日本三天神の一つに数えられる防府天満宮(山口県防府市)。ここの境内や石段では、七夕まつりやプランターを並べた花回廊など、1年を通じて多彩な催しが展開されています。 

防府天満宮の春の恒例行事「大石段花回廊」。ことしはプランター800個で希望のともしびを表現した

傘玉

7月の七夕まつりでは、地元企業がつくる傘を使った「傘玉」をライトアップ。コロナ禍で暗くなりがちな人びとの心をカラフルに照らした

うしたイベント企画段階から携わり、協賛企業のまとめ役からプレスリリースまで運営全体を担っているのが、防府商工会議所の吉田充孝さんです。 

新型コロナウイルス(以下コロナ)社会への影響が深刻化する中、吉田さんは商工業の現状や今後をどのように見ているのか、聞きました。 

―これまで、たくさんのイベントを企画されていますね。 

そうですね。オリジナル鍋の人気を競う「鍋1グランプリ」や、女性だけが神輿を担いて街を練り歩く春の幸せますフェスタ おんなみこし連合渡御など、天満宮だけでなく中心市街地を会場にしたイベントも続けてきました。「おんなみこし」は2018年、79団体が計100基を担いで、ギネス世界記録にも登録されました。 

おんなみこし

ギネス世界記録にも登録された「おんなみこし」 

イベントで生まれていた、「まとまり」と「活気」 

―そうしたイベントは、いまどうされているのですか? 

多くは自粛となっています。ただ、イベントについての質問をよく受けるのですが、それが私の仕事のメインではありません。商工会議所役割は、あくまで事業所の経営を改善することですから。イベントはそのための仕掛けのひとつです。 

とは言うものの、コロナ禍の中で逆にイベントの大切さを痛感しています。みんなが気持ちをまとめて、ひとつのことに力を注ぐことで、やっぱりそれぞれの中に活気が生まれるんです。の機会が設けられないのは気になりますね。 

従来のイベントの代わりにはなりませんが、こんなときだからこそできることもあります。
市内各店舗のテイクアウト情報を集めたサイトはその一つです。「コロナでこれから大変なことになる」と不安が膨らんでいた4月、何かできることはないかと考えて急ピッチで立ち上げました。 

すごいぞ防府のテイクアウト

テイクアウト情報を集めたサイト「すごいぞ!防府のファミリーセット&テイクアウト」

緊急事態宣言の発令とほぼ同時に掲載店舗の募集を開始。多くのお店がテイクアウトメニューを考案し、すぐに100ほど集まりました。サイトはいまもたくさんのお客さんにご利用いただいています。 

事業所の皆さんは客さんが来なくなったり、仕事がストップしたりすると、どうしても気分ぎがちになりますでもテイクアウトを提供することで、メンタルをキープすることにも繋がったのではないかと考えています。 

嵐が過ぎ去るのを待っていては、ダメ 

―緊急事態宣言から7カ月たちました。飲食店などの状況はいかがですか? 

やるべきことをきちんと実践しているところは、状況が改善ています。でも、ただ嵐が過ぎ去るのを待っているだけのお店は、厳しい状況が続いていますね。 

―やるべきこと、とは? 

先ほどのテイクアウトもそうですが、状況の変化にしっかり対応できているかどうか、ということですね。この時期を変革のチャンスととらえ、改善点を見つけ、実践すること。ここに尽きます。 

例えば、あるお店はそれまで6070代のちょっと高級志向のお客さんが多かったのですが、この時期に3040代向けの手頃なメニュー構成に変えました。より入りやすするため内装も改めたところ、いま人気店となっています。 

センター前

管理者として活動する防府市中小企業サポートセンターの前で、スタッフと話す吉田さん

―なるほど。時代の変化を敏感に察知し、適応していくことですね。吉田さんは、そうした具体的指導も行っているのですか? 

いいえ。私は基本的に「こうしたらいい」といったことは伝えません。外部から言われてもやらないし、やったとしてもうまくいかないからです。「馬を水場まで連れていくことはできても、水を飲ませることはできない」といいますが、本当にそうなんです。 

でも、自分の内側から湧き上がって、自ら「やる」と言ったことは、皆さん責任をもってやり遂げます。答えは経営されているご本人が一番よく分かっている。タイミングを見て、それを引き出すのが私の役割だと思っています。 

そして何より大切なのは、マインドを引き上げることです。いままで何をしてきて、どういう強みがあるのか。そして、これから本当したいのか。そこを明確にするお手伝いをしています 

停滞気味の時期こそ、自分を見つめ直す好機だと感じています。その上で、原理原則に則って実践していく。そういう部分は、コロナであるとかないとか、関係ないですね。 

コロナ禍でも、大切なのは「原理原則」  

―原理原則とは? 

