新型コロナウイルスによる影響から営業自粛に追い込まれた飲食店。まだオープンして間もないお店にとって、そのダメージは計り知れないものがあったはずです。昨年(2019年)夏、山口県周南市に開店したばかりのカフェバー「徳山夜喫茶 雫」も、そのひとつ。未曾有の事態を、経営者はどう乗り越え、今後をどう見据えているのか……。お店運営する事業グループSizuku Group池脇信一代表31に、現状やこれからについて聞きました。 

建物

徳山夜喫茶 雫

―新型コロナウイルスによる営業自粛などで大変だったことと察しますが、お店にはどんな影響がありましたか? 

緊急事態宣言が全国に拡大される半月前4月1日から休業に入りました。うちは店内が狭く、どうしてもお客さん同士が密になってしまうので、早めに踏み切ったんですね。ただ、いつになれば従来通りのイートインが再開できるのか。その見通しが立たなかったのは問題でした。 

張り紙

店のドアには、イートイン休止中のお知らせが貼られている

―休業中、経営的にはどういう対策をとられたのでしょう? 

後手に回ってはまずいと考えて、テークアウトができる体制を整えました。イートインで人気だったガトーショコラを販売するため、店内に加工所を増設して菓子製造の免許を取得。商品を受け渡す窓口も新設しました。スイーツとソフトドリンクのテークアウトのみのお店に業態変更してゴールデンウイーク明けにリニューアルオープンさせたんです 

人気のガトーショコラで再起を図る 

―反応はいかがでしたか? 

発売2週間で約200が売れていきました。これはイートインのころの倍以上のペース。とても有難く感じています。一方で、カクテルなど酒類が出せないため、売上げはマイナスとなっています。今後、通信販売などを含めてガトーショコラをさらに発信していくつもりです。イートイン8月から再開する予定です新型コロナウイルスはこれからも流行と収束を繰り返すでしょうから、どちらに転んでも対応できる体制を整えていかねばならないと考えているところです。 

ケーキ

人気のガトーショコラ。黒と、白の2種類がある

―お聞きしていると、ニュースなどで報道されているような「どうしようもない状況まで追い込まれている」といった印象とは違いますね。 

もちろん、大変です。でも、下を向いている暇はありませんから。どんな状況になろうと、知恵を絞っやり抜いていくしかありませ実を言うとぼくの場合、こうした状況になったことで逆にどんどんエネルギーが湧いてきている感じなんです。 

「ここで立ち止まるわけにいかない」  

―この状況で、「逆にエネルギーが湧いてくる」と? 

そうなんです。それはきっと、このお店僕にとって将来的にやっていきたいことを形にするための基盤だからでしょう。この先にまだまだ実現したいことがある。だから、コロナで立ち止まっているわけにいかないのです。 

―実現していきたいこととは?  

この街に暮らす女性や、若者たちの才能を開花させること。そのための教育的なプラットフォームを整えることです。なのでこのお店も、地域の女性が一人でくつろげるバーとして設計しています。 

―女性を対象にしている理由はなんですか? 

女性が元気になれば、家庭が明るくなります。そうなればその家庭の男性も元気になり、やがて街全体、社会全体の活力へと繋がってきますよね。ということは、女性は社会の活力の源なんです。だからこそ、まずは女性が癒される場提供しよう考え、このお店をオープンさせました。 

窓口

新設したテークアウト窓口。取材中も女性が買い求めていた

女性のポテンシャルを社会に還元するために

―「まずは女性を元気に」と考えるようになったきっかけは何ですか? 

学生のころ、バングラディシュのグラミン銀行の活動について研究したことがベースにありますね。グラミン銀行は小さな事業を始めたいと願う人に無担保で少額の融資を行い、多くの起業家を生んでいるのですが、融資対象の大部分は女性。なぜかというと、女性は子どもを養うために必死に働くから。男性よりも目の前の生活というものに真っ正面から向き合傾向があるからなんです。そうしたことを学んで僕が感じたのは、日本においても、女性特有の誠意と優しさと愛情を地域経済の活力とする仕組みれないかな、ということでした。 

