慶応元年創業の光浦醸造。創業150年を超える、防府市の老舗醸造所です。こちらでは味噌や醤油など伝統的な調味料の他に、近年あるレモンティーが人気とのこと。一体どういうことなのか、本社兼直売ショップを訪ね、代表の光浦健太郎さんにお話を伺いました。
認知度の低い醸造所だった

光浦醸造工業株式会社の社長、光浦健太郎さん
−光浦醸造は老舗ですが、近年は新たな商品を作り、オンラインで世界に発信されていらっしゃいますよね。それは健太郎さんの代から始められたのですか。
そうですね。僕が光浦醸造を継いだ20年ほど前は、フロートレモンティーはなく、昔から変わらない味噌や醤油を製造していました。
−今の光浦醸造に至るまでに、どういった経緯があったのですか。
振り返ってみると、あの時あれがあったから、という大きなきっかけはなくて、毎日を積み重ねる中で徐々に今の形になりました。
光浦醸造は小さくて、認知度の低い会社だったんです。長くは続いていたけど、地域の人以外誰も知らない。防府市中心部で地場産フェアに出しても、本当に知られていなくてびっくりしました。
−同じ防府市でも、知られていないなんて驚きですね。
当時は取引先の多くが病院、学校、飲食店などで、20kgの味噌や一升瓶の醤油10本など、業務用の製造・配達が主だったんです。誰かの口には入っていても、会社としての名前は表立って出ませんよね。知らず知らずのうちに、業務用の取引先が大きなシェアを占めていて、会社としてリスク分散ができていませんでした。昔は「先代からの付き合いだから」とか「地元の会社だから」という理由で選ばれていたのですが、リーマンショック以降、そうも言っていられない時代になりました。

優しい甘さが特徴の「光うらの麦みそ」。150年続く看板商品
−景気の悪化に人口減少も伴って、味噌や醤油の消費量も減っているのでしょうか。
確かに減ってはいますが、それよりも大手企業の商品を外食や給食産業が使うようになりました。県内では、この20年で半数近くの醸造所がなくなっています。業界全体が下がっていく中で、今さら味噌、醤油などの売り上げを伸ばそうと思っても難しい。
フロートレモンティーが生まれた経緯
−そこで、フロートレモンティーが誕生した訳ですね。
新たに味噌を売ることを考えても、味噌自体はとっくに出来上がっている。味噌づくりは技術的に行き着いているんです。その頃、ピザ用の味噌、アイスにかける醤油といった商品が出てきた。だけどそれって続かないし、伝統的な味噌の文化を台無しにしてしまうと感じたんです。

フロートレモンティー(左)と、ハート形が人気のフロートレモンティーレモンハート(右)
−続けるためには、他のことをするしかない、と。
オンラインショップを始めたのですが、味噌や醤油は安くて重い商品です。商品の価格よりも送料の方が上回ってしまう。それではやっていけないので、軽くて付加価値のあるものを、と考えたのがフロートレモンティーです。
−なぜ、レモンティーだったのでしょう。
ちょうど高校の同級生が乾燥機の会社にいるのですが、そこで食品用乾燥機を見て。これで果実を乾燥させて紅茶を作ったら面白いんじゃないか、と思ったのが始まりですね。

産地別紅茶のレモンティーやグリーンティーにレモンを浮かべるという一風変わった商品も開発
今ではレモンティーがきっかけで光浦醸造を知ったお客さんもいて、味噌の売り上げが伸びています。味噌自体、中身は変えていないのに需要が伸びるなんて、信じられないことです。
ロジカルな味噌作りを伝えたい
−最後に、これからの展望についてお聞かせください。
味噌づくりというと、木桶や菌の話になりがちなのですが、僕はロジカルに味噌作りを捉えたいんです。もっとサイエンスを可視化していくというか。味噌は大豆と麹の比率によって味が変わります。麹は穀物に種麹(たねこうじ)をつけて育てるものなので、穀物の種類によっても変わる。うちの麦味噌は塩分控えめで甘みがあって、旨味は少ないんです。それは大豆より多い麹が一気に大豆のタンパク質を分解してくれるから。そのため、具沢山のお味噌汁に合います。素材の味を引き出してくれるんですね。逆に八丁味噌は麹が少ないため、何年もかけて熟成させる旨味の強い味噌です。だから赤だしの具材には豆腐くらいしか入れませんよね。

カナダのお客さんの意見で完成した「ひよこ豆みそ」。大豆アレルギーの方でも食べられ、洋風料理の隠し味におすすめ
−なるほど、麹と大豆の配合が味噌作りの重要な指標になっていて、味噌によって合う料理が変わるということですね。
これからは麹と大豆の配合を自分で決めて味噌を作れるようなキットを考えたり、味噌作りに関するロジカルな説明を伝えていきたい。味噌を趣味とするハイアマチュアの人が喜ぶような(笑)。自分好みの味噌が作れたら楽しいじゃないですか。

レモンイエローの暖簾が映える本社兼直売ショップ。周りにはレモンの木が植えられている】
自家焙煎のコーヒーや天然酵母のパン作りなど、趣味も多種多様な時代。味噌は古くから農家や一般家庭でも作られていましたが、それをもっと気軽に現代の趣味として楽しむ人が増えるかもしれない。味噌の新たな可能性を信じて進む光浦社長の言葉に、醸造業界の明るい未来を垣間見たようでした。
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} ?>住所|山口県防府市大字台道3532-4
TEL|0835-32-0020
営業時間|10:00〜17:00
定休日|土・日曜日、祝日