山口県東部に位置する周防大島。穏やかな海に囲まれ、一年を通して比較的温暖な島です。「瀬戸内のハワイ」とも呼ばれるこの島に、2020年夏、一軒のパン屋さんがオープンしました。営業は金曜日の週一回のみ。一体どんな方が営まれているのでしょう。

※2021年5月より、毎週土曜日の営業に変更しています。

山口県周防大島の「Hilo Bakery」 

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こちらが「Hilo Bakery(ヒロベーカリー)」。“Hilo”というのはハワイ語で「結ぶ、つなぐ」という意味だそう。瀬戸内のハワイならではのネーミングです。古い蔵を改装したという建物の一階がパン屋さんになっています。  

安心な素材で作られたHilo Bakeryのパン 

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bread

こじんまりとした店内の一角にパンが並んでいます。定番のあんぱんをはじめ、クマの形をした食パン、チーズパン、蒸しパンなど。どれも素朴で美味しそう!ポストハーベストのない北海道産小麦を3種類使い分け、マーガリンは使わないなど、素材にもこだわります。時期によって野菜やひじき、みかんなど周防大島の食材を使うことも。 

※ポストハーベスト……防カビ、防腐などのため収穫後の作物に散布する農薬のこと。 

bread

こんな変わり種パンも見つけました。「島みそカルツォーネ」? 

「それはお湯を注いでスープのようにして食べるパンなんです。中に大島の味噌とわかめ、ネギが入っているので、それを溶かしながら召し上がってくださいね」 

そう教えてくれたのは店主の三谷弘美さん。
ちょうど来店した近所の常連さんにも、今日のオススメのパンを紹介していました。 

客

毎週来てくれる常連さん。近所から徒歩や自転車で来られるお客さんも多い

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週替わりで新メニューが登場

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レジを担当するのは弘美さんのご主人、博俊さんです。
「え〜っと、150円のパンが2つ……あっ間違えた!」 

「あなた、ちょっとしっかりしてよ〜!」と弘美さんがツッコミます。  

そこで登場したのが……そろばん!! 

そろばん

「私はこっちの方が慣れているので早いんです」と博俊さん。「お客さんには申し訳ないのですが、なかなかレジを覚えられなくて……。『値段、合ってましたよ!』とわざわざ教えてくれる方もいました」 

なんだか、ほっこりするエピソード。まさか、パン屋さんでそろばんが出てくるとは思いませんでした(笑) 

ところで、どういう経緯でHilo Bakeryを始められたのでしょう? 

東京での暮らしを経て 

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東京生まれ東京育ちという弘美さんは、2019年ご主人の故郷である周防大島に夫婦でUターンしました。  

「私は結婚後、初めて島を訪れた時からずっと『ここに住みたい!』って言っていたんです。辛い時もこの海の景色をただ眺めているだけで癒される。『自然力』を感じました」 

逆に故郷に執着していなかったという博俊さん。二人は都内で高校の国語教師として勤めていました。転機が訪れたのは弘美さんが出産し、子育てを始めた頃。 

「息子が喘息持ちだったんです。世話をするために、夫婦どちらかが仕事を休んでいました。そのうちに『自分の子も見られないのに、よその子を見られるわけがない』と私は教員を退職しました」 

アレルギーもあった我が子のために、食を勉強しパンを焼くように。徐々に周囲にも広がって東京では25年間パン教室を主宰しました。 

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教え子がデザインしてくれたという看板

「パン教室には発達障害など特別な配慮が必要な子どもや、その親御さんが生徒として通ってくれました。親も不安で、子どもに対して過干渉になる人が多いんです。子どもが自ら何かを決めたりやったりする前に、つい手出し、口出ししてしまう。逆に仕事が忙しくて子どもと対峙できない人もいますね。そういう親子をたくさん見てきました」 

パン教室と並行し、十数年間は小学校で学習指導員として子ども達と関わっていたのだそう。 

「安全基地になる人や場所があれば、たとえ他人でもその子を変えることができます。私は安全基地を作りたい。その子が生きていくための力を長い目で見ながらずっと支援したい。ただ行政の枠組みだと期限で区切られるのでそれができなくて。これは自分でやるしかないと思いました」 

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弘美さんの活動をそばで見てきた博俊さんは言います

「妻が子ども達と向き合っているのを見ていたら、信頼関係が出来上がっているのを感じます。結構ざっくばらんに接しているんですが、筋が通っているから子ども達も納得するんでしょうね」 

周防大島に移住後も、パン教室は継続中。口コミで知った様々な生徒さんがパン作りはもちろん、料理や和菓子作りを学んでいます。 

これからの目標 

人

「将来はベーカリーカフェを開きたいと思っています。支援が必要な方々がトレーニングできる場にしたい。カフェはお客さんとのコミュニケーション、コーヒーを運ぶ集中力、レジでの計算など様々な力が試される場所ですから。パンをツールとして地元とのつながりができたらいいですね」 

“生きづらさを抱えている人が生きやすくなるためのサポートをしたい” 

その目標に向かって、Hilo Bakeryを始めた弘美さん。今後はさらに地元の食材を使ったオリジナルパンを開発したり、お客さんの要望に応えるために「リクエスト箱」を作ろうかと夢を膨らませていました。 

Hilo Bakeryの挑戦はまだ始まったばかり。人と人を“結ぶ”場所として、どのように進化していくのか楽しみです。 

 

 

 

執筆時期:2020年10月
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住所|山口県大島郡周防大島町西三蒲1650 

TEL|0820-74-2825 

営業日|毎週土曜日

営業時間|10:00〜16:00(パンが売り切れ次第閉店)