ガテマラ、メキシコ、インドネシア、タンザニア、マチュピチュ(ペルー)……。ガラスの扉を開けて一歩店内に入ると、国の名前などが記された木箱が整然と並んでいます。 

木箱

それぞれの箱に入っているのは、生のコーヒー豆。その数、約50種類。すべてシングルオリジン。いい豆があると分かったら、飲んでみたくなるんですよね。そうして仕入れているうちに、どんどん増えていったんです」 

山口県岩国市。JR岩国駅近くの「TOMOCOFFEE(トモコーヒー)」。オーナーの繁本智子さんは、コーヒーをドリップしながらそう教えてくれました。 

コーヒーを淹れる繁本さん「インド産は余韻がスパイシーだったり、ベトナム産はどことなくハーブの風味を感じたり。ひとくちにコーヒーといっても、産地によって、豆によって全然違うんです。そうしたそれぞれの個性を、お客さんにも楽しんでもらいたいなと思っています。酸味を避ける人が多いけれど、酸味のなかにうま味もあるんですよ 

赤いカップで運ばれてきたコーヒーは、インド産。ガツンとした酸味の強さは、確かにスパイシーかもしれません。 

インド産のコーヒー

幼稚園児のころからの「コーヒー党」

繁本さんは「幼稚園児のころから飲んでいた」という筋金入りのコーヒー党です。
ゆっくりくつろぐために、わざわざサイフォンをセットしカップを温めたり手順を踏んでコーヒーを飲んでいる大人たちの姿に興味があって。自分もままごと感覚で作って、ワゴンに乗せて運んだりして遊んでいました。私があまりにコーヒーばかり飲むので、心配した母こっそりカフェインレスに変えるほどでした 

中学生で喫茶店行くようになり、高校時代には岩国駅にあった老舗の純喫茶に入り浸っていたそうです。 

短大卒業後、コーヒーの道へ進むことも考えたものの「辛いことやイヤなことがあったら、コーヒーが嫌いになってしまう。だったら趣味のままにしておこう」と決め、公務員に。働きながら、広島の老舗ロースターの元で豆や焙煎についての知識も深めていきました。結婚・出産を機に専業主婦となり、ご主人と定年後、二人でカフェでも開きたいね夢を語り合っていたそうです 

ドリップの様子

「苦労するなら、好きなことで」

その後、想定していなかった事態に見舞われます。ご主人の病気が発覚し2015年に他界。再就職先を探しましたが、当時小学4年生だったお子さんには障害があ、リハビリなどに連れて行く時間が必要でした。そうした時間的な融通の利く職場は見当たりませんでした。それでも、なんとかして生きていかなければなりません。 

自分の働き口くらい自分で何とかしよう
大変な思いをするなら、好きなコーヒーで苦労しよう」 

若いころとはまったく逆の発想が繁本さんの中に芽生えま一度覚悟が決まると、迷いはなくなったそうです。「親からは頭ごなしに反対されましたが、思いが揺らぐことはありませんでした」 

お店のインテリア

自家焙煎の豆販売だけでなく、店内でハンドクラフト教室なども開こうと、興味のあるワークショップには手当たり次第に参加。そうしているうちに人脈が広がっていきました。創業塾などに通って経営の知識を身につけ、20185月にプレオープンします。 

ところが、ここでも予想外の事態が。「有難いことに、あまりに忙しくて……。一人で店を回すのは無理だと気づきました 

お店のショーウィンドウ

一旦店を閉め、スタッフとして働いてくれる友人を見つけるなど体制を整え直して同年7月に本格オープン。コーヒーだけでなく「一期一会スイーツ」とも呼ばれる日替わりのオリジナルケーキやドーナツ、パフェなど好評となり、人気店に。創業前には「飲食をやっているとお客がゼロの日もある」といった話も聞いていたそうですが、「いまのところ経験していない」そうです。 

店内では彫金、銀粘土、篆刻(てんこく)の教室も。取材時には彫金のクラスが開かれ、生徒さんが作品づくりに励んでいました。 

教室の様子

必死にオールを漕ぎながら  

仕事帰りに立ち寄る会社員、家事を終えて夫が帰宅するまでの空き時間をゆっくり楽しむ主婦、早めの夕食後にコーヒーを味わうご夫婦出張や帰省のたびに来てくれる方。んなコアなおさんも少なくないとのことです。 

「自宅のリビングのように生活の一部としてここの空間を使っていただいているようで、嬉しいですね 

もともと、ゆっくりくつろぐ大人たちの姿への憧れから始まったコーヒーとの付き合い。私自身は、波に飲み込まれないように日々必死にオールを漕いでいるだけ。でも、やっぱり好きなことだから、どんな波が来ても乗り越えていくために力を尽くすんだろうと思います 

機械を操作する繁本さん

お話を聞き終えて冷めかけた残りのコーヒーを飲み干す淹れ立てのときの強い酸味が丸みを帯びて優しく感じられました。

「酸味のなかに、うま味もある」。オールを漕ぎ、波を越え続けている繁本さんだからこそ出せる、味わい。それがTOMOCOFFEEの魅力のひとつなのかもしれません。

 

TOMOCOFFEE ROASTER and CRAFTERY 

住所|山口県岩国市元町3丁目1-1 

営業|10:00~19:00 

定休|日曜、月曜

TEL|0827-22-6003

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