「ええと、取材を始める前に、とりあえずカレーを一品いただきますね。お勧めってなんですか? 

軽い気持ちでそう訊ねると、カウンターの中から予想外の言葉が返ってきました。 

「よく『お勧めは?』って聞かれるけど、分かんないんですよね。だって、初対面の人の好みも、そのときの体調も、いまどんな味を欲しているのかも、こっちは把握していませんから。答えようがないんです」 

ちょっとぶっきらぼうにそう話すのは、「カレー食堂 コモやん」(山口県防府市)の主、小元眞一さん。 

カウンター

小元眞一さん

言われてみれば、確かにその通りです。「じゃあ、このお店らしいものをお願いしてもいいですか?」 

「う~ん。なんか、分かりやすい答えだけを探していませんか?そもそも、カレーって何ですか? 

カレーって、何ですかって……?? 

「ほとんどの人は、興味を持ってないんです。だからカレーって何なのか考えたことがない。詰め込むだけ、腹を満たすだけのモノとして扱っているから、それ以上知ろうと思わないんです」 

モノじゃなく、食事を提供したい 

小元さんによると、カレーはもともと「食事」や「ご馳走」を意味する言葉で、何か特定の料理を指すのではないとのこと。「インドの人に聞いたら分かりますよ。でも、日本では黄色いものがご飯に掛かっていれば、それをカレーと呼びますよね。日本人がそういうものにしたんです。そのほうが簡単だし、売れるから。そういうのが欲しいのならチェーン店に行かれたほうがいいと思います 

では、小元さんにとってのカレー(食事)とは? 

「美味しい食事を提供したい。そう思って作れば、自然と愛情が入ります。逆に愛情なく作るなら、それはただの作業だし、出来上がるのはやっぱりモノなんです。僕は愛情を提供したい。だから真剣に作るし、時間も掛かります」 

そうしたお店の姿勢を理解し、興味を持ち始めるなら、そこには新しい世界が広がっていくとも。 

「調理をする音、漂い始めるスパイスの香り。食事が運ばれてくるまでの待ち時間も、気分高揚させてるはずです。もっと言うなら店に来るまでの移動時間や、周りの風景まで楽しげに見え始めます。僕はそういう食事を提供したいんです 

スパイス

「母の料理」がルーツ 

「食事」への強い思い入れ。そのルーツは少年時代まで遡るそうです。 

奄美大島(鹿児島県)で生まれ育った小元さん。テレビで食べたことのない料理を見ながら、「あれが食べてみたい」と言うと、必ず母親が作ってくれたと言います。 

「当時はインターネットなんてないから、本で調べながら、時間をかけて工夫していたんだと思います。相手のことを考えて料理作るっていうのは、そんな母の姿から影響を受けているんだと思います 

海外を巡り、生きた食文化に触れる 

19から4年間ヨーロッパ、北アフリカ、中東、中米、アメリカ、中国……などを放浪。現地の家庭に招かれ、ご馳走になることも多かったそうです。 

家族のなかに混ざって鍋を囲んだことも。そういうのってめちゃくちゃ美味しいんですよね。作り方を聞くと、みんな嬉しそうに教えてくれるんです。すると自然と、その土地の歴史や風土を踏まえた食文化の話になっていきます。料理人としての僕のベースは、そうした旅先での出会いによって培われていきまし 

国内の各地を巡り、2004年に防府市へ。販売業をしたり、飲食店で働いたりしながら、2017JR防府駅近くに「コモやん」をオープンしました。 

ドア

売っているのは、愛 

防府市で長く暮らし、店まで構えた理由は「なんとなく、ですね」。続けて小元さんは、『なんでこんな何もない町に来たのっていまだに地元の人からよく聞かれけど、どうして否定から入るんですかね?」と首を傾げました。 

「そういうのって、この土地で頑張って行こうと決意している相手に対して、すごく失礼だと思うんですよ。マイナスの言葉はいくらでも言えるし、簡単。でも、僕は幸せを共有したいと思っているんです。そのほうが、皆さんも前に進めるはずです」 

についてだけでなく、生き方の方向性も明確持っている小元さん。その媚びない姿勢から、「カレー売ってるの、ケンカ売ってるのか分からない」と言われたことも。 

「僕としては、愛を売ってるつもりなんですけどね」 

人

ただ、決して敷居を高くしているわけではありません。スパイスなどについて質問すると、丁寧に説明てくれます。店内では独自配合のスパイスキットも販売それらを使った約40種類のレシピをインターネットで公開しています。 

呼吸を合わせるようにして、作り続けたい 

小元さんの愛に共鳴熱心なファンになるお客さんも少なくありません。下関や広島など、市外、県外からの常連さんも多いそうです。ずっと休みなく働いてクタクタだから元気の出るのを作っていったオーダーを受けることも。 

「そういう方たちには、その日の状態に合わせてスパイスを工夫するなどして、僕も全力で調理します。関わらせていただくこと自体が喜びですからこれからも、お客さんと呼吸を合わせるようにして作り続けていきたいですね 

そして、カウンター越しに受け取った一品。一口ずついただくうちに、「カレーって何ですか?」と小元さんが問い掛けてきた理由が、少しだけ分かるような気がしました。 

カレー

 

 

執筆時期:2021年3月
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