山口県山口市。中心地から少し中国山地寄りに入った仁保地区に、木々に囲まれたお店があります。
「季節の野菜懐石 なないろのんた」
店内も、木の柔らかさが感じられる空間です。
カウンターに座り、運ばれてきたのは上品に小鉢に盛られた品々でした。いただいてみると、素朴でありながら、じんわりと深く染み入ってくるような味わいのものばかり。
「お米は仁保地区で無農薬栽培されたはぜかけ米、お豆腐は山口県産大豆、お味噌汁の麩は無添加で、あんかけのあんには吉野のほんくずを使っています」。代表の松尾美子さんが教えてくれました。
ほかにも、里芋やレンコンの団子、玄米粉などを使ったグラタン、冬柿のソースを掛けた野菜の和え物……食材はすべて無農薬のものばかり。主に仁保地区の生産者から仕入れたもので、シュンギク、ゆずなど約20種は自家栽培。ハチミツ用に養蜂もしています。
デザートは自家製カボチャのプリンと玄米ぽんせん、クッキーのトッピング。懐石料理同様、動物性のものは一切使っていません。
心身が研ぎ澄まされる食事を
徹底したこだわりの背景には、美子さんと母・潤子さんの物語がありました。
美子さんは幼少のころ身体が弱く、ぜんそくで入退院を繰り返していました。母の潤子さんは食生活から改善していこうと考え、無農薬栽培の米や野菜での調理を始めました。

お客さんと談笑する潤子さん
地道な積み重ねが実を結び、16歳の春にぜんそくは治まります。
「ある日、春風に吹かれていたらふっと心がほぐれた瞬間があって。そのときに身体のなかから病気が消えたと感じたんです。きっと、食べものを変えたことで心身が研ぎ澄まされていったんだろうと思います」
その後、美子さんは単身沖縄に移って6年間生活。料理店で働きながら調理の勉強をしていました。まぶしい太陽、冬でも暖かく過ごしやすい気候、そして開放的な人たち。「一生ここに住みたい」と思っていたそうです。
「山口って、すごいところかも」
その間もずっと、潤子さんから送られてくる季節ごとの農産物を食べていました。「それがすごく美味しかったんです。沖縄の人たちに食べてもらっても、みんな『美味しい!』と感動してくれて。山口には何もないってよく聞くけど、本当はすごいところに住んでいたんだ」美子さんのなかで、郷里への新しい認識が芽生えていきました。
「この美味しさ、素晴らしさをずっと食べて生きていきたい。そして、他の人にも伝えていきたい……」。そんな想いを形にしようと、山口へ帰郷。祖父が残した土地に店舗を建て、2007年に開業しました。
リピーターが8割
市街地から離れた立地ながら、ぶれることのない素材への徹底したこだわりが評判に。「こられた方が、お友達を連れてまたいらしてくれて、またその方がお友達を……というふうに、少しずつ広がっていったんです」。コアなファンに愛され続け、いまでは8割がリピーターとのことです。
お料理ともう一つ。店舗の窓から見渡せる堤の景色にも目を奪われます。「お店を建てることが決まって、雑木林を整備したらとても景色が綺麗で。四季の移り変わりを目で楽しみながら、旬の野菜からその季節を体感していただけたら嬉しいですね」
12年間、一貫した思いで調理を続けている美子さん。その芯にあるものは「感謝」だと明かします。「宇宙の営みのなかで、大自然の恩恵として作物が実ります。私はその恩恵と、お客さんとの橋渡しをしているだけ。ただ感謝だけを感じながら、ほとんど無心で作らせていただいています」
緑に囲まれた静かなお店で、感謝を込めて調理された自然の恵みをいただく。これ以上の豊かさってほかにないのかもしれない―。美子さんの穏やかな笑顔とお客さんの幸せそうな表情を見ていると、そんな気持ちになってくるのでした。
執筆時期:2020年1月
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} ?>住所|山口県山口市仁保下郷604-3
営業|12:00~15:00、18:00~21:00(いずれも完全予約制)
TEL|083-927-7770
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