家族の笑顔に囲まれながら、自宅で看取られていくお年寄り―。2020年秋に全国公開された映画「結びの島」。山口県周防大島町にある「おげんきクリニック」の岡原仁志院長と、患者さんとの交流を記録したドキュメンタリー作品です。 

人口約15000人、高齢化率54%。人口減少が続き、「将来の日本の縮図」とまで言われる周防大島町。この島で命を見つめ続けてきた岡原さんに、理想と現実、そして「結び」という言葉に込めた想いなどについて語っていただきました。 

木

おげんきクリニック

―「結びの島」。鑑賞させていただきました。岡原先生と患者さんとの日々をありのままに記録した映画ですね。 

撮影は2018年秋からことしの春にかけて、20カ月にわたって行われました。ナレーションもほとんどなく、観る人が自由に受け止められる作品になっていました 

若いから高齢者まで、それぞれ人生のステージ自分に当てはめながら何かを感じ取っていただけたらと思います 

結びの島

―先生のもとに、感想のようなものは届いていますか? 

「自分の最期をイメージできるようになった」「最期は苦しい、つらいというだけだったが、んなふうに迎えられるのかと驚いた」といった感想が寄せられています。 

―「あんなふうに……」というのは、僕も思いました。往診先のご家庭は、患者さんも家族の方も、皆さん笑顔。温かくて、楽しそうな印象さえ受けました。 

人生の最期家族との楽しい思い出で満たされるなら、本人も遺される方も幸せなはず。そういう想いで活動を続けています。 

「最期まで笑顔で」。亡くなった家族を囲んでピースサイン 

―いまの活動に繋がるきっかけは何だったのでしょうか? 

往診を始めた頃から、病院と自宅とでは患者さんの様子が違うなと感じていました。とにかく表情がいいんです。そして、よくお話しになられるんです 

2012年に、末期がんを患った40代の女性在宅で診ていました。当時、はよくクラウン(ピエロ)が使う赤いを着けて診療してました。その方への最初の往診時にも赤い鼻を着けて伺ったんですね 

するとその女性が笑ってくれて。ご両親が「こ数年、娘が笑ったのを見たことなかった。先生、また何か楽しいことをしてほしい」と。それから亡くなるまで4月間、往診のたびに仮装したり、歌を歌ったりしていました 

そのが亡くなったあと、お母さん「すごく楽しかった」と。看取った直後には、亡くなったのお子さんたちがご本人を囲んでピースサイン記念撮影されていました。  

どんなに苦しい状況でも、最期まで笑っていたい方もいる。の経験から、患者さんの人生の最期が家族との楽しい思い出になるようにしていこう考えるようになりました。  

目的は「家族の絆を取り戻すこと」 

―映画の中でも、往診時に冗談を言ったり、ハグしたりといった場面が何度もありましたね。 

できるだけ楽しい空気をつくるように心がけています。でも、実は往診を楽しすること自体が目的ではありません。家族の絆を取り戻すこと。そのお手伝いをしているのです。  

―家族の絆を取り戻す、とは? 

在宅で幸せ最期を迎えるためには、家族の絆をもとにした「家族が不可欠です。ただ、家族だけだと、それまで積み上げた関係性からハグしたり、笑い合ったりという空気になりにくいでしょう。そこでたちが介入して、場を創っていくのです。 

ハグだけじゃありません。例えば、患者さんが「漬け物をつけてみたい」と言えば、お子さんも交えて漬けて、それを食べてみる。庭いじりが好きだったら、家族で四つ葉のクローバーを育ててみるんです 

麻雀が好きだった寝たきりのお父さんの耳元で、ジャラジャラさせたこともあります。そうしていくうちに、患者さんが好きなこと、喜ぶことをしようと家族がだんだんひとつにまとまって家族力が強まっていくんです 

「人生のパズル」を完成させるために 

―介護や看護だけじゃなく、思い出や喜びを軸に家族の絆を結び直していくのですね。 

そうですね。それと同時に人生のパズルを完成させるというイメージも持っています。 

―人生のパズル? 

ええ。皆さん、さんが小さいころの思い出ははっきりお持ちです。でも、おさんが自立して島を出たあと、高齢になったときの記憶が希薄な場合が多いそれでもときどき、「昔ね」とたちにぽろっとお話しされることがあります  

そうしたちょっとしたエピソードを溜めておいて、ご家族にお伝えするとそういえば、あの頃こうだった」「ああだった」と、皆さんがいろんなことを語り始めるんです。  

欠けていたピースがどんどん見つかっていく。亡くなるまでに人生のパズルが完成するように、人生を語り、家族で共有する場を設ける。そういう役割も、たちは担っていると感じています 

横の結び、縦の結び

―患者さんと、ご家族の人生全体に関わっていく。そういう姿勢で向き合われているのですね。 

いい思い出や笑顔を共有しながら看取られるなら、横の結びも、縦の結びも強くなる。そう考えています 

―横の結び、縦の結び? 

