学生と企業との交流を民間組織が図るというのは、ちょっと珍しいですね。

そうですよね。個人的に、企業と学生とのミスマッチをなくしたいという思いがあるんです。統計上、大卒新卒社員の3割は入社後3年以内に辞めてしまう。この原因は結局、納得のいかない形で会社を選んでいるからだと思うんです。ほとんどの学生が大手リクルート雑誌の情報や、合同企業説明会などで就職先を決めていますが、それってどうなんだろうと。

―仕事のやり甲斐など中身ではなく、企業の知名度やブランドだけで選んでいるんじゃないか、ということですか?

そういうケースがほとんどですね。山口にも優れた中小企業はたくさんありますが、いまのような就職市場では全国ブランドの企業にどうしても負けてしまいます。つまり、学生は優れた地元企業を知ることがなく、企業は優れた人財に出逢えないわけです。これは企業にとっても、地元で働きたい学生にとっても不幸なことだと思うのです。その解決の糸口にと、学生と社会人が日ごろから交流できる出会いの場を創ったのです。

2階の次世代育成サロンスペース。様々な交流の場として使われている(弘中さん提供)

―なるほど。ところで弘中さん自身は、どういう経緯でこの仕事を始められたのですか?

僕は山口生まれ、山口育ちです。高校を出た後、東大の経済学部に進みました。結構ウケるでしょ。これ、もはやネタなんで(笑)。卒業後は大手金融機関で資産運用の担当をしていました。あのころは腐ってましたね、仕事が面白くなくて。だから2年で辞めて、こっちに帰ってきたんです。

―つまり、ミスマッチだった?

そうなんです(笑)。そんな腐ってた時期に、たまたま山口県内の活性化に取り組んでいる方と出会ったんです。情熱的に話される姿に触れて、こういう生き方も面白そうだなと感じたんですね。

正直言うと、学生時代は地元のことなんて考えたことありませんでした。東京という街が楽しすぎて、地方なんてどうでもいいとさえ思っていたので。でも、その方の話を聞いているとワクワクしている自分がいたんです。僕の中で何かが触発されたんです。地方って、考え方次第ですごく可能性があるんだと。

地方は「ブルーオーシャン」

―弘中さんにとっての地方の可能性とは?

まず、自分らしい生き方を選べる、ということですね。東京で自分の価値を発揮して生きようとすると、どうしても埋没します。僕が会社員時代に腐っていたのは、ひとつには埋没感があったからです。でも地方は、パイは小さくても競合が少ないから、自分の価値を発揮しやすいですよね。いってみたら、ブルーオーシャン(競合相手のいない市場)なわけです。

―つまり、可能性というのは、あくまでビジネスについてということですね。

そうです。僕はこういう仕事をしながらも、「郷土愛原理主義」みたいなものは持ち合わせていません。古里大事、大好きという気持ちで動いているのではなくて、ビジネスチャンスの一つとして勝負しているんです。

―郷土愛原理主義?

すみません。これは僕の造語です(笑)。原理って、絶対的に揺るがないもの。そこに理由はいらないし、批判だって起きないですよね。ある種の「古里へ帰ろう」「地元で働こう」という主張は、そうした原理主義的なにおいがするんです。そんなふうに、「とにかく古里が大事だ」と主張されると、ちょっとしらけてしまうんですよ。

―しらけるというのは、弘中さん個人の感覚でしょうか?

いまの若い世代も同じだと思います。とても個人主義的ですから。そもそも、地方の維持のために個人の生き方や価値観を犠牲にするのは健全じゃありません。では、今の若い世代に対してどうアプローチすれば刺さるのか。それは、その土地で生きていくことの魅力を感じさせることです。自分の価値や特徴を活かして面白く生きている姿を見せることです。

地方の可能性を理路整然と、しかも熱く語る弘中さん

―地元や地方といった場所や環境ではなく、生き方の問題ということ?

そうです。究極的には、僕は地方という枠をとっぱらいたいとさえ考えています。地方とか、古里とかのくくりではなくて、自分の価値を発揮できる場所ならどこだっていいわけです。これからは、自らの価値を発揮して生きている人が多いまちに、さらに人が集まっていく時代になります。多様性に富んだ社会は、そうした地域が全国に増えていくことで自然と育まれていくはずですから。

「つまらないって言っている、君が一番つまらない」

―カフェやサロンに集まる学生たちと接していて、感じることはありますか?

みんなとってもスマートですよね。話を聞いていると、しっかりした考え方を持っています。でも、残念なのは「主語」なんです。

―主語?

ええ。例えば、大学内の課題を解決するにはどうすればいいか、というテーマで話し合ったとします。するとみんな、具体的な案を出してきます。でも最後に、「これをやったらいいと思います」で終わってしまう。つまり「誰かが」または「学校が」やればいいと。決して「自分が」じゃないんですね。これは学生だけでなく、ほとんどの大人も同じですけど。

―主体性を持って、自ら行動を起こす人が少ない、と。

そうなんです。もう、アイデアコンテストはいらないんですよ。プレゼンなどでかっこ良く大風呂敷を広げるよりも、「私は明日から毎日、商店街のゴミを拾います」と言って実行するほうが、はるかに響きます。でも、そういう人は少ない。当事者意識が薄いんですね。

―どうして当事者意識が薄いのでしょうか?

基本的に、とてもリスク回避的なんですよね。失敗を過度に恐れている。自分から動かず、誰かの行動をじっと待っているんです。そんな暇があったら、チャレンジすればいい。どんな失敗も、そこから少しでも学ぶものがあるなら、それは部分的成功ですから。部分的成功を積み上げた先に、世にいう成功がある。むしろ、どのような失敗をしてきたのか。そこの話を聞いてみたいですね。それは行動した証であり、その人だけの財産ですから。

学生に限らず、若い人から「山口は田舎でつまらない」という言葉をよく聞きます。すると僕は必ずこう伝えるんです。「つまらないって言っている、君が一番つまらないよ」と。つまらないなら、面白く創り変えればいいだけ。たった1ミリでもいいから楽しくなるように、当事者意識を持って行動すればいい。そういう人間が1人でも増えていけば、当然、それだけ面白い地域になっていきますよね。

カフェバー入り口の取っ手はバトンの形。「次世代に可能性を繋いでいけるように」との想いを込めている

―ショクバは、当事者意識を育み、行動していく側の人間を育てる場でもあるわけですね。

そうありたいですね。カフェで食を提供しながら、一方で職への人財育成を進め、個性という色を磨き、個人、企業、地域を触発し、目覚めるためのショックを与え続ける。そんな場として、これからも部分的成功を積み重ねながら、ショクバを進化させていきます。

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cafe & barみんなのショクバ

住所/山口市米屋町3-21
営業時間/ 11:00~24:00
定休/水曜日
TEL/083-976-4498
URL/https://shokuba.jp/