「せときらら」という小麦をご存知ですか。山口県の奨励品種で、県内では学校給食のパンに100%使用されています。地元産の小麦で給食のパンを作っているのは、全国47都道府県中なんと北海道と山口県だけなんです。 

周南市三丘地区の「三丘文庫」 

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そんな「せときらら」を使って、パンを焼いているお店があると聞き、訪れたのは山口県周南市「三丘(みつお)文庫」。パンなのに、「文庫」って……? 

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店内に入ると、壁際に本棚が並び、右手にはステージに音響設備、とパン屋さんには見えない雰囲気です。 

「今日はオープンと同時にお客さんが多く来られて、パンが残りわずかとなってしまいました」
そう話すのは三丘文庫のオーナー、徳永豊さんです。 

三丘文庫のはじまり

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以前は周南市の市職員として勤めていた徳永さんは、2019年、実家の酒屋を改装して「三丘文庫」をオープンしました。 

パンとの出会いは1995年にまで遡ります。
当時、地元の方々から「加工場を使って、自分たちでパンを作りたい」という要望を受け、山口大学農学部の高橋肇教授にパン作りについて相談をしたことがきっかけでした。「どうせやるなら国産小麦で」と、土地に合った小麦を見つけるため、様々な品種を実際に栽培し、数年にわたり研究を続けたのだそう。
そんな「国産小麦でのパン作り」はいつのまにか徳永さんと高橋教授のライフワークに。そして、2003年にパン教室「三丘パン研究会」を結成。 

「今では北海道から九州まで、約250名の会員が在籍しています。月に一度の研究会には大体20名前後が集まるんですよ」と徳永さん。
2020年3月には167回目の研究会を数えるまでに成長しました。 

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パンの販売日には、10〜15種類が並ぶ(写真提供:三丘文庫)

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左からくるみとレーズンパン、ミルクパン、桜あんぱん。一番人気は「三丘」印の食パン

三丘文庫のバックヤードへ 

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工房には、大きな石窯があります。 

「パンは妻が作り、僕はもっぱら窯番です。今回は2人で準備から2日かけて約240個のパンを焼きました。オーブンと違って温度管理が難しいのですが、石窯で焼くパンにしか出せない味わいがあるんですよね」 

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石窯パンには独特の風合いがあります。どのパンも口に含むと小麦の香りが広がり、毎日食べたくなるような、素朴でやさしい味わい。桜あんぱんの中には、桜あんがぎっしり詰まっていました。 

畑

三丘文庫の裏には、無農薬せときららの小麦畑が広がります。昨年11月に地元の三丘小学校の児童にも手伝ってもらい、種まきをしたのだそう。 

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「この黄色いのが麦の花なんですよ。花が咲いて約40日後が収穫の目安です 

麦ってこんな花を咲かせるんですね、と驚いていると、 

「ここをガシガシとかじってみてください」 

言われるがまま、差し出された麦の下の方を噛んでみると、甘い!じわじわとほんのり甘い汁が出てくるようです。 

「この糖分が根から穂まで上がると、美味しい小麦になるんです。収穫後は逆さまにして天日に干す『はぜかけ』を行なっています」と徳永さん。 

三丘文庫での音楽会 

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退職する直前の3年間、徳永さんは中央図書館の館長を務めました。「三丘文庫」の由来もそこから。在職中は、本だけでなく音楽好きが高じ「図書館と音楽」を企画。閉館後の図書館に音楽家を呼んで開催する無料の音楽会です。徐々に人気が高まり、最後は開催発表と同時にチケットの予約がいっぱいになるほどに。 

「三丘文庫でもコンサートや落語、フラメンコなど月一のペースで面白いことをやっています」 

それで店内には立派な音響設備が整っているのですね。壁にはこれまでの出演者のサインが飾ってあります。 

「遠くまで行かなくても、お年寄りや子ども達が歩ける距離に音楽や落語を聞けるスペースがあったらいいなぁ、と思って。これまでの繋がりから色々なゲストを呼んでいるんですよ」 

ずっと子どもがいるまちプロジェクト 

三丘では、みんなで地域の子ども達を育てるための『ずっと子どもがいるまちプロジェクト※』を行なっています。徳永さんは環境部会の部会長。2018年には小高い場所にある「三丘ゆめ広場」にみんなで「学びの椅子」を作りました。 

※プロジェクトに関わる記事はこちら

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広場には高さ約4メートルの巨大な椅子やブランコ

「インパクトがあるものを作りたかったんです。三丘小学校の林から樹齢50年のヒノキを切り出して使っています。子ども達は丸太の皮むきを手伝ってくれました」 

今では地元の方々だけでなく、観光客も訪れる人気スポットになっています。 

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目の前に広がるのは、三丘地区の町並みと田園風景

「せときららという小麦を県外の人にも多く知ってもらいたい。三丘文庫という拠点ができたので、ここから面白いことを仕掛けていきますよ。僕たちの活動を次世代に繋いでいけたら嬉しいですね」 

心地よい風に吹かれながらパンをかじると、徳永さんをはじめ、三丘地区を愛する人々の温かい気持ちを思い返し、心がいっぱいになりました。 

 

執筆時期:2020年4月
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三丘文庫 

住所|山口県周南市小松原1722-3 

TEL|0833-91-0320 

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