まるでの鍛冶屋さんのように」  

山口県山口市の「前小路ワークス」は、そんな小商いのスタイルで製作を続けるレザークラフトの作業場だ。バッグや財布楽器のケースなど、代表の清水博文さんが作る品々は、使い勝手の良さ無駄のないデザインから着実に愛用者を増やしつつある 

手縫いだからこそ、生み出せるものがある 

最大の特徴は、ミシンを使わず、すべて手縫いで仕上げている「そのほうが、理にかなった製品になるから」と清水さんは言う。

棚

清水博文さん。革だけでなく、ヨットのセールや着物の帯も使う

ミシンを使う場合、針を通すために縫い合わせる部分の革1ミリ以下の薄さに漉(す)く必要がでてくる。当然、強度落ちる。製品化には、デザイナーとは別の専門職のスキルも必要となる。 

「そんな制約に合わせていたら、スッキリとした使いやすい製品は作れないですから」 

例えば、こちらの長財布。 

財布

財布

一番手前のお札入れに縫い代(しろ)がないため、幅はお札の長さに最小限の革の厚みを加えただけ。しかも、カードが縦に入れられるとい他にはないデザイン。無駄さと、利便性の高さから、一番の人気商品なっている 

このカードケースの部分のような、オリジナルのアイデアを実現するには、多分誰もやってないよな? と思われるアクロバティックな縫い方も必要。『村の鍛冶屋』だからこそ作れるんです 

売ってないなら、自分で作ればいい 

「欲しいと思う商品がないから、自分で作ってきただ」と淡々と語る。最初に手掛けたのはシステム手帳のカバー。1980年代後半「バイブルサイズ」と呼ばれる縦長の手帳を使っていたものの、扱いにくかったという。定型のB6サイズだったらいいのにと、ちょっと習って作ってみたのが始まりなんです」 

以来、会社勤めをしながら欲しいものができる革に向き合ってきた。「このバッを作ったのは20年くらい前。書類も、靴も、服も入る。構想半年、製作に3ヶ月かりました。もちろん、いまも現役です」。 

かばん

手先の器用さだけでなく、アイデアやセンス、デザイン力なども必要となる。アウトドア用品メーカーやスイスの高級腕時計ブランドの日本法人などで計20年間、広告の発注などを担当していた清水さんは、「もの」に対する目も自然と磨かれていったという 

2012年、親の介護のため55歳で東京からUターン。年齢を重ねても続けていける仕事をと、「前小路ワークス」を開いた。 

看板

マーケティング不要。「いいもの」は変わらない 

長年、広告に携わっていたからこその言葉なのか。意外にも「マーケティングなんか必要ない」と言う 

大切なのは使う人の都合だけ。売上げを上げるためであったり、流行を追ったり、そういう世界とは無縁でいたい。だいたい、本当に『いいもの』が毎年変化するわけないですから

縫うところ

そんな話を聞いていると一人の女性が作業場に訪れた。小さめの黒いポシェットを母親にプレゼントしたいという。自身も芥子色のバッグと眼鏡ケースを愛用しているその女性は、「派手さはないけど、使っているとすごくしっくり来る。細部まで気を配って工夫されているのが分かるんです。ずっと大切にしていきたい微笑んだ。 

職人でも、作家でもない。あくまで「村の鍛冶屋」 

徹底した顧客目線と、丁寧な手作業。こう書くと、こだわりの強い職人やクラフト作家のような印象を与えるかもしれない。だが、本人は「そういうもんじゃない」ときっぱり否定する。 

「必要とされ満足してもらえるものを作っているだけ。職人と呼べるような修業をしているわけでもないし、作家さんたちように作品を高値で売る気もないですから」 

手作業

確かに前小路ワークスの製品は、その多くが1万円代から3万円とリーズナブル。それは、ほとん原材料費と制作にかかる時間(日当)足し算した価格だから少し珍しい注文でもその姿勢は変わらない。数年前に受注したウクレレケース、木型から起こして作り上げ、3万円で手渡したという。 

ファストファッションなど、世の中に流通している大量生産、大量消費されている商品は原価の5倍で販売されている。これが有名ブランドなどになると20倍のところも。原価と小売価格との差はこれからもどんどん開いていく傾向にあります。でも、僕はそんなことはしたくない」 

そして最後に、こう付け加えた。 

こんな時代だから、『村の鍛冶屋さん』のビジネスモデルを実現させるため、お客さんのわがままを具現化するアイデアと、センスで、どこにもない商品を作り続けていきたいんですよね 

作業場

 

 

 

執筆時期:2021年5月
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