観光地として知られている萩市の中に、今、先鋭的な変化を遂げている地域があります。それが伝統的建造物群保存地区・浜崎。その動きを先導しているのがはぎ地域資産株式会社です。
2018年10月に浜崎の川向かいにしゃぶしゃぶ専門店いり吉を開業。その後浜崎でイベント企画を行う場ukisimaやイベント・図書スペースを併設する三浦金物店、一棟貸しのお宿hotel168(ホテルイロハ)」と次々に事業を展開しています。
今回は代表新井達夫さんにお話を伺いました。 

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拠点を神奈川県鎌倉に置く新井さんは、2009年に株式会社bnoteを設立。2015年には鎌倉三大洋館の1つ古我邸(こがてい)を、フレンチレストラン・ウェディングの会場としてオープン。地域の人、観光の人に愛される場所として、現在も多くの人を魅了しています。 

鎌倉で事業を展開する新井さんがなぜ萩に? 

――まず、新井さんと萩との出会いを教えていただけますか。 

どこか環境の違う場所に行きたいと思っていたです。そのタイミングで萩を訪れることになって。浜崎は伝統的建造物群保存地区で海や市場、風情のある街並みなどがあるのに、生かされていない。もったいないなと感じました。萩市に対して提案を行う機会があったので、もっとこういうものがあればいいのにという施策を提案したところ、『誰がお金を出して、誰がやるかが問題なんだ』と返されてしまい。それで、じゃあ僕がやります、ということになったです 

はじめにオープンしたのは地のものを使用したしゃぶしゃぶ店「いり吉」

――思いがけない流れで、萩での事業を開始することになったんですね。2018年7月に「はぎ地域資産株式会社」を立ち上げ、その後約2年の間に4つの事業を開始しています。建造物や街並みの美しさを保ちつつとはいえ、現代の感覚に合わせて編集されていくことに、街の人たちはどのような反応なのでしょうか。 

街の人は応援しているよって言ってくれてはいるけど、仏壇があるからという理由で家を貸してもらえなかったりする。本当は歓迎されていないじゃないかなって不安に感じることもあったです。でも最近ようやく本当に喜んでもらえていると感じられるようになって。本当の意味で、街の人の気持ちに変化が起きてきたのかなって思うんですよね。浜崎で事業を始めようとしてくれる人も増えてきて。僕もそこに対して、責任を持ってみようかなと思うようになりました 

ベッド

築200年の蔵を改装。一棟貸しのお宿「hotel 168」として昨年12月オープン

とにかくやりたいことをやりたいようにやるだけ 

――萩で展開している事業は、飲食業、企画業、宿業など多岐に渡ります。はぎ地域資産株式会社とは、一体何をする会社なのでしょうか。 

やりたいことをやりたいようにやっているだけなんです。地域活性をしているのかと言われることもありますが、結果的に地域活性になっていた、ということはあっても、それ自体は目的にはならないと思っているんですよね。ただ純粋にそのときにやりたいと思ったことをやっていけたらいいなと思っているんです。それはうちの会社のメンバーにも共通して持っている認識です 

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以前にも取材をさせていただいた「ukishima」

(ukishimaの記事はこちら) 

――ただやりたいことをやるというのは、なかなか簡単にできないことのようにも思えます。さらにその認識を社内のメンバーと共有していくとなると身構えてしまう人も多いように思いますが、どのようにハードルを下げているのかが気になります。 

やりたいことをやってみて、ダメだったらそれでもいいと思っているんです。みんな真面目だから、もっと力を抜いてぽわんとやったらいいのにって。ただ、追い込まれる前に相談をしてもらえる関係づくりが大切だと思っています。困っていることを誰かに話すことができれば、なんとかなるかもしれない。だから会社のメンバーに対しても、街の人に対しても、いつもできるだけ軽やかにご機嫌な感じでコミュニケーションをとっていたいなと 

――次の展開はすでに見えているのでしょうか。 

現在浜崎の商家である藤井家という古民家を使って、街のシンボルとなるような空間を作ろうと思っています。浜崎は本当に良い環境なので、陳腐な地方の観光地ではなく、ハイレベルな観光地になったらいいなという思いもあります 

自分がやりたいと思っていたことの、その先。 

――萩に足を運ぶようになってからの5年間で一番嬉しかったことはどんなことですか? 

今の会社のメンバーと、一緒に仕事をしていることです。友だちのような関係で仕事をしたいと思っていたのですが、実際に経営をしてみると、どうしても上下関係が生まれてしまうことが多くて。でも今のメンバーとは理想の関係が築けていると思います。会社のみんながやりたいことをやっているのが、嬉しいんです
僕は萩で、自分がやりたいと思っていたことの先に来れたと感じられました。その経験は初めてだったかもしれない。それは今の会社のメンバーや地域の人との関わりの中で生まれたものだと思います 

 

一見、まちづくりや観光業を行っているようにも見えますが、新井さん自身が何かに固執している様子はありません。やりたいことをやるの意識の中でいまは浜崎という土地と縁があり、広がっているからこそ、浜崎での取り組みに責任を持って続けていくという新井さん。 

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はぎ地域資産株式会社のメンバーと三浦金物店の前で

屈託なく笑うメンバーと新井さん。古くからの友だちの集まりのように穏やかな時間が流れており、新井さんの表情からも萩の居心地の良さや充足感が伝わってくるようでした。 

 

 

執筆時期:2021年3月
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