山口県の東部、岩国市周東町の祖生(そお)地区。深い森林が広がる豊かな自然に囲まれながら、岩国空港や錦帯橋、周防大島など、近隣の観光地へアクセスしやすい場所です。そんな祖生の山山里民宿「和樂の里」があります。 

天空の桃源郷、山里民宿「和樂の里」 

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写真提供:和樂の里

訪れたのは、標高約300mの山の中腹。「和樂の里」の看板を頼りに、車一台がやっと通れるような山道を上ると、絶景が広がっていました。よく晴れた朝には、眼下に写真のような雲海が広がることもあるそう。 

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宿泊するのは築110年の古民家。先祖代々、この地で暮らしてきた藤森家の子孫である藤森和子さんが、2009年にオープンしました。現在は関東から移住した坂田修作さんが、新たな店主として和樂の里を引き継いでいます。 

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一日一組限定、貸切で利用できる和樂の里。鳥のさえずりが聞こえるだけの静かな環境で、ゆったりと過ごすことができます。 

bedroom

「こちらが寝室です。今年リノベーションして新しくなりました」 

坂田さんが案内してくれた部屋にはダブルベッドやソファがあり、温かな照明の灯りが落ち着いた空間を演出しています。トイレやお風呂など水回りも快適に改装されており、安心して宿泊できます。 

ところで、どうして坂田さんが和樂の里を引き継ぐことになったのでしょう? 

和樂の里との出会い 

man

「以前30年以上石油会社で働いていましたが、50代前半頃から今後の人生について考えるようになったんです。この先会社で利潤を追求するより、何か新しく自然の中でできることや社会の役に立つようなことがないかと」 

会社員として働きながらも、シェア畑で野菜を作ったり、社会人向けの農業学校へ通うなど着々と準備を進めていた坂田さん。地方創生に興味があり、静岡や富山、山口など各地の農家民宿を訪れる中で出会ったのが、和樂の里でした。 

「宿泊した夜に、藤森さんやご近所さんと自然や地方創生について色々話したんです。すると藤森さんが『それなら私はそろそろ出来なくなるから、あなたがここを継ぎなさい』と。当時藤森さんは86歳。ご主人が2009年に亡くなって以来、一人で農家民宿を営んで来られたのですが、跡継ぎがいなかったんです。急にそんなことを言われ、もちろん即答はできませんでしたが、真剣に考え始めました」 

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和樂の里の食事。地元食材を使った郷土料理が中心。岩国寿司は今も藤森さんのお手製(和樂の里提供)

地域の特産品、自然環境など、色々と調べた結果、ここなら自然薯やわさび栽培ができるのではないか、と思い至った坂田さん。関東から通い、わさびの試験栽培をしたり、篤農家を訪ねるなど、徐々に動き始めました。2019年3月に会社を早期退職後は、祖生に移住し、一年間森林組合に勤めたと言います。  

よく周りの方に「こんな山奥に一人で寂しくないか?」と聞かれるそうですが、寂しさや怖さを感じる間もないほど、農業、林業、農家民宿の運営と、日々目まぐるしく過ぎて行くとのこと!

祖生の森を探検 

和樂の里には、坂田さんが世話する田んぼや自然薯、蕎麦畑があり、農業体験ができます。さらに山の中にはわさび畑や滝、松の巨木など見所いっぱい。「森の案内人」「自然体験活動指導者」の資格も持つ坂田さんに、近くの森を案内してもらいました。 

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いくつかわさびを植えているという杉林。杉の生える場所は適度に湿り気があって、わさびに良いのだそう。 

「ここは近くに冷たい川が流れ、木漏れ日も入るし、栽培に適しているんですよ。下の方にも植える予定で、今はユンボで開拓中です」 

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わさび畑。2〜3月頃に花を、5〜6月頃には葉や茎を収穫

「この前、初めて蕎麦を収穫しました。今後は蕎麦打ち体験や、自家製のわさびと自然薯を合わせて食べてもらうなど、お客さんに提供していきたいですね」 

和樂の里の周辺には耕作放棄地が多いのだそう。それを解決するために、坂田さんは「山口型放牧」 ※も取り入れています。 

※山口型放牧……山口県が推進する放牧制度。耕作放棄地に牛を放し、放牧地にする。イノシシなどの獣害対策効果が実証されている。 

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今年は知人の土地に牛を2頭借りて放牧したところ、すぐに草がなくなったそう(和樂の里提供) 

わさび畑見学のあとは、「牛転びの滝」へ。昔、藤森さんが畑をしていたという谷へ下りて行くと、ありました! 

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沢ではインストラクターの指導のもと、シャワークライミングも体験できます。
滝のすぐ隣には、テントが張れるように坂田さんが整備した空間があり、森の中のキャンプ場の試用としてつい最近、仲間とキャンプを楽しんだそうです。 

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和樂の里でテントを借りて、キャンプ体験できる。(和樂の里提供)

「滝で沢ガニを取ったり、飯盒炊飯したり、貸切で静かな夜を満喫できますよ」 

農家民宿だけでなく、山の管理やわさび栽培、キャンプ場に山口型放牧と、ありとあらゆることに関心を持ち、取り組んでいる坂田さん。到底一人で抱えきれる仕事量ではありません。 

和樂の里から始まる地域おこし 

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「今は自然の資本を生かした観光事業や放牧など、山でできる色んな事業のタネを実践を通じて準備している最中です。過去に祖生に地域おこし協力隊が導入されたことはないのですが、将来、色々な事業のタネをもとにしてここ祖生で地域おこし協力隊にそれらの事業に取り組んでもらいたい。ここでの暮らしや事業を通じた地域づくりに関心がある人たちが地域おこし協力隊として活躍する場を、地域ぐるみで作りたい。また、同時に特産品の販売や情報発信をしながら、都市圏から人を呼び込みたいですね。山里はじめ、地域の持続化・課題解決のためには新たな担い手が必要です。そのとっかかりと情報発信の場としてここ『和樂の里』があるんです  

山里で様々な体験をしながら、祖生での暮らしをイメージできる農家民宿。少子高齢化が進む反面、コロナ禍で脱都市化の機運が高まっている今、坂田さんのサラリーマン仲間でも、「健やかに田舎で暮らしたい」と憧れている人は多いのだそう。 

「今はまだスタート地点に立ったばかり」と話す坂田さんの目線の先に、祖生の山里の明るい未来が見えたようでした。 

 

 

執筆時期:2020年11月
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住所|山口県岩国市周東町祖生3130

TEL|0827-93-2898 

定休日|2021年1月〜3月の間は冬季休業予定

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