一方で、日本では「女性は家庭に入り、男性せて生きていく」という古い慣習が根強く残っています。それは女性に強いられた負の文化でもありますが、視点を変えてみると別の一面が見えてきたんです。それは、なぜ女性にはそうした生き方ができるのかということ。その理由は明白で、男性に比べて女性がオープンマインドだから。つまり、柔軟性に富んでいるんですね。そこにぼくは、女性だからこそのポテンシャルを感じているんです。  

―そのポテンシャルを伸ばすために、教育的なプラットフォームを創っていきたいということですね。 

ええ。いまの資本主義社会のなかで、野心をむき出しにしながらお金を稼ぎ、世間から「成功者」と呼ばれる人がどれだけ増えても、世の中は良くなっていかない。むしろ格差が広がり、どんどんおかしな方向に流れてい……。おそらくほとんどの人がそう感じているのではないでしょうか。 

資本主義も野心も、否定するわけではないんですが、これからはそれだけでは不十分ではないでしょうか。そこで鍵となるが、子を思うように未来を考える母性ではないかと考えています母性を基盤に、柔軟性や誠実さなどを兼ね備えた女性たち自らの才能を発揮していくなら、社会の方向性を変えられるんじゃないか。より良い未来を創っていけるんじゃないか。だからこそ、経営的な知識や社会の動向を見抜く知恵が身につけられる教育の場を提供したいのです 

サステナブルな経済活動のための、本質的な学びの場が必要

―通常の女性向け起業塾のようなものでは、カバーできない部分があるということでしょうか? 

事業計画の作成など、起業するまでの基礎をサポートする場はありますよね。
でも、事業を維持し、発展させていくためには、地域ニーズをどう汲み上げ、サービスとして形にしていくのか。事業をいかに軌道に乗せ、継続していくのか。そのための市場調査ロジカルシンキングの能力が不可欠となります。でも、そうした能力を鍛えるプログラムほとんどありません。スタートアップやプレゼンなどでいくら魅力的なことを言えても、時代の変化についていけなければ続けていけないのです 

―それは女性に限らず、事業をしている人全般に必要な要素でもありますね。 

そう思います。公的なサポートは一過性ものが多いでも、事業を継続していくためには、生き抜く力をしっかり身に付けて、地域に貢献し続ける人材を育てる本質的な教育の仕組みというものが欠かせないと思います。サステナブル(持続可能)な能力を持った事業者が増えて初めて、地域の幸福度も上がっていくはずですから 

―池脇さん自身、グループ内の企画事務所「Sizuku Production」の業務として起業や事業支援のコンサルタント的な仕事を手がけていますよね。そうした経験を踏まえて、教育的なプラットフォームをこれからどのように整備していきますか? 

具体的な形はまだ練っている最中です。
の周りには、社会問題の解決を目指している起業家の友だち何人かます。その中の一人は、アメリカのシリコンバレーAI(人工知能)関連企業経営しています。有難いことに、そうした世界規模で活躍している人たちと一緒に、様々なプロジェクトの立ち上げ関わらせていただいています。このような経験を、いずれ何らかの形で地域に還元していきたいと考えています。 

人

女性が活躍する社会について語る池脇さん

大河の一滴として消えていくとしても 

―コロナ禍にあってもまったく下を向いていない池脇さんですが、最終的に「Sizuku Group」として目指しているゴールがあれば、教えてください。 

次世代の糧になることです
どんな大河も、最初は小さな一滴のから始まります。高地にある水源地から流れ落ちた一滴が集まって、せせらぎから小川へ、大河から海へと流れていく。最後は蒸発して、また雨となって水源地へ還っていきます。  

んなの循環と同じように、社会の流れを創っていきたいと考えています。やがて自分たちは消えていくとしても、次の世代の何らかのきっかけとなれるなら……。自分の命を、そんなふうに使っていけたら嬉しいですね。 

 

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池脇信一さん 

高知県出身。東京の大学卒業後、山口県に移住。介護施設、農業法人などへの勤務を経て、2018に起業。学生時代の友人たちを呼び寄せ、事業グループ「Sizuku Group」を立ち上げる。現在、映像制作事務所Sizuku Films、企画事務所Sizuku Production徳山夜喫茶 雫」の事業がある。周南市在住。 

 

 

執筆時期:2020年6月
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