マカロンと聞くと「派手な色の、すごく甘いお菓子」といった印象を持っている人も多いのではないでしょうか。筆者もその一人。正直言うと、そのどぎつさから苦手なお菓子のひとつです。
でも、山口県防府市にある「自然派菓子工房 NeiGe(ネージュ)」でいただいたマカロンは違いました。どちらかというと淡く、地味な色あい。表面はサクッとしていて、中のクリームはふんわりと弾力があります。甘さもほどよく、しつこさはまったくありません。それにどこか懐かしい、大地の味というか、香りというか……。
有機栽培や自然の素材を使用
「それはヨモギです。近くの野山などで採取したものをパウダーにして、混ぜ込んでいます」と、代表の福本将之さん。

福本将之さん
ヨモギ!?
言われてみれば、確かにほんのりとヨモギの風味が。
このほか、カフェ、ミルクティ、チョコ、抹茶の5種が定番。いずれも有機コーヒーや無農薬栽培の紅茶などを使い、甘みは国産のサトウキビ糖で付けているそうです。季節ごとのバリエーションや、卸先のカフェ限定の商品なども扱っています。

定番の5種類。手前右がヨモギ
「マカロンっていうと香りが強いとか、生地がねちょっとしているとか、そんなイメージが強いですよね。でもフランスで食べたマカロンは、ふわっとした食感で、すごく美味しかったんです。それを再現したくて」
そう話ながら、手際よく生地を練りだしていく福本さん。このマカロンは防府天満宮近くの観光案内所「うめてらす」で販売するラズベリー味の一品。ピンク色は紅麹で出しています。
フランスでマカロンを食べ歩き
福本さんは根っからの料理好き。高校時代には自作のお菓子を学校に持って行き、友だちに分けていました。卒業後は料理人を目指し、大阪の調理師専門学校へ。1年間学んだあと、同じ学校のフランス校に留学。現地のフランス料理店でも5カ月間研修しました。
マカロンとの出会いは、その研修期間中に訪れます。
お店の休みの日に、パティスリーを巡っていたところ「おいしいだけじゃなく、日本のマカロンと食感がまったく違っていて。すっかりはまってしまったんです」。小旅行を兼ねて様々な街を訪れ、気がつけば30店以上を食べ歩いていたそうです。
帰国後は横浜のレストランに就職したものの「地元で働きたい」との思いが募り、半年後にUターン。防府市や山口市の飲食店での仕事を探し始めます。その傍ら、マカロンやクッキーなどの焼き菓子を知人にあげていたところ評判に。「お金を払うから、また作って」と求められるようになりました。
「それなら、きちんと独立してやってみよう」と2019年2月、マンションの一室を借りて21歳で起業。当初はパウンドケーキなど焼き菓子全般を作っていましたが、「フランスで食べた、あのマカロンを広めたい」との思いが強くなり、同年6月からマカロン1本に絞ります。
試行錯誤を繰り返して、本場の味を再現
ただ、「あの味」は簡単に再現できませんでした。
「どうしたらフランスのマカロンに近づけるか分からなくて」。専門書を読んだり、動画を見たりしながら試行錯誤を繰り返す日々が続きます。数カ月間失敗を重ねるなかで、混ぜ加減やタイミングといった微妙な感覚が少しずつ身に付いていったといいます。
現在、同市内のカフェなどのほか、山口市のコーヒー専門店やレストラン、下松市の温浴施設などにも卸しています。福本さん自身は店舗を持っていません。「扱っているお店に行ってもらえるなら、そのお店にとっても喜ばしいことですから」
ホームページ(HP)を通じてインターネットでも販売。大阪など、遠方からの注文も増えてきています。HP限定として、エビやチーズを使った「おつまみマカロン」も。「ワインに合う」と好評とのことです。県内外のイベントにも積極的に出向き、1月末に参加した京都での物産展では2日間で約300個が売れたそうです。

おつまみマカロン。甘じょっぱさが特徴(福本さん提供)
「お店はないけど、すべて見せています」
動画投稿サイト「ユーチューブ」にもチャンネルを開設(「ネージュ マカロンのピエ」チャンネルはこちら)。そこでは、マカロンの素材から分量、作り方まですべてを公開しています。
「お店を持っていても、店頭で見せているのはいいところだけ。裏でどんな素材を使っているのか分かりません。でも僕はどんなものを、どの程度使っているのか、フルオープンにしています。隠す必要がまったくないんですよね。お店はなくても、全部見せています」
雪のように、まっさらな素材だけで
そうした福本さんの素材へのこだわりは、高校時代から。食べ物の裏事情について詳しい人から話を聞いて興味を持ち、本を読んで学んでいきました。「添加物は自分だけじゃなく、蓄積されたものが子どもや孫の世代にどんな影響を及ぼすのか、まだ分かっていません。そんなものは食べたくないし、お客さんにも提供したくないですから」

「素材にはこだわり続けていきたい」と話す福本さん
Neigeは、フランス語で「雪」。
「マカロンの、雪のようにふんわりとした食感。そして、余計なものを加えていない無添加マカロンの世界が、真っ白な雪のイメージにぴったりだったんです」と明かします。
まだ起業して1年がたったばかり。「まずはいい素材をつかった、美味しいマカロンを地道に広めていきたい。そのマカロンを入り口にして、食の安全についても何らかの方法で伝えていけたら嬉しいですね」と話しています。
執筆時期:2020年2月
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