「この道沿いに植えているのはクヌギです。山で伐採した際に落ちていたドングリを拾って芽吹かせました。結構大きくなりましたね。夏になると、樹液を求めてカブトムシがいっぱいやってきます」 

そう言って育ったクヌギを見上げるのは、熊谷友敬さん。山口県宇部市の山間部・西吉部地区で林業共同体「山林舎」を組織し、山などで木の伐採をしています。 

人

熊谷友敬さん

林業×木工職人 

熊谷さんは、林業ともう一つ、木工職人の顔も。「ユウケイ(友敬)カンドウコウボウ」として家具などの製作続けています 

看板

お店の看板やテーブルのほか、病院の敷地内に設置するお社を手掛けたことも。昨年は下関市にあるお店から大きなモチノキの伐採依頼を受け、その木を使って家族用の写真立てをつくり、プレゼントしました。 

写真

伐採したモチノキから作った写真立て

こちらは神戸市にある食堂の看板「様々な方が集い、和める空間にしたい」という依頼主の想いを、種類、形、色、高さの異なる立方体の木材で表現しています。 

プレート

依頼主の想いを木工で表現した食堂の看板

「頭と感性をすごく使うので、作り終えた後は一日ぼお~っとしてしまいますね」  

そこまで没頭して製作するのは、「木を通して、感動を伝えたいから」。木工の屋号には、そうした願いを込めています。 

「これまでの経験のすべて活かしながら、林業と木工の間をつなぐのが自分の役割なのかもしれませんね 

人

その言葉には、現在に至るまでの紆余曲折が滲んでいます。 

体育大➔建築会社➔家具メーカー➔林業 

宇部市出身の熊谷さんは、鹿屋体育大学(鹿児島県)で中学、高校の保健体育の教員免許を取得。でも教員の道ではなく、卒業後は建築士を目指して専門学校進み、九州の建築会社に就職しま30歳を前に地元へると、職業訓練校に通ってインテリア木工の技術を習得。続いて山口市の家具メーカーで職人として9年間、勤務しました。 

2013年に家具職人として独立。結婚を機に現在の民家を購入し、移り住みました。ただ、家具職人1本で生活するのは厳しいものがあったと言います。そんなとき、知人を介して林業の作業班がメンバーを募集していることを知り、山に入るようになりました。 

きつくても、感動のある仕事 

傾斜地での、危険を伴う作業。「体育大卒なので体力に自信ありましたが、それでもすごくきつくて……。1ヶ月で3、4キロ痩せました。これをずっと続けていくのは無理じゃないかと、正直思っていました 

ところが、2ヶ月目を迎えるころ転機が訪れます。ある山の作業が終わり、頂上まで到達したときのこと。振り返ると、見下ろす限りの木が切られ、そのすべてがきれいに整備された光景が広がっていたのです 

「その時、当時の班長が『この仕事ってすごいと思わん?きついけど、人の手でここまでできる』と。確かにそうだなと感動したんです。自然のなかで働く気持ちよさも感じ始めていたので、それからは必死で頑張りました

伐採

2017自身が代表となって「山林舎」を設立、いまに至ります。 

小学校で積極的に「木育」 

いま力を入れているのが木の文化への理解を深める教育活動「木育」です。地元の小学校などに出向いて、林業について講演。お手製の伐採シミュレーションの箱庭を手に、どちらに木を倒せば安全なのか子どもたち自身に考えさせたり、実際に木を持ち込んで伐採体験をさせたり。 

「分かりやすく伝える工夫は、教員になるために勉強したことが役に立っています」 

箱庭

伐採のシミュレーション用の箱庭。民家の裏に種類の異なる木と、石碑や電線などがある設定

山に関心を持つきっかけづくりです。『うちにも山があるって聞いたけど、どこなんだろう?』と気にするようになれば、荒れる一方の山にも将来的にいい変化が生まれるかもしれないので 

荒れる一方の山……。「木育」の背景には、林業を続けるうちに募ってきた危機感があるようです 

負のスパイラルを止めるために 

そもそも、どうして山は荒れているのでしょうか? 

「天然の雑木林は、自然の循環のなかで生命の更新を繰り返しながら何万年も状態を維持してきました。そこに人の手が加わると、そのサイクルが壊れてしまいます」と熊谷さんは説明します。 

「伐採後に植えるスギやヒノキは間伐や枝打ちしなければ伸びすぎて地表に光が届かなくなります。すると下草が生えず、土地が痩せてしまい、崩れやすくな。これが一般に『山が荒れる』と言われる状態です」 

つまり、一度人間が手を入れた山は継続して整備しないと維持できなくなるということ。 

「高齢化によって『もう20年も山に入っていない』という話も珍しくありません。いい木が育つわけがなく、もし伐採しても木材としての価値は低い。だから余計に山を放置してしまう。こうした負のスパイラルをなんとかできないか、とずっと考えているんで 

林業の「これから」 

持ち主が整備するという管理の仕方が限界に来ているのなら地域倒をみていく必要あると熊谷さんは話します 

「所有者に代わって山を育て、管理するかつての山守さんのような仕事が、いま再び大切になっているんじゃないかと感じています」 

さらに維持管理するだけでなく、観光やレジャーの用途で活用する方法も検討しています。 

例えば、キャンプ場として整備して貸し出したり、マウンテンバイクのコースを作ったり。自然を体感できる環境として』の可能性探っていきたい。そこにはきっと、感動があるはずですから 

人

限界集落、過疎高齢化、後継者不足……ネガティブな要素ばかりが目立つ地方の一次産業のなかで、「感動」を軸に新しい林業の姿を模索している熊谷さん。地道に育てている小さな芽が、やがて森のように広がっていくことを筆者も願っています 

 

 

執筆時期:2021年3月
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