とてもシンプルなことです。お店なら、お客さんにとって楽しく、心地いい空間になっているかということ。当然ながら、居心地の悪いところに人は集まりません。 

そのためには、掃除が行き届いていることはもちろん、スタッフが楽し働いているかどうかとても大切です。つまり、働く喜びを感じられるように、経営者がスタッフを大切にし、気を配っているかどうか。一番身近な人、最初のお客さんでもあるのでから  

―売り上げアップというと、何らかのマーケティングを学ぶとか、インスタグラムや動画がどうこうといったテクニックに走る人も多いと思いますが。 

そういうものは無駄ではありませんが、すべて枝葉なんです。根や幹となる原理原則をしっかり実践した上でないとまったく機能しません 

会議所に入って19年。これま多くの事業所を見てきて、スタッフをないがしろにしながら成長を続けた事例はありません。これは普遍的な法則だと思います。軸足しっかりと見つめ、そのうえで時代に応じた展開を地道に続けているところは、この時期でもぐっと成長しています。 

会議所前

トラブル続きだった自分を変えた、先輩のひと言 

―では次に、経営指導やイベント企画などをする上で吉田さん自身が大切にしている原理原則があれば教えてください。 

そうですね……。さきほどの話とも重なるのですが、やはり日ごろの積み重ねですね。事業者さんと日々コミュニケーションを続けて、信頼を深めていくということです 

私も入ってまだ6,7年のころまでは、トラブル続きでした。イベントなどを企画すると必ずと言っていいほどもめていたんです。そのたびごとに私は「あいつがやってくれないから」「わかってくれないから」と文句を言っていたんですね。 

するとあるとき、会議所の先輩が「あんた、いつも同じことを言ってるよね。問題があるのはあんたじゃないの?」と。はっとしました。それまで自分が間違っているなんて考えたことなかったので。 

相手が分かってくれないのはこちらの伝え方が悪いからだったんです。分かるように伝えていない。そして、それ以前に、しっかりと信頼関係を築けていなかったんです。つまり、日ごろの積み重ねがまったくできていなかった 

―信頼関係を築く日ごろの積み重ねというのは、具体的には? 

例えば、ちょっとしたことでも文書や電話、メールで済ませるのではなく、足を運び、会って話す。相手が販促イベントなどを開いたなら、必ず顔を出して、ひと言声をかける。こういう小さなことがとても大切なんです。ここぞというときに協力をお願いできるのは、そうしたひとつ、ひとつの先にあるのですから。 

どんな時代になっても、いくらITが進化しても、人間の心は変わりません。心で付きあえる関係になること。これはコロナがどうこうというのと関係なく、普遍的な法則だと感じています。 

アーチ

造園会社と鉄鋼業者の協力のもと、防府天満宮の鳥居前に設置した花のアーチ。524個のヴィオラの鉢を使っている

「愚直に、信頼を築く」。本質が大きな差を生む時代へ 

―時代が変わっても、人間の心は変わらない。確かにそうですね。どんな仕事にも当てはまる話だと感じました。 

コロナによって、おそらく消費者の意識や価値観は変わっていくはずです。そこをどう捉え、消費者ニーズに合った商品やサービスを提供していくのということは極めて大切なことです。  

ですが、それ以前に原理原則をどれほど徹底できているのか。最後にもう一度、このことを強調しておきたいですね。お客さん社員従業員、そして仕事で繋がる全ての人たちと、愚直にしっかりと信頼関係を築いていくこと。際限なく成長を続けてきた経済システムがいったん機能停止したいま、こうした本質的で当り前のことこそ、大きな差を生んでいく要因になるだろうと感じています。 

 

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吉田充孝さん 

防府商工会議所商工振興課課長。
1977年北海道生まれ。父の転勤で北海道、神奈川・静岡・長野・広島・愛知・京都・鹿児島で生活する。2001年から防府商工会議所職員。防府市内の事業所の経営指導に携わる。 

「防府天満宮大石段花回廊」「防府天満宮七夕まつり」「おんなみこしでギネス世界記録挑戦」「鍋-1グランプリ」など、各種イベントを企画・運営。だが初めてイベント企画を任された当時は、全てのことを自分一人で行ってしまったため協力者がおらず、多くの人に迷惑をかける。その反省から、「人を動かすこと」や「組織マネージメント」について実践と学習を繰り返し、現在に至る。自身の経験をもとに経営や各種企画のポイントを伝えるセミナーでも講師を務める。 

 

 

執筆時期:2020年11月
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