弾力のある食感と、豊かな甘み。どう考えても、美味しい挽肉そのものです。
実はこれ、豆腐が原料の代替肉の一種。もしそう言われなければ、きっと分かりません。
そのものずばり、「TOFU MEAT」(トーフミート)と名付けられたこの商品。山口県宇部市にある「山口健康豆腐のなかみち屋」が昨年(2019年)、開発しました。麻婆豆腐や担々麺などの具材としてミンチと何ら変わりなく使えることから、菜食中心の人たちのなかでじわじわと注目を集めています。

汁なし担々麺にトッピングされたトーフミート(なかみち屋提供)
徹底したこだわりが生む、生搾り製法の豆腐
「まったく世界に類のない商品。代替肉として普及している大豆ミートの場合、その独特の臭いが苦手という人も少なくありませんが、トーフミートにはその臭いがない」。そう話すのは、なかみち屋代表の中路裕文さん。理由は「豆腐そのものを、徹底してこだわって作っているから」とのこと。
中路さんの案内で、豆腐の製造所を見学させていただきました。
まず一番の特徴は、遠心分離機をつかった「生搾り製法」を採用していること。
一般的な豆腐づくりでは、大豆を炊き込んだ後でおからを取り除きます。でもこちらでは、臭いや渋みのもととなる大豆の胚軸や種皮などを、遠心分離機であらかじめ除去。その後抽出された豆乳だけを丁寧に煮沸して豆腐にしています。
さらに、豆乳を煮た際に発生する泡を取り除くための消泡剤も不使用。煮ている最中にだんだんと泡が消えていく特殊な機器を使っているからです。

消泡剤不要の機器を流れる豆乳を見つめる中路さん。背後にあるのが遠心分離機
これらの機器は、宇部市内で数十年にわたって豆腐を作り続けていた兼氏食品から3年前に事業承継で譲り受けたそうです。
「生搾り製法は数が作れないので、採用している豆腐屋は全国でもほとんどありません。遠心分離機を使っているところも他に聞いたことがない。消泡剤いらずの機器にいたっては兼氏さんの手作りなので、うちだけのものです」(中路さん)
そのようにして作られた無添加豆腐から生まれたトーフミート。世界に類がない、というのも納得です。
調味料の一部は自作。妥協のない「肉の味」
それにしても、なぜトーフミートを作ろうと思ったのでしょうか?
きっかけは2年前に遡ります。中路さんは、なかみち屋の運営会社であるフェリーチェ(宇部市)の村上英雄社長とともに、福岡県であった九州ヴィーガンフェスに参加。そこでイベントの実行委員長である村畑啓子さん(日本ベジタリアン協会評議員)から「豆腐を使った新商品を共同開発しませんか?」と声を掛けられたそうです。
「他にはないもので勝負する」ことを大切にしている2人は、さっそく研究を開始。村畑さんからアドバイスを受けながら、ベジタリアンやヴィーガン(完全菜食者)はもちろん、ハラルフード(イスラム教で許されている食べ物)としても認められる代替肉を目指します。ところが、肉のような食感と風味を出すのは、想定以上に大変だったとか。
動物性のものはもちろん、ハラルフードではアルコール類が禁じられているため、みりんも使えません。そうした制限のなかで、調味料を厳選。木桶で作られた昔ながらの醤油、有機黒糖などのほか、コンブやシイタケは自分たちで粉末にしたものを使うことに。「市販品は製造工程で何が添加されているか確認できない。その懸念を解消するには、自作するしかないですから」(村上社長)

試行錯誤の末に完成したトーフミート
全国大会で準グランプリ。これから世界へ
一切の妥協なく完成させたトーフミート。冷凍なので、大豆ミートのような水戻しの手間は不要。味も付いているため、解凍してすぐに食べられる手軽さも特徴です。インターネットで販売しているほか、県内では宇部市が山口井筒屋宇部店跡地に開設した「常磐町1丁目スマイルマーケット」や、周南市の道の駅「ソレーネ周南」などでも扱っています。
2019年冬には、地域の優れた商品を発掘する「にっぽんの宝物グランプリ」の山口県大会で大賞を受賞。県代表として出場した同年末の全国大会でも「新体験・イノベイティブ部門」で準グランプリに輝きました。2020年2月にはシンガポールでの世界大会に挑む予定でしたが、新型コロナウイルスの影響から現在、延期となっています。

これからの展開について語り合う中路さんと、村上社長
「白くて四角い」だけじゃない豆腐の可能性
「トーフミートを使ったカレーやぎょうざ、ハンバーグなどの二次加工品にもチャレンジしていきたい。レトルトや缶詰にできれば保存食として災害時にも利用できる」と村上社長。中路さんは「大豆は様々な食品に形を変えます。豆腐も白くて四角いというだけじゃないはず。こだわり抜いた豆腐をベースに、これからも新しい商品をどんどん開発していきたいですね」と話しています。
執筆時期:2020年7月
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} ?>住所|山口県宇部市港町2丁目1-35
電話|0836-39-7235(フェリーチェ)