萩市の飲食店が集まるエリアの片隅に、あたたかな提灯の光が見えました。提灯には、「萩侍」の文字。ガラガラと扉を開けるとシックな内装にカウンター席、着物を着た店主の姿があります。そして、食欲をそそるお好み焼きのいい香り。 

広島県三原市が誇るオリジナルのお好み焼き

オススメは?と尋ねるとまずはスタンダードお好み焼きの侍焼を試してほしいとのこと。 

お好み焼き

豚・たまご・そばのシンプルな「侍焼」に、鰹節・ネギ・海苔の「侍トッピング」を追加

他にも毛利焼大名焼など、鮮烈な名前のメニューの数々。トッピングのメニューも多く、お気に入りの組み合わせを決めている常連さんも多いのだとか。
お好み焼きのこだわりは広島県のものを扱うこと。というのもこちらの店主・中元さんは広島県三原市の出身。ここでは広島のものを楽しんでほしいという想いから、お酒やジュースは広島のものが並んでいるのです。麺は尾道の製麺所から取り寄せ。唐辛子が練りこまれているという辛麺も人気です。ソースはおたふくソースとは違った風味をもつ、地元三原のテングソースを使用。どちらもクセになる味わいです。 

手元

店主が手際よく焼くところを見ながら楽しみに待つ

「侍 仕事」と検索を続けた先に出会った場所

なぜこれほどまでに侍にこだわっているのか。着物を着ている理由も気になります。
「はじめて侍の格好をしたのは、22歳の頃。高校卒業後、地元の工場勤務のサラリーマンをしていたんですが、ちょうど武将隊が流行っていて、いいなと思って。侍 仕事とネットで検索してみると、宮島で『宮島侍』の募集を知ったんです。休日の活動として、そこに参加するようになったのが始まりでした」 

一方、職場では人間関係の折り合いがつかず、転職を考えている時期。旅行で京都を訪れると、久しぶりに再会した友人が人力車の仕事をしているということで、話を聞いているうちに興味を持つように。中元さんは、新たな仕事として宮島で人力車を引き始めます。
「でも、実際にやってみて、自分には合わないことがわかりました。基本的に人見知りなので、キャッチをすることが苦手だったんです」 

店主

シャイで寡黙な店主。黙々とお好み焼きを焼く

再びネットで侍の求人を探していると、山口県萩市がヒット。「若者が集まる場所があるから」と紹介を受け、萩のバー「coen.コエン」を訪れました。そこで「侍になりたくて来たんです」と話をすると、偶然にも侍の事業の関係者の方を紹介してもらえることになりました。 

トントン拍子で話は進み、中元さんは萩で3ヶ月間限定の侍として活動することを決めました。
「萩では家も借り、毎晩のようにcoen.に通ったことで萩のいいところも悪いところも見ることができました。でも、侍の格好をするだけでは、何もできないなと思ったんです。今思えば、自分に能力がないせいなんですけど、当時は早く帰りたいなという気持ちになってしまって…… 

侍になるために選んだ仕事と場所  

萩での契約期間が終え、地元でバイトの掛け持ちをする日々。ふと、行きつけのお好み焼き屋に行った際に「お好み焼き屋やったら?」と声をかけてもらいました。サラリーマンのように働くのは向いていない、侍として何か仕事をしたいと考えていた中元さんでしたが、お好み焼き屋さんだったら侍の格好ができる!と考え、そのまま修行をさせてもらうことになりました。  

修行を開始して1年半が経った2016年のはじめ頃、お店作りに乗り出すことを決めた中元さん。複数の選択肢の中で選んだのが萩でした。
「根拠はなかったんですが、知り合いもいるし、なんとかなるかなと思ったんです」  

好奇心が生んだ苦労と独自のこだわり 

知り合いの方の紹介もあって、早々に物件を見つけることができた中元さん。201611月、めでたくお店をオープンさせました。
「すごく分かりにくいお店でも人は入るのか、試してみたい気持ちがあったんです」
そんな興味に誘われ、戦略的に露出を減らしていましたが、結果的に苦労を生むこととなります。 

まず、お店にはなかなか人が入ってこないため、2ヶ月後には窓ガラスを店内が見えるものに変更。暖簾もオーダーして作ってもらいました。7ヶ月後、メニューを徐々に増やすようになりましたが、時すでに遅し。
「最初は手際が悪いだろうからメニューは少なめで、と思っていましたが、すでにメニューが少ないお店というイメージがついてしまっていたんです。宣伝をするタイミングも失ってしまっていたし、イメージを崩すのに2年近くかかってしまいました。これがオープンしてから一番大変なことだったかな」
その後も、お店の営業時間を夜のみに絞るなど、試行錯誤を重ねる日々でした。 

焼きそば

今では一品物も充実。そばのみを焼いた「素そば」はソースの味わいがダイレクトに伝わってクセになる!

あくまで侍として生きていく 

侍としてのこだわりは?と尋ねると、
「侍は一見奇抜ですが、エンターテイメントには走りたくないんです。エンターテイメントに走ったら、観光の方は喜ぶかもしれないけど、地元の常連さんは離れていっちゃうんじゃないかなって。お好み焼きって本来庶民の食べ物で、肩肘張って食べるものでもないから、なるべく普通のお店にしたいんです」 

実はしゃべるのが苦手だという中元さん。そっとしておいてくれるお店が好きだという理由から、基本的にお客さんには話しかけず、距離を保つようにしているのだといいます。お客さんからは、一人でも落ち着いて入れる!と言ってもらえることもあるのだそう。 

今後の展開はどのように考えているのでしょうか。
目標とか聞かれることも多いんですけど、そんなになくて。自分はあくまで侍がメイン。だからこのお店は細く長く続けていけたらいいなと思っています」 

店主

侍という一見突飛な格好でも、芯を持って、自分の在り方を貫いている中元さん。その姿勢こがまさに侍なのでは、と感じさせられるお話でした。 

 

萩侍

住所|山口県萩市大字吉田町76 

営業時間|18:00~25:00(日曜のみ24:00) 

定休日|月曜+不定休 

Twitterアカウントはこちら

Instagramアカウントはこちら  

 

執筆時期:2020年3月
※本記事の情報は執筆時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接各スポットへお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。