わずか二畳の茶室は、3人も入るといっぱいになってしまうように見えます。でも、実際になかに座ると、不思議と居心地がいい。過不足のない、すべてが調和した空間にいるような気持ちになってきます。
利休の茶室を再現
「千利休が造ったとされる京都の待庵(たいあん)の間取りを模しています」
山口県岩国市にある茶懐石料理の店「典座(てんぞ)」。代表の村田典敬さんからお話を伺いながら、お抹茶をいただきました。
筆者にとって、茶室でお抹茶をいただくのは初めての経験。そのせいか緊張していたのですが、まあるい茶碗を手のひらで包み、点てていただいたお抹茶をずずずっと飲み干すと、少し気持ちが落ち着いてきました。
「お茶は、その場、その空間を味わい、楽しむもの。その奥深さを体験してもらいたくて、ここを造ったんです」
取材に訪れた日は、2階の広間で勉強会も開かれていました。お店に訪れるお客さんが、茶道をテーマにした映画「日々是好日」を観て興味を持ち、「学びたい」と思ったことから始まったそうです。季節感のある茶懐石料理をいただき、お酒を飲みながら村田さんや華道の先生から日本の伝統文化についてのお話を伺うぜいたくな時間でした。
家元で学んだ「おもてなし」
村田さんが茶道に魅せられたのは高校生のとき。通い始めた茶道の席で、当時80歳近い先生がお茶を点てていたそうです。「半世紀以上にわたって修行を続けてきたその方が、たゆまず学び続けておられる姿に感動しました。この道を、自分も深く学んでみたいと思って」
高校卒業後は京都にある裏千家の専門学校へ。学校以外の時間も料亭で働き、能楽なども学びました。その後も裏千家の家元に4年間住み込み、修行を重ねていきます。
「まったく自由のない毎日で大変でしたが、お茶の真髄を身体で覚える貴重な時間でした。お客様のために考えうる全ての準備を整えて、何も足さない何も引かない、始まれば一期一会の覚悟が茶道のおもてなしなんだということがよく分かりました」
「いつか茶道で独立を」との思いを抱き続けて
25歳で帰省し、税理士事務所などで働き始めます。その間、「いつか数寄屋造りの茶室を建てて、そこで茶道講師として日本文化を伝えていきたい」との思いを温め続け、給料の大半を貯金。茶道具や庭石などを揃えていきます。茶室も図面を何百枚と書き、構想を膨らませていきました。
当初は40代で独立する計画でしたが、子どもたちとの時間を大切にするために延期。ただ、定年後の60代だと残された時間が少なくなるため、「このときしかない」と2016年夏、50歳で開業しました。
「山口にいながら、京都を感じられる空間にしたいので」と、茶室は宮大工の経験もある地元の棟梁に、茶庭は華道の心得のある庭師に手がけてもらっています。

長年の構想のもとに形となった茶庭(村田さん提供)
昼夜3組限定の完全予約制
典座とは、禅の世界で調理を担当する僧のこと。飲食は予約制で昼3組、夜3組のみ。予約制にしているのは、「季節の美味しいものを一番良い状態で提供したい」という思いと、もうひとつ。全てを無駄なく使い切るという禅の思想を背景に、「食材の廃棄をできるかぎりなくす」という目的もあるそうです。

茶懐石料理 (村田さん提供)
いまは飲食がメインですが、これからじわじわと茶道や日本文化を伝える活動も本格化させていくとのこと。茶道具を含めた茶室の利用にも応じています。
「若い方にもぜひ茶道を体験してもらいたいと思っています。堅苦しいイメージだけで避けるのではなく、一度やってみて、興味が持てたらいい先生を見つけて深めていけばいい。気軽に始めてみて下さい。きっと『おもてなし』が自然にできるようになりますよ」
笑みをたやさず、肩の力の抜けた自然体で応じられる村田さんを前に、気がつけば筆者の緊張もすっかり緩んでいました。確かに、こうした和やかな空気で場を満たすことこそが「おもてなし」なのかもしれません。少しでも興味を持たれたら、ぜひ「典座」でその世界に触れてみることをお勧めします。
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} ?>住所|山口県岩国市今津町3丁目13番35号
営業|9:00~22:00(毎週火・水曜日は10:00から15:00まで、予約なしで喫茶もできる)
定休|不定休
TEL|0827-21-6331