パン

一口頰張ると、ふわっと鼻に抜ける小麦の香りとミルクの甘みが広がる森の丸太食パン(左)。「子たぬきのおへそパン」(右)は天然酵母のほどよい酸味と噛み応えを感じられるカンパーニュです。味わい深いパンは、山口県周南市の山奥で生まれました。 

山口県周南市、鹿野の「子たぬきのパン」 

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山口県周南市、鹿野(かの)。のどかな田園風景が広がる山里に一軒のパン屋さんがあります。その名も「子たぬきのパン」。 

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築60年の納屋を改装したというお店の扉を開くと、小さなスペースに様々なパンが並んでいました。 

bread

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バゲットやカンパーニュなど小麦本来の味わいを楽しめるパンのほか、季節の野菜を練りこんだもの、タルティーヌやグラタンパンなどおかずとして食べられるものなど、彩り豊か。  

「主に地元、鹿野産の旬の食材を使っています。パンを通して鹿野の魅力を伝えたいと思って。小麦粉は100%、山口県産せときらら。他の素材と組み合わせても主張しすぎず、かと言って小麦の味わいもしっかりと残る小麦なんですよ。ちなみに、パンを焼くための燃料も山口県産なんです!」 

水や小麦、野菜はもちろん、燃料まで山口県産とは、どういうことなのでしょう? 

徹底的に地元にこだわる 

kitchen

店主のうめざわしのぶさん。厨房にあるのはパン専用のペレットオーブンです。 

「山口の間伐材を使ったペレットなら、燃料も地元産でまかなえます。でも当時はピザ用のペレットオーブンしかなくて」 

熱伝導率が違うため、ピザ用のオーブンでパンを焼くには無理があったそう。諦めきれず、知人の紹介でメーカーと話す機会を得て、思いを伝えたところ、初めてパン用のペレットオーブンが開発されることになりました。 

「これがその第一号なんですよ」とうめざわさんは微笑みます。 

それにしても、なぜそこまで地元にこだわるのか、理由を尋ねました。 

福岡から鹿野へUターン 

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「以前は福岡で夫と小さなレストランを営んでいました。ありがたいことにお店は繁盛してお客さんが沢山来てくれたんです。でも月日が経つにつれ、自分の思いと実際やっていることに違和感を持ち始めて。夫も体調を崩し、このままでは何のためにやっているのかわからないと悩みました」 

今思えば、メニュー品目や値段設定、回転率など、経営のやり方が間違いだらけだったと言います。いくらお客さんが来ても、仕事は忙しくなるばかりで楽にはならず、ひたすらアウトプットの毎日。 

「自分の休みすらなくて。休日に美術館に行ったり、好きなことをしたり、インプットする時間もないのに、自分がどんどんスカスカのスポンジのようになっていくのを感じました」 

お店では鹿野産のお米を取り寄せ使っていましたが、鹿野で食べるお米のおいしさは感じられなかったそう。 

「それもそのはず、鹿野とは水も空気も違う。鹿野の自然の中で食べるからこそ美味しいのだと気付きました」 

その頃、山口大学農学部の高橋教授と知り合い、「せときらら」に出会います。
「この小麦でパンを作りたい!」そう感じたうめざわさんは、福岡のお店を閉めて、ふるさと鹿野でパンを焼くことを決意。2018年5月に「子たぬきのパン」が誕生しました。 

book

子たぬきのパンの絵本。主人公の子たぬきちゃんが、ふるさと鹿野を離れ、訪れた街で鹿野の良さを見つめ直すストーリー

「私のテーマは、『パンを食べて鹿野を感じてもらう』こと。鹿野の空気や食材を育むこの土地の香りも丸ごと味わって欲しくてお店を作ったんです。パンなら持ち帰りができるし、それをプレゼントされた人にも鹿野が伝われば嬉しいですね」 

鹿野の魅力を伝えるギャラリー 

開店から2年後には、2階にギャラリーを併設して、リニューアルオープン。  

「鹿野の一番の魅力はここに暮らす人だと思うんです。その人たちの暮らしや営みが伝えられるギャラリーがあればいいなと」 

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取材時には、この納屋を60年前に建てた大工さんの木工彫刻や山代和紙に印刷された鹿野の写真など、鹿野にまつわる様々な作品が展示されていました。今後はヨガやお話会など、ワークショップも開いていきたいのだそう。 

みんなの居場所を作りたい 

ギャラリー改装にあたり、SNSで塗装+ランチ会のイベントを立ち上げたり、クラウドファンディングで支援者を募るなど、様々な形で多くの人が関われる環境を作り上げたうめざわさん。 

「私一人が作るのではなく、お客さんがそれぞれに関わることで、『ここは私が塗ったんよ』とか『自分の居場所』と感じてもらえる場所を作りたかったんです。DIYを通じて人と人の繋がりが生まれたのは本当によかった」 

人

最近、嬉しいニュースがあったそう。 

「地元の小学生の『鹿野のベストテン』に子たぬきのパンがランクインしたんです(笑)私が十数年前に鹿野を出たときには『何もない場所』と感じていたふるさとが、今の子ども達にとっては自慢できるものが沢山ある。それがすごく嬉しい」 

ふるさとを一度離れたからこそ、その素晴らしさに気づいたうめざわさん。パンをきっかけに鹿野の魅力を伝えようとする真っ直ぐな姿勢に、心を強く打たれました。 

 

 

執筆時期:2020年8月
※本記事の情報は執筆時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接各スポットへお問い合わせください。
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子たぬきのパン 

住所|山口県周南市鹿野上1260 

TEL|090-8393-5793 

営業時間|10:00〜17:00 

定休日|月、火、水曜日(不定休あり) 

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