白い湯気が立つ鉄瓶を静かに持ち上げて、湯さましにそっとお湯を注ぐ。そのお湯を湯飲みに移し、そして急須へ 

茶を注ぐ

流れるような一連の所作を経て、目の前にお茶がすっと運ばれてきました。 

干し柿

「これは『輝夜(かぐや)』。熊本県人吉市にある茶園で、月のリズムに合わせて摘み取られた茶葉なんです」  

山口県宇部市にある日本茶カフェ「茶宗天地(ちゃそうあめつち)」。オーナーの平中健也さんからお話を伺いながらいただいてみると、味も口あたりもさらりと滑らかで、気持ちもすとんと落ち着いていくようでした。  

日本、台湾など約20種のお茶を用意

「お茶を飲むと気持ちんで、リラックスしてきますよね。興奮や活性化作用があるコーヒーとは真逆なんです。自身もゆっくりとお茶を楽しみながら、平中さんが教えてくれました。 

平中さん

静岡、福岡、熊本、山口、台湾など、お店で扱っているお茶は約20種。高級茶として知られる「筑地東頭(きじとうべっとう)」や台湾の高山茶「阿里山(ありさん)烏龍茶」、6種類の野草をブレンドした「野草茶」まで、実に多様です。 

「お客さんに気分などを聴いて選ぶようにしています。そのときの状態で、欲しくなるお茶はまったく変っていくので」 

平中さんがお茶の世界と出会ったのも、ご自身の状態が大きく関係していました。  

緊急入院後「飲めるのはお茶だけ」だった 

平中さんは宇部市出身。小学校教諭として20年近く勤務していましたが、2017年に激しい腹痛から緊急入院。以前から医師に指摘されていた胆砂(胆石の手前の症状)が原因でした。入院中、仕事のストレスも病気の原因なのではないかと考え、「これを機に、別の生き方を探ろう」と退職を決意。退院後は療養を兼ねて、妻の千恵美さんと2人で旅へ出かけました。 

二人

ただ、胆嚢への負担を避けるために油のある食事はNG。飲み物も、コーヒー豆の油が含まれているために飲めませんでしたそうなると日本茶しか飲めるものがなくて」。ちょうどそのころ、知人から誘われて熊本県人吉市園へ茶摘みの手伝いに行くことに。 

「茶畑にいるだけで気持ち良かったんです。しかもそこで無農薬、有機栽培された茶をいただくと、これがすごく美味しくて。飲んでいると、身体にいいというのが体感として分かるんです」 

ただ、地元山口には同じようなお茶が飲めるところがありませんでした。「だったら、自分たちで創ろう。そしてお茶の美味しさを広めていくことを次の人生にしよう」。お二人の新しい夢が芽吹きはじめました。 

茶道具

お茶の種類や淹れ方などを学びながら、宇部市中心部のアーケード内にあるチャレンジショップ「昭和女子屋台ラボ」で1年間出店。起業や店舗運営についての経験も積み、20195月、自宅2階をリノベーションして開店しました。 

外観

内観

幻のお茶でつくる「茶がゆ」も

窓からは、「キワ・ラ・ビーチ」と呼ばれる遠浅の海岸が一望できます。 

窓からの景色

「ここにくると時間を忘れる」「え、もうこんな時間?」。お客さんから、そんな言葉を聞くことも珍しくないとか
「それだけ日常を忘れてゆっくりされたということでしょう。嬉しいですね」 

お客さんのなかで、少しずつ人気になっているのが「天地茶がゆ」。高知県大豊町だけでつくられ幻のお茶」とも呼ばれる碁石茶で無農薬有機米煮立てたもの。「茶がゆ、懐かしいのぉ」と喜年配のお客さんも少なくないそうです。 

茶がゆ

副菜としてニンジン、ゴボウ、アボガド、レンコン、柿……など自家製のぬか漬や大葉味噌も茶がゆの素朴な風味にぴったりです。 

副菜

「奥深いお茶文化を伝えていきたい」

ペットボトルの商品など、世の中には手軽なドリンクとしてのお茶が出回っています。「年齢を問わず飲まれているのに、自分で丁寧に淹れて、ゆっくり楽しんでいる人は多くない。お茶の幅広く、奥深い世界を気軽に楽しんでもらいながら、美味しい淹れ方などを伝えていけると嬉しいですね」と平中さんは話しています。 

お店から少し歩けば、そこはもう「キワ・ラ・ビーチ」。お茶をいただいて、ゆっくり海辺を散歩するだけで、心身ともにすっかりリフレッシュされました 

キワ・ラビーチ

平中さん提供

 

茶宗天地 

住所|山口県宇部市東岐波251-1 

営業|10:00~17:00

定休|火曜、水曜 

TEL|090-7970-8895