日本最大級のカルスト台地として知られる秋吉台(山口県美祢市)。その近くに、真っ白い壁の建物があります。文字はなにもありませんが、よく見ると壁の一部に米粒のような形が浮き出ています。
白いのれんをくぐってみると、内部は無駄な装飾の一切ないシンプルなカフェ。そして、その一画にはさきほどの「米粒」をあしらったボトルも並んでいました。これは「Ohmine」という日本酒のようです。

白と黒に統一されたカフェ。天井には杉玉も

ショーケースには「Ohmine」のボトルが並ぶ
日本酒の仕込み水で淹れるオリジナルブレンド
実はここ、地元の酒造メーカー「大嶺酒造」が酒蔵に併設したカフェ兼直売所。2019年4月に土日のみでオープンしましたが、2020年5月から山口市の自家焙煎コーヒー店「原口珈琲」の原口洋子さんを迎え、平日営業もスタートさせました。
コーヒーは、大嶺酒造オリジナルブレンドと、シングルオリジンの2種類。「Ohmine」の仕込み水でもある別府弁天池の湧水と同じ地下水を使って淹れています。

自家焙煎したコーヒーを淹れる原口さん(右)
酒蔵から3キロほどの距離にある別府弁天池は、透き通るようなエメラルドグリーンの水の色で知られ、日本名水100選のひとつにも数えられています。カルスト台地に育くまれた水質はカルシウムが豊かで、柔らかく、味わいがあるのが特徴です。

別府弁天池
ただ、この水質が「深煎りコーヒーの名店」として知られる原口さんには手強かったそう。「カルシウム分が高い軟水というとても珍しい不思議な水。この水に合うコーヒーって……」。原口さんは、フランスで暮らしていた時代に試行錯誤しながらコーヒーを淹れていた経験を思い出し、焙煎度合いなどを調整。この名水にもっとも適した、深みとキレのあるブレンドを生み出しました。
原口さんの参加により、それまでなかったオリジナルのフードメニューも。なかでも「Ohmine」の酒粕を使った自家製チーズケーキは「ほのかにお酒の香りがする」と女性客に人気です。同じく酒粕を使ったバニラアイスクリームもあります。

酒粕を使ったチーズケーキ
気楽に酒蔵へ寄ってもらえるように
フードメニューが生まれたことでお客さんの滞在時間が延び、その分お酒を買う人も増えているそうです。「カフェの開設は、酒蔵への敷居を下げて、気軽に訪問できる場所にするのが目的。いま、その効果を感じています」と話すのは、大嶺酒造取締役の宮崎翼さん。「おかげで、来られた方の7割ほどにお酒をご購入いただいています」
その「Ohmine」。日本酒とは思えないほどフルーティーで、口当たりも柔らか。アルコールが14度と一般的な日本酒より低めなのも、飲みやすさの理由のひとつです。
宮崎さんによると、この独特なお酒ができるのもやはり「水」の力だそう。「水のカルシウム分が酵母の活性を促して、発酵がスムーズに進むんです。いろいろ試してみた結果、最高に美味しく感じられるのが14度でした」
歴史を引き継ぎ、世界へ
スタイリッシュな建物の外観やボトルのシンプルなデザインから、まったく新しい酒蔵に見えますが、実は大嶺酒造には長い歴史があります。もともと1822年に創業。130年以上に渡って酒造りを続け、1955年にその幕を下ろしました。

酒蔵の入り口には、かつて使われていた表札も。伝統へのリスペクトを忘れていない
「Against sake world」を掲げ2010年に酒造りを再開。銘柄も作り方もまったく新しく生まれ変わりました。象徴的なのはロゴマーク。「漢字、筆書き」が大半の日本酒業界にあって、それらを一切使わず、米粒のみでその世界観を表現。スウェーデンのデザインチームと1年がかりで編み出したそうです。その甲斐あって2011年末には、ヨーロッパのデザインコンクール「ユーロベスト」で大賞に輝きました。
すべては地元の魅力アップのため
2013年にスイスで開催されたダボス会議の晩餐会で振る舞われたことから知名度が上がり、国内だけでなく海外からのオファーが増えたそうです。現在、アメリカ、シンガポール、台湾、オーストラリア……など8か国に輸出。販路は広がり続けています。
ただ、「お酒をどんどん売ることが、うちの目的ではないんです」と宮崎さんは言います。「若い人が流出するのは魅力ある働き場がないから。そこを作っていくのが新しい大嶺酒造のミッションです。カフェを入り口にお酒に興味を持ってもらい、美味しいと喜んでもらえるなら、地元の酒米農家さんの誇りにもなっていきます。そんないい循環をつくって、地域そのものの輝きを発信していきたいですね」と話しています。
そんな熱くて、クールで、美味しい大嶺酒造のカフェ。秋吉台観光の合間に、ぜひ立ち寄ってみてください。
執筆時期:2020年8月
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} ?>住所|山口県美祢市秋芳町別府2585-2
営業|10:00~17:00
定休|なし
TEL|0837-64-0700