ソウルフードの漬け物、住民に愛されるおまんじゅう、特産品とはちみつを合せたジャム……。山口県山口市の南部地域で、これまでに70件を超える商品開発に携わってきた西倉慎顕(みつてる)さん。地域おこし協力隊として2015年に赴任し、3年間の任期後も「食の身近な相談所」を立ち上げて活動を続けています。

「僕はただの裏方。生産者や加工業者の方など、この地域で仕事を続けてきた皆さんに輝いてほしいだけですから」。そう謙虚に語る西倉さんに、地域活性化への想いなどを聞いてみました。

男性

西倉慎顕さん

「記憶に残らない仕事」をしたい

―「食の身近な相談所」では、具体的にどういう仕事をされているのでしょう?

これ、何をしているのか分かりにくいですよね(笑)。敢えて曖昧なネーミングにしているんです。というのも僕はあくまで裏方ですから。地域でずっと暮らしてきた生産者や加工業者の方を輝かせるのが僕の仕事であって、僕自身が記憶に残る必要はありません。なのでロゴマークも、ホームページも作っていないのです。

―地域の方を輝かせる。新しい商品をつくったり、昔ながらの食品を復活させたりということも、すべてそこを目指しているのでしょうか?

そうですね。商品開発はどうしても目立つので、そこだけがクローズアップされがちです。でも僕が本質的にしていることは、心の部分なんです。潜在的なヒーローを顕在化していくというか。こういうと、さらに分かりにくいかも知れませんが……。

―心の部分?潜在的なヒーロー?

まず、心のことからお話しますね。
新しい商品とか、パッケージとかよりも大切なのは、そこに心が込められていることなんです。そうでないと消費者に響かないし、長続きしません。なので必ず価値観や理念といった本質をしっかり固めた上で、商品づくりを進めていきます。

パソコン

―なるほど。単に新しい商品をつくるのが目的ではなく、その商品の背景にある想いをしっかりと掘り下げていくということですね。

その通りです。都市部の大企業ならともかく、地方では多くの場合、価値観や理念などを意識することなく「昔からやってきたから」という感じで活動を続けていらっしゃいます。

物が少ない時代はそれでもやっていけたのですが、物が溢れている現代においては、消費者から選ばれる理由がないと徐々に先細りしていきます。だから、まずは徹底してお話をお聞きしながら、その方が仕事を通じて本当に求めているものは何なのかを一緒に探っていくのです。

答えは現場にしかない

―起爆剤のような斬新なアイデアで活性化を試みる、よく聞くコンサルティングの手法とは真逆のように感じますね。

そうかもしれません。僕はこちらのアイデアを押しつけたり、説得して動いてもらったりというようなことは絶対にしたくありません。なぜなら、答えは僕のなかにあるのではなく、現場にしかないので。だからこそ何度も現場に出向き、そこで頑張ってこられた方を尊重し、時間を掛けてお話を聞き続けるのです。

ヒアリング

生産者の元を何度も訪ね、真剣に話を聞く(西倉さん提供)

そのうちに何に困っていて、どうしていきたいのかが見えてきます。そのようにして互いに信頼関係を築くことが最も大切なのです。そもそも信頼関係がない相手には、誰だって本当のことを打ち明けたりしないでしょう。

そして価値観や理念、課題などが明確になれば、心と心を繋いでいくことも可能になります。

外から何かを持ち込む必要はない

―心と心を繋ぐ?

秋穂(あいお)や阿知須(あじす)といった山口市南部地域には素晴しい生産者、加工業者の方がいらっしゃいます。そうした皆さんが価値観や理念の部分で繋がっていけば、応援しあう仲間になっていけるのです。そんな輪が地域内で増えるなら、それだけ地域全体が活性化していきます。外から何か持ち込まなくても、新しい輝きが生まれるのです。

―分かる気がします。かつて取材させていただいた「秋穂まんじゅう」の渡壁沙織さん(記事はこちら)は、地域でずっと愛されてきた素朴なお菓子を途絶えさせたくないという一心で、伝統の味を受け継いでおられました。まだ20代と若いのに、地域への揺るぎない愛着が感じられて、黙々と仕事に打ち込まれている姿がとても印象的でした。

