2018年5月から山口県萩市の地域おこし協力隊として活動する岡本智之さん。岡本さんは世界各国を旅したシェフ。その経験を生かして始めた、萩の各地を巡って食材を提供してもらい、集まった人とパエリャを作ってみんなで食べる「パエリャ巡礼」が話題に。また2019年の萩市ビジネスコンテストでは「集落生き残りレシピ」という企画でグランプリを受賞するなど、食を通した地域おこしに取り組んでいます。

萩市の見島で食材を調達する岡本さん
現在、萩市の明木(あきらぎ)地区に築100年以上の古民家をリノベーション中とのこと。現場にお邪魔し、活動の思いとその原動力はどこから来るのか、お話を伺いました。

写真:松田 澪衣菜
ー岡本さんが萩に移住するまでのことを教えてください。
岡山でイタリアンのカフェとバルを経営していました。12年ほど前からです。店を始める前は、大学卒業後、オーストラリアで日本語教師を1年間していました。そのときに飲食業をやりたいと思うようになり、アジア中心に旅をして、料理の勉強をしました。
日本へ帰国する前にインドネシアに行き、チベット、ネパール、インド、パキスタン、中国とまわり、上海から船で帰ってきたのですが、その旅の間に料理の勉強をしました。
ーどうやって勉強したのですか?
自分が食べてみて美味しいと思ったお店のキッチンへ突撃して質問し、教えてもらっていました。それと貧しい地域の子供達の学校に行って、英語や日本語を教えたりもしていましたね。
帰国後はイタリアンの店で2〜3年働き、27歳で独立してイタリアンカフェをオープンしました。そのお店が流行りすぎたんです。土日は朝から閉店間近まで、ずっと行列ができていました。
ー順風満帆ですね!
でも、お金が儲かったから幸せとは全然思えなくて。当時、従業員20名くらい抱えており、会社のトップとして、やりたいことができなくなっていったんです。料理人として極めたい気持ちもまだまだありました。
ーどんなことがやりたかったのですか?
独立するときに事業計画を作っていたのですが、やりたいことが色々ありました。「最終的には村をつくりたい」と書いていました。けれど、従業員の生活もあるし、勝手なことはできないと思っていたところに、タイミングよくご縁があり、お店を売却することにしました。32、3歳のときです。
当時、結婚したばかりだったのですが、それから、旅先のポルトガルで出会った料理人のツテで、妻と二人ヨーロッパやペルーへ1年間料理修行の旅に出ました。2〜3カ月ごとに移動して、美味しいと思うレストランで働きながら旅を続けました。
ー旅する人生ですね。日本へ戻るきっかけはなんだったのですか?
妻が妊娠し、日本で出産することにしたためです。その後2年ほどは進むべき道を悩み続けていました。海外の店に呼ばれたりもしましたが、日本で子育てをしたい妻の意向を尊重しました。
ー萩で地域おこし協力隊となった理由は?
食材の魅力が大きいです。岡山にいる頃から、狩猟免許は持っていました。萩では海の幸、山の幸、農産物と素晴らしい素材がたくさんあります。食材だけでなく、自然、歴史、文化も含め、妻がここならいいと認めてくれたのも大きかったです。
ー地域おこし協力隊の活動としては、「パエリャ巡礼」が印象深いですが、どのようなものか教えてください。
萩の各地を巡って、食材を提供してもらい、集まった人とともにパエリャを作ってみんなで食べるというものです。これまで5カ所で行いました。この活動がきっかけでパエリャの世界大会に出場するという貴重な機会をいただきました。

萩市見島でのイベントの様子
岡本さんの「パエリャ巡礼」の活動をまとめた動画はこちら↓
ー2019年の萩市のビジネスコンテストでグランプリを受賞されましたね。どういったプランを発表されたのですか?
「集落生き残りレシピ」というテーマで発表しました。飲食店を中心に、宿泊事業、物販、教室(日本語・日本料理)等の総合サービス事業を展開し、観光客誘致・移住者誘致・空き家対策・食のブランディング・食のPRへ繋げるというものです。
ー萩市明木のこの物件を購入した理由は?
一目惚れです。庭やロケーションが美しく、駐車場スペースもあり、理想的でした。ここは、築100年以上で、元は武家屋敷だったと聞いています。空き家となってはいましたが、オーナーさんが換気や庭の手入れなど非常によくしていたことで、保たれていました。

