コロナ禍で、これまでの生活を見直す機会が増えている今日この頃。巷では、ベランダや庭での家庭菜園が静かなブームになっています。実は、私も春から初めての家庭菜園に挑戦している一人です。「環境にやさしいやり方で、美味しい野菜を育てたい」とたどり着いたのは自然栽培でした。

自然栽培とは?

「自然栽培」とは農薬はもちろん、化学肥料も有機肥料も使わず、自然の力を生かして栽培する農法のことです。長年かけて土作りを行うため、初心者には難しいことも多いですが、それでも虫や草木と共存しながら実った野菜には格別の美味しさと喜びがあります。慣行農法と比べ、手間暇がかかるので商用では一般的にあまり行われていません。そんな折、自然栽培で農業を営んでいる方々と出会いました!

岩国市玖珂の種人-juto-(じゅと)

山口県岩国市の盆地、玖珂町(くがまち)で自然栽培の農家を営む「種人-juto-」です。代表の中林克人さん(写真中)・美由紀さん(写真右)ご夫婦と、小林豊さん(写真左)が出迎えてくれました。3人で、玖珂町では野菜を、周南市の大道理(おおどうり)と大向(おおむかい)ではお米を作っています。

自家採種した種で育てる野菜

種人の最大の特徴は、自然栽培、自家採種に取り組んでいることです。

様々な野菜の種。(左上から時計回りに)白オクラ、笹川錦帯白菜、黒田五寸人参、真黒茄子、岩国赤大根、初姫(そら豆)

毎年収穫した野菜から種をとり、それを翌年まいて野菜を作っています。カブやホウレンソウなど、試行錯誤しているものもあって、すべてではないのですが」と中林克人さんは話します。その数なんと約20種類。まだ自家採種に成功していない野菜も含めれば30種類近くにのぼります。

現代の農業を支えるF1種※ではなく、昔からの固定種※の種を使って農業をすることは、種人にとってどういう意味を持つのでしょう?

「農薬も肥料も一切使わない自然栽培で農業をしたい、と考えたら、F1種では無理があると思ったんです。種を未来に繋いでいくことは、自分の中では作物に対する”礼儀”ですね」

※F1種……一代交配の種。発育状況、形や大きさが揃うため生産しやすいが、種は一代限り。市場に出回る多くの野菜がF1種。
※固定種……何代も種を取り育てていくことで自然とその野菜の個性が定着した種。不揃いだが、種を継ぐことができる。

①固定種専門の種苗店から買った種
②他の農家さんが自家採種した種
③種人で自家採種した種
この3つを比べたとき、自家採種した種で作った作物の出来が一番よいのだそう。

「自家採種で栽培を続けていくうちに、その土地にあった遺伝子を種が受け継いでいくのだと思います。年々、少しずつですが良いものが取れるようになった。農業一年目は1,000粒まいた白菜が、30個にしかならなかったんですよ(笑)すべて翌年の種にしました。今では、白菜は7割、大根なら9割が売り物になります」

小林さんと二人で新三浦大根の種まき。息のあったコンビネーションで作業はスムーズに進む

数日前にまいた打木源助大根の芽

自然栽培を志したきっかけ

現在3人で活動している種人ですが、農業を始めた当初は一人だったという中林さん。元々は高校の歴史教員を目指していたそう。

「採用試験を受けながら臨時職員をしていたのですが、徐々に『こんな大人になってほしい』という思いで子ども達を教育するより、大人である自分自身が社会的に取り組むべきことをやった方が良いのでは、と考えるようになりました。ちょうどその頃木村秋則さんの『奇跡のリンゴ』を読んで衝撃を受けたんです」

農薬や肥料を使わなくても作物ができる、と思い、結婚を機にJA山口大島へ就職。高齢化、みかん栽培で有名な周防大島で将来は無農薬無肥料のみかんが作れたら、という思いからでした。ですが紆余曲折を経てその夢は叶わず、6年間勤めた後、農業をするために退職。

「農業をしたいというのは結婚当初から聞いていたけれど、まさか本当にするとは思っていなかった」というのは妻の美由紀さん。

「でも農協時代に、有言実行で営業成績トップになったんです。それもコツコツと地道な努力を経て、きちんと成果を出していて。この人なら農業を始めても成し遂げるのではないかなと感じました」と微笑みます。

種人の野菜は地元スーパーを中心に現在5箇所で購入可能。収穫や種の仕分けの他、納品も美由紀さんの担当

農業3年目で現れた救世主

3年間、アルバイトをしながらほぼ一人で農作業に向き合ってきた中林さんですが、ついに体力の限界に達します。そこで助けを求めたのが小林豊さんでした。

富山出身の小林さん。中林さんから声をかけられ、二つ返事で山口へ来ることに

農業は全く未経験の小林さんでしたが「なんとなく面白そう」という軽い気持ちから中林さん夫婦に加わり、種人が生まれました。

「作業する人数が増えれば畑がよくなるんじゃないか、と思ったのですが、実際には何も変わらなかった(笑)でも3年経って、徐々に変化が見え始めました。お米も来年あたり収量が増える気がしています」と小林さん。

「種人」として活動を始めて3年。
「ナスが嫌いだった子どもが、種人のナスは喜んで食べるんです」「種人の野菜を初めて食べて、その美味しさに驚いた!」など野菜を購入した人からは続々と嬉しい言葉が届いています。

目指すは自然栽培の野菜の一般化。
「普通のスーパーに買い物に行ったとき、選択肢の一つとして自然栽培の野菜が並んでいたらいいと思う」と中林さん。

それこそが、これから先日本の農業を支えるために必要な「多様性」なのかもしれません。

 

 

執筆時期:2020年10月
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住所|山口県岩国市玖珂町

TEL|090-4322-2617(中林)

販売店舗|無有の木、いろり山賊玖珂店(不定期)、アルク(玖珂店、徳山中央店、徳山東店、秋月店)

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