「一度しっかり根本を押さえると、自分で応用が利くようになります。レシピに振り回されることなく、しかも時間をかけずにたくさんの美味しいおかずが作れるようになるんです」
そう話すのは、料理研究家の影山みづきさん(山口県周南市)。もともと建設業界で働くリケジョ(理系女子)だった影山さんが伝える料理は、「分かりやすい」と評判を呼んでいます。
これまでに約6000人に伝えてきた「シンプルでていねい。しかも美味しいお料理」の秘密とは-。影山さんのキッチンスタジオにお邪魔して、お話しを伺ってきました。

影山みづきさん
「一番大切なのは、基本と理(ことわり)。ここがしっかり分かっていないから、料理が大変な負担になってしまうんです」。教室の特徴について尋ねると、影山さんは明るく、軽やかに話し始めました。
理を知るだけで、ぐっと美味しくなる
たとえば、出汁の取り方について。
「『昆布は水から、かつおは湯から』という言葉があります。こうした基本を知らなかったら、おいしい出汁がちゃんと取れないんです」。
続いて「理」について。「昆布は80度以上になると旨味が出なくなる。だから取り出すんです。でも、一番旨味が出るのは60~65度。かつお節は95度くらいが最適。これらは科学的なエビデンスもあります。こういったことが理なんです。それぞれの食材の持つ理を知っているだけで、ぐっと美味しく仕上がるんですよ」
確かに分かりやすい。料理についてまったく無知な筆者でも、腑に落ちました。

影山さんが使っている調味料
さらに出汁の取り方を身につけると、そこからアレンジも効くようになるそうです。
「塩と薄口醤油を少し加えるだけで、立派なお吸い物ができます。そこに野菜を入れたら煮物に、片栗粉を溶けばあんかけになって、焼いた豆腐やキノコに掛けるだけでご馳走になる。基本と理を知れば、そこからいくらでもレシピを増やせるんです」
「献立を考える苦労から解放された」
「なぜこのレシピなのか」「どうしてこの手順なのか」という理由まで掘り下げて教える影山さん。受講生からは「分かりやすい」というだけでなく、「献立を考える長年の苦しみから解放された」といった声も寄せられるそうです。
「小さな子どもを抱え、仕事もあって、忙しい中でなんとか料理を作っても、『美味しくない』といって食べてもらえない。それでも毎日作らないといけない。もうどうしたらいいか分からないと疲れ果てている方も珍しくありません」
料理教室に通っても、その多くは「個別のレシピを伝えて、一緒に調理して食べておしまい」というものばかり。影山さんは「それではいくらレシピを覚えても、終わりがない」と指摘します。
一方、建築と同じく、しっかり基礎から組み立てる力がつくなら、「応用が効くようになって、自分でレパートリーを増やせるようになっていきます。しかも美味しくて、手間も省ける。お料理への意識がびっくりするくらい変わる方も少なくありません」
影山さんが料理の面白さに目覚めたのは、2009年。第一子の誕生をきっかけに「子どもには、責任を持ってちゃんとしたものを食べさせよう」と考えるように。ところがスーパーなどに行くと、添加物のたくさん入っているものばかり。
「安心して食べさせられるものが見当たらないんです。だったら自分で作ってみようと。やってみたら結構上手にできたんですよね」
睡眠3時間。「でも、楽しくて」
工夫を重ねながら料理に加え天然酵母パンやお菓子を中心に作っていたところ、子育て中のママ友たちから「教えてほしい」と頼まれるように。趣味で教えていくうちにだんだんと評判になっていったそうです。
「自分も伝えることが楽しくて。しかも皆さんが家庭で振る舞えば、そこで家族の方にも喜んでもらえる。そう思うと、すごくやり甲斐を感じるようになりました」
責任をもって教室で教えることができるようにと一念発起し本格的に学ぶために、建設会社に職場復帰後も勉強を続けます。平日は仕事と家事・育児を終えて夜間に独学。土日は福岡のスクールや広島、京都の料亭で開かれる教室へ。睡眠時間が3時間程度の日々も続きましたが「学ぶのが楽しくて、大変とは感じなかった」と言います。
2013年に料理研究家として独立。発酵食・和食などの教室もスタートさせ、2020年には「Midukitchen合同会社」を設立。現在は天然酵母パン教室はスタッフに任せ、影山さんは発酵食・和食を専門に教えています。
いつか「お料理の駆け込み寺」を
理系的料理の評判はどんどん拡がり、最近は自身の動画講座のほか、秋川牧園(山口市)とコラボした動画配信も開始。料理本の発売に向けた準備も進行中です。
これから全国規模へと活動の幅を大きく広げていく影山さんですが、最終的なビジョンを尋ねると、意外にもほっこりするような答えが返ってきました。
「いつの日か、お料理の駆け込み寺的な場所を開きたいと思っています。作り方が分からなくて悩んでいる人がいたら、『おいでおいで』と誰でも迎えてあげたい。家庭料理のおいしさと温かさを知ってほしい。そんな、日本の伝統料理の「基礎と理」を大切に家庭料理をていねいに伝えるおばあちゃんになれたら嬉しいですね」
※記事中の写真はすべて影山さんにご提供いただきました。
執筆時期:2020年12月
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