扉を開けるとまず目に付くのが、壁に掛かっているオブジェ。使い込まれたトンカチ、定規、ノミ、そしてカンナ……。レストランやカフェなどでは、あまり見かけないものばかりです。 

壁にかかる工具

山口県防府市。航空自衛隊防府地近くの住宅街にある「カンナキッチン」。 

「カンナって、花か、それとも私の名前などからとっていると思われるが多いですね。でも、その鉋(かんな)のことなんです。夫が大工なので、そのおかみである私がやっている店だから」 

そう言って、店主の吉本由美子さんがランチを運んで来てくれました。 

店主の吉本さん
さっそく戴いてみることに。しらすのコロッケ、麻婆なす、里芋とチーズのマッシュポテト……。小鉢などにそっと盛られた品々はどれも上品で、丁寧につくられた食事特有の「優しい味」がしました「女性客が9割」というのも頷けます。 

ランチ
出汁は山口県産の
いりこと、かつお節、昆布から取っています。塩は長門市で採れる天然塩、野菜は地元産が中心です。程よい甘さの味噌汁のお味噌は手作りとのこと。「手を抜けないたちなんです。準備は大変だけど、お客さんにどうしてもいいものを食べていただきたいので」。一品、一品からその思いが伝わってきました。 

自分もお客さんも「喜び」を感じられる仕事

小さい頃から漠然と「喫茶店をやりたいと思っていた」という吉本さん。年ほど前、フードコーディネーターの養成講座を受講したことが、すべての始まりになりました講座修了後、講師から「料理教室をやらないか」と勧められ、広島市内の公民館で1年半に渡って開催。月2回、計40人の受講生にオリジナルのレシピを伝え続けました 

調理中の吉本さん
「講座の最終日に、受講生たちが泣きながら惜しんでくれて。自分のしたことでこれほど喜んでもらっていたのかと驚きました。提供するこちらも嬉しく、相手も喜ぶ。自分にはこうした仕事が向いているのかも」と感じたそうです。
 

その後、創業塾に通って経営などの知識を学びながら、お店の構想を膨らませていきました。
「お金儲けが一番ではなく、お料理でお客さんに喜んでもらうことを目的に」
お客さんを大切家族と思って提供し、ほっとしてもらえるお店にしたい
コンセプト明確にしながら、具体的に準備を進め始めます。 

内観
開業は20176店舗は工務店を経営する俊雄さんの実家をリフォームしました。俊雄さんを中心に、店舗デザインは建築事務所に勤める長男が担当。長女と次男も加わり、家族総出で10月かけて完成させました素材にもこだわり、テーブルなどには山口市徳地の杉を自然乾燥させた天然板を使っています。 

工具

実は、壁に掛かるカンナや金づちなどすべて俊雄さんの父親で大工の棟梁だった博一さんの仕事道具10年ほど前に亡くなった博一さんへの敬意を込めて飾っているそうです。 

そして「大工のおかみ」という背景は、こんなところにも。

箸置き
このカンナの形をした箸置きは、オープン直前に俊雄さんが製作しました吉本さんの家族、歴史、そしていまのお仕事のすべてを物語っているように感じられます 

「感謝のメッセージ」が原動力に 

1年ほど前から、市内の県立病院依頼を受け出産直後の女性へ特別なお食事も届けています。その名も「お祝い膳」。木箱に赤い台紙を敷き、華やかに盛り付けています。 

お祝い膳

お祝い膳(吉本さん提供)

食後、木箱の中に感想を添える女性も少なくありません 

丁寧で絶妙な美味しさ、そしてほっとする味。エネルギーがチャージされる感じでした

とても幸せな気持ちになりました。出産後、こいったお料理を食べる機会がなかったので、とても幸せな気持ちになりました 

メモ用紙やレシートの裏などに綴られた言葉を、吉本さんはすべて大切に保管しています。「こうしたメッセージをいただくのが、私のモチベーション。一番の宝物ですね」 

「2割」の喜びを求めて

レシピの考案、仕入れ、仕込み、調理、盛り付け。好きな仕事とは言っても、「大変だなと思うこともあります」。それでも続けていられるのは、やはりそこに「喜び」があるから。 

「安定っていうのはないと思うんです。休みたいと思っても、いざ休みになると何か仕事をしていないと落ち着かなくなる(笑)。自分で仕事をすれば、そのうち8割は大変なことで埋め尽くされます。でも残りの2割に喜びを感じられるから、こうして毎日歩んでいけるんですよね 

キッチンの中の店主

その2割を求めて、日々食材と向き合い続ける吉本さん。そして生み出される「お客さんを家族のように思って作る、優しい味」。お話を聞いて、静かな住宅街にわざざ足を伸ばすリピーターの方たくさんいる理由も分か気がしました。 

 

カンナキッチン 

住所|山口県防府市田島2324

営業|11:30~17:00

定休|火曜、水曜

TEL|0835-29-1837

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