学問の神様・菅原道真公を祀る防府天満宮(山口県防府市)。拝殿へと通じる石段沿いに、お茶屋さんを兼ねた鋳物の記念館がオープンしました。 

看板

館内は、茶釜や七輪のほか、さまざまな鋳型などが並んでいます。 

スタンド

運営しているのは、市内の鋳造業アボンコーポレーション。「防府はいまでも鋳物師(いもじ)町と呼ばれる地区があるほど、昔から鋳造が盛んだったのですと、同社の松村憲吾社長が教えてくれました。 

鋳物文化を伝えるために 

松村さんによると、鋳物師町は毛利氏が鋳物の職人を集めて製造拠点にしていたところ幕末には大砲梵鐘を造っていました。 

明治になると『長州風呂と呼ばれる鋳鉄釜風呂が関西で流行り、こからもたくさん納品していました(松村さん) 

アボンコーポレーションも、1821年に鋳物師町で松村さんの祖先が始めた鋳造場がその起源です。今年で創業200年目。松村さんで8代目となります。 

人

松村憲吾さん

鋳物の伝統を伝え、未来へと繋いでいきたい-。その思いから2020年7月、「長州鋳物記念館」を開設しました。鋳造体験ができるコーナーも。タンブラーや盃などを造って、持ち帰ることができます。 

サクッとできる鋳造体験 

カウンター

鋳造体験コーナー

15分ほどなので、手軽に楽しめますよ」そう言うと松村さんは、熱して液体状になった錫を鋳型に流し込みました。ほとんど時間を置かずに鋳型をカパッと外すと、艶やかな円柱の物質が姿を現しました 

鍋

型

はみ出した部分を切り落とし、飲み口を磨いて滑らかにすると銀色の美しいタンブラーの出来上がりです 

コップ

「誰でもできます。それに、失敗してもいい。何度でも溶かして使えるので。実はそこを知ってもらうことも、記念館を開いた目的のひとつです」 

伝えたいのは、持続可能な社会づくり 

松村さんが伝えようとしているのはエコロジーの観点からの鋳物の可能性について。鉄瓶や茶釜など、大半の鋳物製品で使われている鋳鉄は、原料の8割以上が鉄スクラップです 

「溶かせば何度でもリサイクルできるだけでなく、耐久性も高い。それに元が鉄なので、環境負荷ほとんどありません」 

公共工事で使われるコンクリートの耐久年数は約50年。一方、鋳鉄を使った工法だと100年以上持つそうです。それだけでなく、護岸工事や海中の環境整備などに使用するなら、海水中の鉄分不足の解消に繋がるとも。 

「海藻の栄養分となので深刻化する磯焼けの歯止めに繋がります。海藻は二酸化炭素を吸収するので、地球温暖化対策に役立つのです 

お茶は鉄瓶で。防府と喫茶文化の深い繋がり 

館内には「天神いもの茶屋」を併設。煎茶、ほうじ茶などと、饅頭や大福といった茶菓子を提供しています 

お茶は、鉄瓶で沸かしたお湯で丁寧に淹れてくれます。 

急須

「鉄瓶で淹れたお湯には二価鉄イオンが含まれているので、飲むだけで鉄分の補給に繋がります。昔の人はそうやって自然に鉄分を補っていました。いま貧血に悩む人が増えていますが、原因は鉄分不足。ホーローやステンレスのケトルでは補えませんから」 

コーヒーではなく、お茶にこだわるのも、ここならではの理由がありました。菅原道真は学問の神様というだけでなく、お茶について研究し、喫茶の習慣を最初に庶民に広めた人でもあります茶聖菅公(ちゃせいかんこう)とも称されていました。 

「そんな歴史に思いを馳せてみると、いつもの一服もひと味違ったものになるかもしれませんね」 

机

喫茶スペースは、昔のお茶屋のような風情がある

お茶しながら学ぶ、アースリボーン 

1000年以上前に菅原道真が開いた喫茶の習慣を、200年企業による鉄瓶で味わう。そして、環境保全やSDGsこれからの地球についても意識を深められる。古民家をリノベーションした小さな記念館には、歴史と世界への思いが詰まっています。 

そもそも社名の「アボン」も、アースリボーン(地球再生)を短くした松村さんの造語。それほど、環境への思いを強く持たれているのです 

ただ、いきなり環境について語っても重くなってしまいがち。お茶しながら、気軽に鋳造体験を楽しんでほしい。そこから環境に関心を持つ人が増えていったら嬉しいですね」。松村さんはそう願っています。 

 

 

執筆時期:2021年3月
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長州鋳物記念館、天神いもの茶屋 

住所|山口県防府市松崎町12-17 

営業|土曜日曜・祝日11:0018:00鋳造体験のみ、平日も予約制で受け付ける 

TEL|0835-28-3702 

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