「これはフランス、こっちはスペイン。同じイチジク(無花果でも、日本のものとは色も味も、こんなに違うんです。どうぞ、食べてみて下さい 

並べられた数種類のイチジク

右端が日本のイチジク。隣はフランスやスペインなどのもの。色も、味も違う

イチジクにいろんな種類があることも、海外でも栽培されていることも、筆者はこのときまでりませんでした。 

 最も赤色の濃い、スペイン産のもの(左から2つ目)を手にとってみました。
さわやかと言ってもいいほど、あっさりとした甘さ日本のイチジクのような濃厚さはなく、口の中でさらっと溶けていくようでした 

「スーパーで売っているのは日本産の23種類。でもイチジクって、世界中にたくさんあるんですよ」そう話すのは、出穂農園(山口県光市)の出穂大治さん。現在1ヘクタールの農地のうち、70アールでイチジク15種類を育てています。 

出穂夫妻

出穂大治さんと、妻の真奈美さん

家庭菜園にはまって脱サラ、果樹農家へ

「そう言う僕も、農業大で学ぶまで生のイチジクって食べたことなかったんですけど(笑) 

そんな思ってもみないことを打ち明ける大治さんは光市の隣町下松市の出身。工業高校を卒業後、関西の企業に就職。その後地元に戻り、新幹線車両などを手がける大手企業の下請け会社で働いていました。趣味で家庭菜園を始めたところ、自宅で食べるほどなら一通り栽培できるほどに。次第に「農業で生きていきたい」との思いが募り、2011年に退職。山口県立農業大学校(防府市)で1年間、専門知識や技術を学びました。 

木になっている実イチジクを選んだのは「農業大で勧めらたから。何年も家庭菜園を続けているなら、ここでは果樹を学んだらどうかと」。ただ、それまでドライイチジクをバーなどで食べたことがある程度だったそうです始めて見ると「ほんとに種類が豊富で、色もきれい。割ってみるまで分からないドキドキ感も面白くて」 

卒業後、いまの農園の近くにある農業法人で1年間経験を積2013年に独立しました。 

外観
「ブルーエコノミー」で海の資源も活用 

出穂農園は、「ブルーエコノミー」(海洋資源をいかした持続可能な経済活動)を基盤にしていることも大きな特徴です。 

「光市の近海で獲れるイリコや干しエビのクズ(商品にならないもの)、時化のあとに打ち上げられる海藻のアカモクなどを肥やしとして使っています。それらを籾殻(もみがら)とか、細かく砕いた竹なんかと混ぜておくと、発酵していい肥料になるんですよね。近場にあるもので、すべてまかなえています 

化学肥料や農薬は不使用。イチジクの木を食い荒らすカミキリムシは「約350本ある木をすべて見て回り、1匹ずつ手で取っていきます。夏場はこの作業が大変なんですよね」 

収穫した実は、提携している洋菓子店やレストランに卸す以外はほとんどドライイチジクやジャムに加工し、商品化しています。 

ドライイチジク

ドライイチジク

ジャム

白イチジクのジャム

直売所「ノウカショウヒンテン」オープン

20199月には農園内に直売所「ノウカショウヒンテン」も開設。妻の真奈美さんが中心となって、毎週木・金・土曜日、イチジクや無農薬野菜、イチジクジャム、ドライイチジクなどを販売しています。 

店頭ここでしか飲めない特製のイチジクスムージーも好評で、毎週来てくれるお客さんも。冬場は交流のある農家が栽培したジネンジョをベースにしたスープに変わる予定です。 

窓から顔を出している奥さん「お客さんから直接『美味しかったよ』とか、『こんな無農薬野菜を探してたんよ』といった声を聞けるのは、やはり嬉しいですね」真奈美さん 

そうした喜びに加えて、経済的な効果も大きいと大治さんは言います。「小規模農家が生活を維持するには、生産だけでなく、加工、販売まで繋げることが大切だと実感しました。もうひと手間、ふた手間かけることで、運営面で全然違った結果になります」 

「人との縁と信頼関係」がすべて

就農して一番大変だったのは、「農地の確保」とのこと。
独立当初の農地は20アール。働いていた農業法人が地主から借りていた水田契約変更して使い始めました。「ただ、それだけではとても生活できるほどの収量が確保できません。そこから周囲の使われていない農地を少しずつ借りていきました 

しかし、地主が遠方に住んでいたり、所有者が分からなかったりと、簡単ではありませんでした。 

「最後はやっぱり、人との縁なんです。地道に農業を続けて、地域の方と信頼関係を築いていくことで、土地も少しずつ動いていくようになりました。そうした関係性がないときは、いくらこちらが頑張っても何も変わりませんでしたね」 

お店の看板
「これから、癒やしの場に」

新規就農を目指す人には「農業はこうあるべきとか、こうしないといけないとかに縛られず、自分のカラーで勝負したらいい失敗を恐れず、その土地でしか表現できないことに挑戦してほしいと願っています。 

大治さんも来年以降園内を「癒しの場」にしていく計画を温めています
「果樹棚を作って、その下でゆっくりお茶ができるようにしていきたい。キッチンカーに来てもらったり、ピザを出したり。そんな場所に育てていけたら最高ですね」 

農園に立つ夫妻

出穂さん夫妻がこれからどんなカラーの無花果を咲かせるのか、とても楽しみです。

 

出穂農園 

住所|山口県光市束荷2501 

営業|木・金・土曜10:00~17:00(ノウカショウヒンテン)

TEL|0820-50-4330 

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