ええ。生きている間の人と人との繋がりは、横の結び。そして亡くなった方との結びは、縦です。 

患者さんとの楽しい思い出がたくさんある家族は、横の結びが強い。それはそのまま、患者さんが亡くなったあとに縦の結びの強さとなります。だからこそ、生きている間にいい関係性、いい思い出をたくさん創って、縦の結びが強くなるようにしていきたいのです。 

もともと日本人は、縦の結びを大切にしてきました。れが近年、希薄になっているのが気になります。例えばこ周防大島でも、各地区での盆踊りがどんどんなくなっているんです。 

―どうして希薄になっているのだと考えられますか? 

生活から「生と死」が分離されてしまったからではないでしょうか。かつては自宅で生まれ、自宅で看取られるのが当り前でした。誕生も看取りも病院で行われるようになったことは、日本人の死生観に大きな影響を与えていると思います。 

誰もがひとり人間として亡くなり、魂となってあちらの世界へ還っていく。そうした死生観を、いま一度回復させたい。大きな視点言うならの取り組みはそのための中継ぎのようなものだと捉えています。 

死は、生涯のなかで最も大切な出来事です。周防大島では年間に400500人の方が亡くなっています。その一人一人が最期を迎えるときに、家族や友人に囲まれ「幸せな人生だったな」と感じながら旅立てるなら、素晴らしい地域になるはず。2003年にこちらに戻ってきたときには、島全体でそういう看取りを実現したいとの想いを抱いていました。 

高齢化社会に不可欠な仕事。「このままでは長く持たない」 

―周防大島に戻られて17年。その想いはどのくらい形になっていますか?  

自宅で最期を迎えるのが難しい方のために、2012年には廃校をリノベーションして、サービス付高齢者向け住宅備えた複合型介護施設「おげんきハグニティ」を開設しました。素晴しいスタッフたちのお陰で、入されている皆さんは本当に楽しく過ごされています。 

おげんきハグニティ

往診も、ハグニティのほうも、やり甲斐はとてつもなくあります。大変厳しい仕事ですが、達成感、充実感がすごいんですね。それは、患者さんと心と心が結ばれているからだと思います。 

ただ、スタッフにその達成感に見合った収入がないことがとしては心苦しいですね。情熱はあっても経済的な理由続けられなくなるスタッフもいます民間の介護業界は経営が大変です。現代社会でこれほど求められている仕事にも関わらず……。  

必要性、重要性に見合った収入が得られる社会になっていかないと、この国の介護はもう長くは持たないと感じています  

どう「結ぶ」のかが問われる時代  

―そうした現実を直視しながらも、岡原先生が描く周防大島の医療・介護のビジョンというものがあれば教えてください。 

いまは、大きなビジョンというものを持っていません。そこを目指して前進を続けるよりも、「しまい方」について考えるほうが大切だと考えています。 

―「しまい方」ですか? 

ええ人生のしまい方命のしまい。自分も含めて、どう「結ぶ」のか。そこを考えていく時期にきています。これは個人だけでなく、組織や地域、町、さらには国についても同じことだと感じています。  

人口減少や少子化、過疎化は全国的な課題ですよね個人も、企業も、自治体も、成長や進歩だけでなく、「どうしまうのか?」を考えながら過ごさないと、これから本当に大変なことになっていくと考えています。 

そうした状況のなかで、にできることと言えば、これまで通り目の前のお一人、お一人に寄り添っていくことしかありません。長い人生を生き抜いてこられた患者さんへの敬意を忘れずに接していく。小さな幸せをご家族と共有しながら過ごせるように心を配っていく。そして、いい最期を迎えられますように祈り続ける。 

この小さな島での取り組みが、「生と死」への尊厳を置き去りにした現代社会や医療界に一石を投じることにつながるなら嬉しく思います。

 

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岡原仁志さん 

おげんきクリニック(山口県周防大島町)院長。順天堂大医学部卒。静岡県内の医院で経験を積み、周防大島町に帰郷。2004年におげんきクリニック開設。思いやりの医療」で知られる米国の医師(映画「パッチアダムス」のモデル)の著作に感銘を受け、外来や往診時に自ら実践。2012年、高齢者施設「おげんきハグニティ」をオープン。患者や入所者の気持ちを大切にした医療を続けている。 

 

 

執筆時期:2020年10月
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