渡壁さん

秋穂まんじゅうを継承した渡壁さん

そうですね。菓子職人として東京からUターンした渡壁さんと、長い歴史のある「秋穂まんじゅう」を作り続けてきた老舗の方。そして、「秋穂まんじゅう」に寄せる地域の皆さんの愛情がきれいに繋がりました。阿知須のソウルフードの「寒漬」を継承された「あぐりてらす阿知須」の長尾さん(記事はこちら)や、お義父さんの養蜂を受けついでトマトジャムなどを開発された「久保養蜂場」さん(記事はこちら)も、価値観や理念をしっかり持たれて、もともとあるものを新しく蘇らせた好例ですね。

そのようにして出来上がった優れた商品と、その背景にある生産者の想いを僕が仲介して、地域住民や行政、メディアなどに効果的に伝えるのも僕の大切な役割です。

地域活性化とは、人の活性化

―ああ、分かってきました。事業者の郷土への想いを形にし、しっかり伝えていくこと。そのすべてが「潜在的なヒーローを顕在化する」プロセスなのですね。

そうなんです。そんな潜在的なヒーローが、この地域には本当にたくさんいらっしゃいます。そうした方たちが秘めた輝きを放ちはじめるなら、地域は必ず活性化します。なぜなら地域活性化とは、その土地の人たちを活性化することに他ならないですから。

―地域活性化は、その土地の人の活性化。言われてみたら、確かにそうですね。

僕は地域も一つの企業だと考えています。
ヒーローを顕在化させて、輝きのある特産品などが増えていくと、住民の皆さんのなかに地域への愛着や愛情が自然と芽生えていきます。そうなれば、自発的に自分の地域に誇りを持って、外にもアピールするようになります。そんな土壌をつくっていくことが、僕の仕事の本質的な役割だと考えています。

プレゼン

プレゼンテーションをする西倉さん(西倉さん提供)

―自発的、というところが大切なのでしょうね。

そうですね。トップダウンや、外部から立派なアイデアを持ってきても長続きしません。それでは地域の方が受動的になってしまうからです。

―やらされている、という感覚だから?

ええ。言われたから仕方なくやっているだけですから。それでは人は活性化しません。人が活性化していないのに、地域が活性化するはずありませんよね。

すべての基本は信頼関係

―協力隊を含めて5年目。隊員時代と比べて、仕事に変化はありますか?

独立後も隊員時代の繋がりでお仕事をさせていただいているので、大きな変化はありません。ただ、最近は山口市の南部地域以外からもお話をいただくようになりました。しかも商品開発ではなくて、自治会の課題解決や、朝市の活性化といった内容です。

―まさに人の活性化ですね。

そうですね。対象が違うように見えても、本質は変わりません。信頼関係を築き、価値観や理念を掘り下げていく。そして心を繋げていくだけです。

男性

道の駅あいおで、地域の魅力について語る西倉さん

「地域愛のはぐくみ」に貢献し続けたい

―最後に、西倉さん自身の最終的な目標があれば、教えてください。

地域愛のはぐくみに貢献し続けていくことですね。
これからは、地域内に点在する各分野のリーダー的存在の方たちを繋げていきたいと思っています。小さなグループが点としてバラバラに活動を続けても何も生まれないので。

価値観を共有してネットワークを形成し、面として活動していく。そうすれば、その活動を通じてリーダー以外の人たちも活性化していきます。たとえリーダーがいなくなっても価値観は生き続けるので、活動が立ち消えになることもありません。そんな地域の魂が永続していく環境をつくっていくお手伝いができたら嬉しいですね。

 

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【西倉慎顕さん】
奈良県出身。山口大学農学部で応用微生物学を専攻。卒業後、三重県にある総合食品メーカーで、たれやつゆの研究・開発に携わる。その経験と知見を活かし、2015年から山口市の地域おこし協力隊に。農漁業者や加工業者らでつくる「山口市南部地域特産品開発会議」の一員として、商品開発を通じた地域ブランド形成に尽力。2018年に独立し、同市秋穂に「食の身近な相談所」を開設。同地域を拠点に活動を続けている。

 

執筆時期:2020年3月
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