「まあ、食べてみてください」
そう勧められて、ひと切れつまんでみると……とても柔らかく、味にクセもありません。後味も重くなく、あっさりしているため、いくらでも食べられそうです。 

肉

「これが鹿の肉です。この美味しさをもっと普及させたいんですよね」
そう話すのは、ジビエ(狩猟によって獲た野生動物の肉)の加工・販売を行う西日本ジビエファーム(山口県山陽小野田市)の仲村真哉さん。近隣で仕留められた動物を重量で買い取り、解体。部位ごとにブロック肉にして真空パック化し、商品として販売しています。 

臭いというイメージがある猪も、仲村さんによると「処理の仕方の問題」とのこと。「きちんとすれば本当に美味しいし、生姜焼きなんて言われなければ豚と変わらないですよ」 

人

ブロック肉を手に説明する仲村さん

病気を理由に帰郷。入院中に読んだ一冊の本が転機に 

一方で、仲村さん自身は一般的な牛肉や豚肉が食べられません。というのも、脂肪分があるものを食べると下痢などの症状が出る原因不明の炎症性腸疾患の一種「クローン病」を患っているからです。 

仲村さんのクローン病は学生時代に発症しました。卒業後は新古書のチェーン店を展開する企業に就職し、全国各地の店舗で勤務。しかし病状が悪化したため、2009年に退職して地元山陽小野田市へ帰郷しました。 

椅子

狩猟との出会いを語る仲村さん

リサイクル店などで働いていた2014年、腸閉塞で入院。病床で読んだ100冊近い本のなかに、猟師を目指すきっかけとなる一冊がありました。「鴨猟などがテーマの『ダック・コール』(稲見一良著)という本です。自分で猟をした肉って美味しいだろうなと考えるようになったんです」 

退院後、知り合いからもらった鹿肉を食べてみて、その美味しさに驚いたそう。「赤身で、脂肪分がほとんどなく、これなら自分でも大丈夫だと感じました」。自分も猟師になって鹿を獲ろうと決意し、2016年に狩猟免許を取得しました。 

森

猟銃を手に山を駆け回る仲村さん(仲村さん提供・猟期中に撮影) 

「活用できる施設がないなら、自分で」 

猟友会の先輩たちに教わりながら活動するうちに、課題が見えてくるようになったと言います。「猟は農作物に害を及ぼす鳥獣の駆除が中心。獲ったものは自家消費するしかなくほとんどは食べきらずに廃棄処分になっています。とてももったいないと感じました」。かといって、食肉用に処理・加工できる施設が近くにはありません。 

「だったら自分で創ろう」。山の中にあった元牧場の施設と土地を購入し処理設備などを整え、201911月に本格稼働させました。 

建物

西日本ジビエファームの処理・加工施設

マスク

肉を加工する仲村さん(仲村さん提供)

肉質の良さなどが評判となり、東京の高級フランス料理店など数店から注文を受けるように。しかし、軌道に乗りかけた矢先に新型コロナウイルスが流行。営業自粛や閉店に追い込まれる飲食店が相次ぎ、25月は注文が激減しました。「6月以降は少し持ち直してきましたが、まったく不透明です。新しい販路を開拓するしかないですね」 

ウインナー、ソーセージが大人気 

そのひとつとして期待を寄せているのが、加工肉です。下松市の精肉業「朝日屋」さんに鹿肉、猪肉をそれぞれウインナーとソーセージにしてもらい、商品化。今後は生ハムも開発していく予定とのこと。すでに朝日屋さんの売上げランキングで上位を独占するほどの人気となっています。 

ソーセージ

ジビエのウインナー(仲村さん提供)

ジビエファーム開設後も、猟友会の先輩から譲り受けた紀州犬のアイちゃんとともに猟に出続けています。2019年は鹿、猪、鴨など計100個体を解体加工ことしは8月までに約120個体を加工しました。 

日々忙しく働くご主人の姿を、妻の真由香さんも温かく見守っています。
「この仕事を始めて、体調も良くなったようです。それに、自分のやりたいことをしているから楽しそうですね。これからも周囲の皆さんに支えられながら鳥獣被害対策に取り組んで、一般の人たちにおいしいジビエを提供していってほしいです 

二人

妻の真由香さん、相棒の紀州犬アイちゃんとともに(仲村さん提供)

ただ、狩猟免許を持つ人の高齢化が進み、狩猟人口は年々減少。反対に農作物への鳥獣被害は増加傾向にあります。仲村さんは「ジビエの美味しさを知る人が増え、各地に加工処理施設ができるなら、狩猟に興味を持つ人が増えるかも。そうすれば獣害の防止だけでなく、食糧自給率の向上にもつながっていきます。そんな好循環の動きのきっかけになれたら嬉しいですね」と願っています。 

 

 

執筆時期:2020年8月
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西日本ジビエファーム 

住所|山口県山陽小野田市山川鋳物師屋202 

TEL|090-6434-2055 

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