写真:松田 澪衣菜
ーリノベーションはどのように進めていますか?
「ほぼ丸ごと家一軒リノベーション」と称し、設計図を書いてくれる方、大工さん、DIYが得意な方にお願いする部分はお願いし、イベント的に色々な人に手伝ってもらって進めています。

建設業経験者が手伝う様子(写真:松田 澪衣菜)
ーなぜ、そのようなやり方を?
萩には古い空き家はたくさんあって安いけれど、直すのにお金がかかるので敬遠されています。自分でやることでこれだけコストを抑えられるよというのを提示できたらと思っています。それと、同じようにリノベーションをして空き家を活用する移住者が増えてくれたらという思いもあります。

お茶を淹れてくれる岡本さん(写真:松田 澪衣菜)
ーここは、どんな場にしたいですか?
宿と飲食店になる予定です。立ち止まって、鳥の鳴き声に耳をすませるような場所を作りたいと思っています。
飲食店の席数は20くらい。昼の営業中心で、夜は予約やケータリングにしようかと。地域の人が外の人と触れ合う場を作って、地域の人に働いてもらって活力になって欲しいです。
ーどんな料理を出すのですか?
フュージョン料理になると思いますが、どんな料理にするのかというよりも自分の料理で何ができるのか?を考えているところです。
この地域の素材を使った軽食でもいいかもしれませんね。かつて、デパートにユキノシタを買いに行っていたこともあるけれど、ここには軒下に生えているので、そういうものを活かしていきたいです。
食育もやりたいと思っています。地産地消、ファーマーズマーケットの生みの親であるアリス・ウォーターのような活動をここでもできると考えています。
そして、農家が儲かるようにしたい。(この地域にとって)何がいい状態なのか?ということについて考え続け、実現していきたいです。
ー地域の人には岡本さんの協力者がたくさんいますよね。地域の方々とのコミュニケーションについて教えてください。
地域の人からは、ここが多くの人が訪れるような場所になるとは、信じてもらえていないかもしれません。過去にお店を成功させたという自負もあったけれど、今は、無力さを認めた上で、コミュニケーションを取っています。相手の言うことをまず受け入れて、協力に感謝して恩返ししようと思っています。この場の利益が地域の利益になるように。
ありがたいことに、地域のための活動についてプレゼンや講師をしてほしいと呼ばれることが多いので、そういうときにビジョンを伝えています。
ー最後に、ここに来る人にはどうやって過ごしてほしいですか?また岡本さん自身はどんな日々を送りたいですか?
宿については、何もしないことを楽しんで欲しい。立ち止まってこういう楽しみ方もあるんだ、を提案したいです。そして、何かの課題を持って帰ってもらいたい。お金をかけなくても楽しめるというような「本質的な豊かさ」を伝えることで、もっと幸せになれると思っています。
自分自身については今、幸せなんですよね。現代は生きることから離れた仕事が多すぎると感じます。自然や食にかかわって生きることに日々幸せを感じています。無駄なことをたくさんしてきたからシンプルに生きられるようになったのだと思います。
岡本さんのシェフとしての熱い思いの詰まったフリーペーパー「萩 出汁の旅」も配布中。現在、道の駅つつじ・あさひの支配人としても活動中で、古民家のリノベーションも完成間近とのことです。

萩 出汁の旅
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【岡本智之さん】
岡山県出身。岡山県で、オーナーシェフとしてイタリアンレスカフェ、バルの2店舗を経営後、店を売却し、世界各地へ料理修行の旅に出かける。2018年より、萩市地域おこし協力隊に。2019年萩市ビジネスプランコンテストでグランプリを受賞。2020年より道の駅つつじ・あさひの支配人として活動しながら、萩市明木の古民家を購入しリノベーション中。
執筆時期:2020年10月
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