真っ白い生地の上に、銀色の「何か」が描かれた一枚の部屋に通されてまず目に入ったのが、この作品でした。 

布

「何に見えます?」と聞かれても、すぐには分かりません。 

「鹿なんです。近所の画家さんに描いていただきました。この生地も、鹿ですよ」そう話すのは、中岡佑輔さん。山口県山口市の南部で地域おこし協力隊として活動しながら、革製品やジビエ(狩猟によって得た野生動物の肉)の普及に取り組んでいます。 

作業

中岡佑輔さん

鹿の革といっても、一般的にはあまり馴染みがありません。筆者も見るのは初めてでした。  

柔らかくて、軽い。女性に人気 

あくまで駆除された鹿のなので、流通に乗るものじゃありません。だから知らないのも無理はないです。でも、触ってみて下さい。とても柔らかいので」 

確かに、優しい手触り。伸縮性もあります。 

「牛革に比べるときめ細かくて、しかも軽い。だからバッなどは女性に人気ですね 

カバン

中岡さん製作の鹿革のバッグ(中岡さん提供)

「色は、なめし加工の際に専門業者が着けるんです。白、黒だけでなく、オレンジにもできるんですよ 

中岡さんは取材に応じながら、淡々と作業を続けていきます。 

「簡単な小物なら、誰にでも作れるんです。製作ワークショップも開いたりしています

布

ワークショップで説明をする中岡さん(中岡さん提供)

闘病後、ゆっくり暮らせる場所を求めて 

中岡さんは神戸市出身。そもそも、どうして山口で生活するようになったのでしょうか? 

もともと、神戸市飲料メーカーに勤務。ところが30歳のころにリンパ腫を患い、骨髄移植をして一命を取り留めました。その後、皮革の加工と材料の販売を行う会社に転職。自然の多いところで、ゆっくり暮らしていきたい」と考えはじめます移住先を探し始めたころ、山口市で協力隊を募集していることを知り20193月に着任しました。 

「こちらで暮らし始めて、神戸での電車通勤がどれほど自分にとってストレスとなっていたのか気付きました」 

ただ、山口での暮らしも最初からすべてが快適だったわけではないとも。「夜中に帰ってくると、家の周囲は本当に真っ暗。リアルに怖かったですね。当初は単身だったので、ひどいホームシックにもなりました」。半年後に奥さんも移住。昨年夏には双子の男の子も生まれ、賑やかに。 

狩猟免許を取得。ジビエも周知 

協力隊としてのミッションは、観光客の誘致や地域のPR活動。革製品づくりとは接点がありませんでした生活していくなかで、農作物を荒らす鹿が駆除された後、ほとんどそのまま捨てられている現実を知ります。 

「ジビエや皮革が利用されていない。だったら自分がさせていただこうと」
自身もわな猟の免許を取るなどして、害獣駆除の現実について学びを深めていきました。 

針仕事

山口市内の食肉加工や、山陽小野田市の西日本ジビエファームなどから生皮を入手。といっても、それをそのまま使えるわけではありません。 

「高圧洗浄できれいにし、塩漬けにしてある程度水分を抜いてから、専門業者に出荷します。そこでなめしてようやく生地となるのです」 

皮革だけでなく、ジビエの普及にも積極的に取り組んでいます昨年夏にはキッチンカーを自作。屋外のイベント会場自家製の「鹿肉のカレー」などを提供してきました。 

カレー

鹿肉のカレー。玉ねぎは地元産。米も地元の無農薬米を使っている(中岡さん提供)

これからはジビエのロースト丼など、新メニューも考えています」 

将来は、カフェ併設の体験工房も 

協力隊の任期はあと1年弱。その後もジビエや革製品の製作は続けていく予定とのこと。 

「カフェを開設して、その隣に工房があるというスタイルもいいなと考えています。お客さんが気軽に製作体験できるような環境をつくれたら嬉しいですね。身近なところから、駆除された動物を活用する気運を高めていきたいと思っています」 

取材を終え、帰ろうとすると「これ、どうぞ」と中岡さんから手渡されたのは、先ほどから作っていたカードケース。 

ケース

柔らかな手触りを楽しみながら、大切に使っていこうと思います。 

 

 

執筆時期:2021年2月
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住所|山口市佐山 

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