山口県山口市の中心部から車で30分ほどの場所に位置する徳地地区。古くから良質な木材がとれ、鎌倉時代には東大寺の再建にも徳地の木材が使われました。そんな自然豊かな徳地でもう一つ、長い歴史をもつのが「徳地和紙」です。 

800年の歴史をもつ徳地和紙

和紙

鎌倉時代から約800年受け継がれている徳地和紙は、山口市の無形文化財でもあります。江戸時代には「防長三白※」の一つとして、請紙制により生産がピークになりました。
その後時代の流れとともに生産量は減っていきましたが、最近では再び徳地和紙を盛り上げようという動きが広がっています。 

※江戸時代に長州藩が特産物として生産を奨励した米、塩、紙のこと。農民は年貢の代わりに紙を漉き、長州藩の財源となっていた。 

山あいに佇む千々松和紙工房へ  

外観

訪れたのは「千々松和紙工房」。こちらでは徳地和紙の製造や販売の他、予約制で紙漉き体験も行なっています。 

千々松さん

千々松和紙工房三代目の千々松友之さん。小さな頃から祖父が紙を漉く姿を間近で見ていた千々松さんにとって、工房は遊び場でした。20代からずっと紙漉きをされていたのかと思いきや、実際に千々松和紙工房を継いだのは数年前とのこと。 

「祖父の代は需要があった紙漉きですが、徐々にそれだけでやっていくのは難しくなって。父は若いとき少し紙漉きをしていましたが、私が物心つく頃にはブロック職人として働きに出ていました。私も一般企業に就職して二十数年、和紙とは関係ない技術系の仕事についていました。紙漉きをするなら、60歳からと思っていましたね」 

転機が訪れたのは千々松さんが40代半ばの頃。 

「当時大阪に住んでいたのですが、結婚して子どもができたと同時に『田舎で子育てがしたい』という思いが芽生えました。ちょうどその頃、母から地域おこし協力隊の募集があると聞いたんです」 

任務内容はズバリ「徳地和紙の技術継承」。それは和紙工房に生まれ育った千々松さんにとって運命的なタイミングでした。
そこから色々な和紙の産地へ研修に行き、紙漉きだけでなく和紙の原料となる楮(こうぞ)の栽培や和紙製品の開発などを行い、現在は地域おこし協力隊の任期を終えて千々松和紙工房を営んでいます。 

徳地和紙を使った様々な商品 

便箋や名刺

徳地手すき和紙で作った半紙や便箋、名刺など。千々松和紙工房の他、徳地特産品販売所「南大門」や徳地和紙専門店「風伝(ことづて)」などでも販売

バッグ

コースターや袱紗、バッグなど新商品も開発中

カード

こちらの素敵な色合いの名刺は防府在住の藍染作家さんとのコラボで生まれたもの。最近では、某リゾートホテルの内装や地元の大学生の製作活動に徳地和紙が使われるなど、山口県内のあちこちで徳地和紙が広がっています。 

徳地和紙の紙すき体験に挑戦!

process1

実際に紙漉きを体験させていただきました!まずは紙の原料である楮の繊維を水中でよく混ぜながら均等に溶かしていきます。途中でトロロアオイという植物の根から作られる粘液を混ぜると、徐々に全体にとろみがついてきました。 

お次は紙漉きといえば、この動作!千々松さんにお手本として流れを何度か繰り返し教わった後、いざ実践! 

process2

最初の初水(しょみず)は少なめに取り、桁(けた)と呼ばれる枠内の簀(す)全体に行き渡らせます。今度は深めに水を取り、桁を前後に動かして水を均等に広げ、好みの厚さになるまで何度か繰り返します。この作業が簡単そうで難しい!なかなか思うようにいかず、はじめは先生の手を借りました。 

process3

好みの厚さになったところで、手首のスナップを効かせながら、ポイっ!と向こう側に余分な水を捨てます。 

process4

簀の水を切った後、台の上に一枚一枚漉いた紙を寸分違わず丁寧に重ねていきます。重なり合う和紙と和紙がくっついてしまいそうですが、大丈夫。 

process5

漉きたての和紙はツルンとしたお豆腐のような滑らかさ! 

今回は4枚漉かせていただきました。一度目より二度、三度、と行ううちに多少慣れてはきますが、少しでも迷いが生じると、それが手先に伝わり漉いている途中に水が寄って波のようなシワが生まれてしまいます。余計なことを考えずに、ただ目の前の紙漉きに集中するというのは、なかなか興味深い時間でした。 

出来上がった和紙

数日後、乾燥が済み、出来上がった和紙が手元に届きました!薄くて柔らかな和紙や少し厚くて硬い和紙、波が入ってしまっているのも、ご愛嬌。自分で漉いた和紙には不思議と愛着が湧いてきます。この和紙をどんな風に使おう?使い道を考えるのもまた一興。 

今回体験した紙漉きは全体の工程のほんの一部。原材料である楮を収穫し、皮をはぎ、水洗や煮沸などいくつもの工程を経て、繊維が和紙になるまでは全体で10日ほどかかるのだそう。地元で楮の栽培から始める和紙作りは、想像するだけでもいかに大変で貴重なものであるかが分かります。 

「徳地和紙を次の世代にも受け継いでもらえるよう、この後に続く人のために道筋を立てていかなければ」 

最後にそう話してくれた千々松さん。歴史ある徳地和紙がこれから、どんな商品に姿を変え進化していくのか、今後の展開が楽しみです。 

 

執筆時期:2020年1月
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千々松和紙工房 

住所|山口県山口市徳地島地613-1

TEL|0835-54-0328 

その他|紙すき体験は要予約。受付期間は4月〜12月中旬。

公式HPはこちら