ハウスの中には、青々とした大きな葉っぱがいっぱい。その下には、まだ青いバナナがたわわに実っています。
ここは山口県光市の山間部。障害者グループホームや就労継続支援施設を運営するNPO法人「森林の里」が運営する農園です。
「これは『包(ほう)』と呼ばれる状態。このなかに、これから大きくなっていく200本以上の実が入っているんです。だんだん葉っぱがめくれていくんですよ」。ハウス内を案内しながら、事務局長の吉田正富さんが教えてくれました。

大きく膨れた「包」。まだバナナの実は見えない

葉っぱがめくれると、中から成長途中の実が姿を表す
ハウスは全部で12棟、計約4500平方メートル。完全無農薬栽培で、1日平均約300本の実を収穫しています。
特殊な技術で、バナナの能力を「覚醒」
南国のイメージが強いバナナ栽培ですが、この地でも十分育っていることに少し驚かされました。
吉田さんによると、その秘密は「凍結解凍覚醒法」という特殊な技法にあるそうです。
「バナナの木の根のなかにある成長細胞にマイナス60度という氷河期に近い環境を疑似体験させて、眠っている能力を開花させます。すると、植えられた土地の気候条件に適合した、強い木に育っていくんです」
吉田さんの義父で、岡山市の農業法人「D&Tファーム」を営む田中節三さんが長年の研究により開発した技術だそうです。

「凍結解凍覚醒法」について説明する吉田さん
真冬にも関わらず、根付き率98%
森林の里では、農福連携事業(農業を通じて、障害者が自信や生きがいをはぐくむこと)として以前からアスパラや玉ねぎをつくっていました。収益性の高さなどを理由に、バナナの苗を植えたのは2018年の12月。冬至や大寒を控えた、植物にとって最も厳しい時期をあえて選んだのには理由があります。
「この時期に植えて育つなら、凍結解凍覚醒法のバナナがどれほど強いのかという証になるので」。結果、781本の苗のうち98%にあたる765本が根付きました。1.5メートルほどだった苗は5メートル以上に成長し、2019年8月末には収穫ができるまでになりました。
無農薬なので、虫の害には細心の注意を払っています。「それでもアブラムシ、ハダニ、ヨトウムシなど、多くの虫がつきます」。吉田さんは施設の利用者たちと一つ一つの木を見て回りながら、虫を手作業で除去していきます。

バナナの木を1本、1本、丹念に見て回り、手作業で虫を撤去する
品質のよさに、プロの料理人が注目
手間暇かけて育てられた安心安全な国産高級バナナ。「ひかりバナナ」と名付けて、地元の農産物直売所などで1本(約200グラム)300円前後で販売しています。
安全性と糖度の高さから、素材にこだわる近隣の飲食店も注目し始めています。すでにコース料理のデザートや、ジェラートの具材として使っているところも。関東のレストランからも引き合いがきているそうです。
森林の里の直売所でも、提携するスイーツ店と開発したバナナチップスやマフィンを販売しています。
吉田さんがいま推しているのは、未成熟な「青バナナ」。タイやインドネシアなどのように、おかずの一つとして食べる習慣を、日本でも広めていきたいと考えています。すでにバナナカレーやバナナシチュー、マーボバナナ、バナナコロッケなどを試作してきました。
「ジャガイモとサトイモ、サツマイモをミックスさせたような味で、何にでも合う。食材として大きな可能性を秘めているんです。これからバナナを使ったレシピ集もつくっていきたい」と話しています。

料理の素材としての需要が望まれる青バナナ
ゴールは「安全な食のネットワークづくり」
吉田さんはすでに、バナナ事業を軌道に乗せた先の世界を見つめています。
「ひかりバナナを成功させて、『うちもやってみよう』と新たに栽培を始める人を増やしたいんです。多くの生産者が工夫して販路を広げるほど、国産バナナが普及し、需要も増えていくので。いまのように生産国ではなく、生産県、生産地域でバナナが選ばれるようにしていくのが目標です」
さらに、バナナを越えた最終的なゴールも描いています。それは、安心・安全な食料を求める消費者と生産者が、信頼関係でつながった「食のネットワーク」をつくること。
「気候変動と人口爆発などにより、これから食糧難の時代が訪れると言われています。そうなる前に、価値観を共有する稲作、酪農、養鶏などさまざまな生産者とつながって、適正な価格で消費者に届ける仕組みを作りたいと思っています。ひかりバナナをスタートに、森林の里をその拠点にしていけたら嬉しいですね」
執筆時期:2020年2月
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} ?>住所|山口県光市塩田1010-1
直売所|山口県光市岩田宮重1517
営業|土曜午前9:00(なくなり次第閉店)
TEL|0820-48-4560