目の前で広げられたビニール傘を見て、まずそのサイズに驚きました。一般的な商品と比べ、ふた回りくらい大きく感じます。

大きなビニール傘を広げる岡本卓磨さん
「これは骨組み1本の長さが75センチ。二人で入っても十分に雨をしのげます」。そう話すのは、創業120年の老舗傘メーカー、オカモト(山口県防府市)の岡本卓磨部長。長引くコロナ禍など、先の見通せない最近の社会情勢を「100年企業」はどう捉え、動いているのか―。同社のインターネット販売事業を担当している岡本さんの言葉には、ヒントがたくさん詰まっていました。
環境問題から生まれた「丈夫なビニール傘」
「この大きな傘の骨組みはグラスファイバー製なんです。そのため、従来の鉄製のものと違って錆びないし、しかも軽くて、壊れにくいんですよ」
「耐風ビニール傘」という商品名の通り、仮に強風で上向きにひっくり返ったとしても、曲がったり、ねじれたりせずに元通りになるのが特徴とのこと。岡本さんは「釣り竿にも使われているグラスファイバーだから、すごくしなやかなんです」と説明します。
大手ECサイトの自社モールなどで販売。公開した動画は4日間で180万回の再生回数をカウントし、売上げも倍に跳ね上がったそうです。
「大きくて壊れにくいものを探していた」「強固で気に入った」など、商品レビューでも高評価を得ています。
この傘を作った背景には、意外にも環境問題がありました。マイクロプラスチックによる海洋汚染など、石油製品が原因の環境問題が深刻化するなかで「傘も変化する必要がある」と同社は考えたそうです。
「壊れやすく、使い捨てのイメージが強いままでは、そのうち生産しづらくなってくる。耐久性のある、長持ちする製品に進化していかないと、時代に取り残されるはずです」
バラ柄の「一生もの」の傘が大ヒット
おしゃれな傘も、同社の主力商品のひとつ。
「こうした図柄入りの雨傘は、女性への贈り物として注文される方がたくさんいらっしゃいます」。そう言って岡本さんが広げた傘には、一面にバラが描かれていました。
通常の倍の16本もの骨組みを使っていることで滑らかな円形となり、形も美しく仕上がっています。2020年5月には、母の日のプレゼントとして約1000本ものネット注文を受けたそうです。
ほぼすべての製品を中国の工場で生産。現地で3度検品し、さらに日本で1本、1本厳しくチェックしたものだけを出荷しています。
和傘で「made in japan」の復活を
そんななかで、いま同社が改めて取り組んでいるのが「made in japanの復活」です。
その象徴的な製品が、和傘。

和服の生地を使った和傘
1本、1本、職人の手作り。着ることのなくなった和服の生地を貼り付け、持ち手の部分には竹を使っています。地元で7月に開催される「防府天満宮七夕まつり」では、拝殿に並べてライトアップも。

防府天満宮拝殿に飾られた和傘(岡本さん提供)
ネット販売だからこそ、「心」が大切
販路は、量販店などへの卸売りが8割。残りはネット販売が占めています。「数年前までは卸が10割。ネット販売について本腰を入れて勉強し、こつこつと改善していったら着実に伸び始めました」
そのネット販売で大切にしていることは何でしょうか。
「心を込めて、丁寧に対応することに尽きます。例えば、お客さんからの注文フォームで不明点があれば、メールではなく電話で直接お聞きします。そのほうが結果として早くお届けできるので」
贈り物として受注した場合には、包装にも細心の注意を配るとのこと。「直接お会いできない分、気持ちを伝えられるのはラッピングだけなので。ネット販売だからこそ、そうした『ひと手間』が大切なのだと感じています」
「品質の維持」が信頼に繋がる
時代の変化に適応しながら、成長を続けてきた同社。最後に、「100年企業」として大切にしていることについて尋ねると、普遍性のある答えが返ってきました。
「それは『品質の維持』です。素材の原価が上がって販売価格を変えざるを得ないとしても、傘の品質だけは維持、またはより良くしていきたいと考えて続けてきました。それが結果として、会社への信頼を築くことに繋がっていくので」
つまり社会情勢がどうあれ、常にお客さんの満足を最優先にし続けるということ。時代の変化による雨風を何度も耐えてきた企業だからこそ意味を持つメッセージだと感じました。
執筆時期:2020年12月
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