山口県防府市。日本三天神のひとつ、防府天満宮の鳥居から延びる道沿いに、真っ白な壁のレトロな店舗があります。  

「空間茶天」 

外観

扉を開けると、かっちん、かっちんと振り子時計の音が響く一層レトロな空間が広がっていました。 

内観

使い込んだ机のような風合いのテーブルにいて、メニューの中から「からだ想い定食」を注文。運ばれてきたのは、鶏の唐揚げをメーンに、ダイコンや高菜の煮物、里芋の団子、小松菜のサラダなど10品ほどが小鉢に盛られた一品でした。 

定食

いただいてみると、どれも身体にじんわりと馴染んでいくような、素朴で優しい味つけ。ひと口ごとに気持ちも緩んでいくようで、箸の動きも自然とゆっくりになっていきます。その中でも、特に味噌汁には「飲み応え」と言ってもいいほどの深い味わいと力強さを感じました。 

「自家製の米味噌です。すり鉢ですったものをそのまま入れているんですと、店主の横田栄子さん(以下、栄子さん)が教えてくれました。「昔うちで作っていた味噌も、こんなんじゃったと懐かしがってくれる方もいらっしゃいますね」 

聞けば、「自家製」は味噌だけではありません。米も野菜も、自分たちで無農薬栽培したものばかり。塩は県内の海から採れた自然塩を仕入れて使用するなど、調味料もこだわり抜いています。 

横田さん

お客さんと談笑する栄子さん

「安全・安心な環境で育った季節の食材を、化学調味料を使わず、素材の味が十分楽しめるように作っています栄子さん。「からだ想い」という言葉には、そんな意味が込められているようです。 

その想いはデザートにも。この日、定食のセットメニューで出てきたのは、豆乳シフォン、黒ごまくずプリン、米粉の豆腐とメープルシロップのティラミスほぼ植物性の素材作られた自家製スイーツです。コーヒーはオーガニックの豆を自家焙煎しています。 

デザート

食に対する徹底した姿勢を感じますが、「でも、もともとは全然こだわってなかったんです。ここでお店を続けているうちに、段々とね」と明かします 

栄子さんが、夫の弘志さんと100年以上の元旅館を活用してお店を始めたのは17年ほど前。当初は通りに面した一部だけ開放して雑貨を販売していました。すると、レトロな造りに興味を持つ人から「中を見てみたい」という声をたくさん聞くように。 

内観

「だったらコーヒーでも出して、気軽に入ってくつろげる店にしよう」2007年からカレーやケーキなども提供し始めますそのころはまだ、普通に化学調味料を使っていましたね 

お店を続けていく中で環境問題や食の安全性について詳しいお客さんと知り合そうした関連の話を聞くようになりました。そのうちに横田さん夫妻のなかで意識が変わり始めうちでも自分たちが納得のいくものを出そう」と決意します。 

田畑を借りて、弘志さんが米や野菜の無農薬栽培を開始。収穫した作物を、栄子さんが丁寧に調理するといういまのスタイルが回り始めました。「雑草に負けて思うように出来ないもあるけど、それでも『いいもの』を食べていただきたいので」と思いが揺らぐことはありません 

調理具までも自家製

棚には、鉄製のフライパンや動物の形をした蚊取り線香の台などが並んでいます。実はすべて、鋳物会社の職人だった弘志さんが製作したもの。店で使っている調理具さらにコーヒー手回し焙煎器まで家製とのことです。 

フライパン

犬の置物

大切なのは数やスピードではなく、質

「既製の調味料を使えば手短に、たくさんできる。でもそれじゃ、なんのためにこの仕事をしているのか分からなくなるので」 

ただ、時間を掛けて作っても化学調味料で育った世代の人に伝わらないことも。「市販のソースなどは濃すぎて、素材の味を越えてしまう。でもそれが普通になっている人がほとんど。味噌も、大量生産されたサラサラの味噌で育った人には違和感があるようです 

横田さん

それでも、続けていると嬉しいことも。「妊婦さんが来られたんです。その方は産後も赤ちゃんを連れて食べにいらしてくれて。きっとご自宅でもいい素材を使って育てていかれるんだろうと思います。これからも食事を通じて身体のこと、環境のこと、そして地球のことを地道に伝えて行きたいですね 

天神様のふもとで、その願いが静かに広まっています。 

 

空間茶天

住所|山口県防府市上天神町6-17 

営業|11:30~15:30 

定休|木曜、日曜 

TEL|0835-22-0073