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2019/04/19 【山口】岩国

生まれ育った城下町を、アートで楽しめる場所に|江岸可織さん[いろやギャラリー]

by 大村 たかし
防府市出身。地方新聞社で18年間記者として活動後、コーチ、カウンセラーとして独立。起業家へのインタビューやプロフィール記事の作成、書籍の編集も行っている。趣味は…

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岩国城がそびえる小高い山のふもと。

木々の緑の中に、かつての武家屋敷や白壁が残る横山地区を歩くと、いつも凜とした空気に包まれる。観光客で賑わう錦帯橋のすぐ側なのに、ここにはまったく違った静けさが満ちているのだ。

「この辺りは気品があるね、とよく県外のお客さんも仰ってますね」。そう話すのは、「いろやギャラリー」の江岸可織(えぎしかおり)さん。実家から徒歩2分。県有形文化財「香川家長屋門」の敷地に隣接するこの場所でギャラリーを開設して、2019年4月で4周年を迎えた。着慣れた和装で店頭に立つ姿も好評で、いまでは城下町の風景の一部として定着している。

しかしよく見ると、半襟には緑色、紫色などカラフルなレンコンの図柄が。さらに帯留めにはレンコンの形をした陶器がライダーベルトのバックルのように光っている。



「レンコン推し」が毎日のタスク

「岩国の特産、レンコンを推していきたい。なので、毎日レンコン柄のものを身につけることを自分に課しているんです。やるならとことん、が私の性格なので」

店内の一角には、レンコン柄の手ぬぐいのほか、陶器の箸置き、ブローチ、ガラス作品なども並んでいる。それにしても、穴の開いたレンコンがデザインとしてこれほど面白いとは、考えたこともなかった。特に、独特の薄緑色の輝きを放つ花器や皿などのガラス作品は、レンコンの茎・葉・出荷できない端切れなどを灰にしてガラス原料の中に溶かし込み、作られた岩国ならではの品。市内の「ガラス工房〇(マル)」のオリジナルだ。

レンコン作品と同様に、「この地で楽しみたい」との江岸さんの想いが形となったものが、もうひとつある。酒とアートの芸術祭「いわくにビエンナーレ 錦の宴」。2年に一度の、お酒をテーマにした全国公募展だ。2017年に開いた初回には約100人の作家が参加し、陶器やガラスの酒器、絵画、書など多種多様な作品が並んだ。



お殿様の「宴」実現

「お酒にちなんだアート作品を集めて、お殿様を楽しませる宴のような催しにしたい」。岩国城を築いた吉川家へのそんな想いも込めて企画。友人たちと実行委員会を立ち上げた。当初はプレッシャーに潰されそうなときもあったが、その純粋な想いに共感する地域の人々や作家たちが引き寄せられるように次々と協力を申し出た。

【前回の「錦の宴」での書のパフォーマンス。江岸さん提供】


さらに、2週間の開催期間中、吉川家ゆかりの工芸品などを保管・展示している吉川史料館が展示会場のひとつとして借りられることに。クライマックスである表彰式当日は、同館の庭でお茶席や書のパフォーマンスも行い、まさに「お殿様の宴」そのものとなったのだ。

「地域の大先輩たちや友だち、そして全国の作家さんたちの支えがあってこそ、開催できました。人との繋がりに、本当に感謝しかありません」



最初は誰もが「無理だ」と

いまでは地域の人たち、そして全国の作家たちから親しまれている「いろやギャラリー」だが、当然、最初からそうだったわけではない。

【店内からの眺め。春は桜、秋はケヤキの紅葉など、ガラス戸越しに季節の移り変わりも楽しめる】



生まれ育ったこの地で店を開くことを話すと、

「こんなところでギャラリーなんてやっても続かない」

「岩国でなにをやってもダメだから」

「広島で始めたほうがいいって」

会う人、会う人からそのような忠告を受けた。「もちろん、親も大反対でした。皆さん、心配から言ってくれているんです。でも、私は地元のここでやると決めていた。美術館も、映画館もない街で、アートが楽しめる場所をつくろうって」。それでも、最初の2年ほどは不安な日々が続き「もう辞めようかと、いつも思っていた」と明かす。



地元の人たちに愛される場所に

最近、地元の人たちがよく訪れてくれるようになったという。「ここにくると何か面白いものに触れられる気がしてね、といった声を聞くのが何よりも嬉しいんです」。いろやの玄関先には、いつも色彩豊かな花を欠かさない。「お店に入らなくても、この前を通るだけでも楽しんでほしいので」。そんな細やかな心配りに惹かれている人も多いはずだ。

「錦の宴」は10月1日から14日の2週間にわたり、2回目を開催予定。既に作品公募をスタートしている。意気込みを聞くと、「大きくしたいとは思っていない」とさらり。



「楽しさ」は「楽しさ」を呼ぶ

「こういうことをしていると、どうしても地域や岩国市の活性化のため、という印象を持たれることも多いのですが、私自身はそういった大義で動いてはいないんです。ただ、自分が好きで、楽しいと思うことを続けていきたい。それが大切な人たちの喜びに繋がっていくなら、それで十分。反対に、宴が拡がって大きくなることで当初の想いからぶれていくことだけは避けたいですね」

柔らかい口調のなかに、しなやかな強さを感じる言葉だった。凜とした空気は、江岸さん自身からも感じられる。

取材を終えて、いろやの向かいにある公園を歩くと、岩国市出身の作家・宇野千代の言葉が刻まれた碑文が目に入った。

「幸福は、幸福を呼ぶ」

ただ楽しさを追い求めて人との縁を紡いでいる江岸さんの想いと、どこか似ているような気がした。


取材時期:2019年4月
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。
最新の情報は直接各スポットへお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

 

取材・文:大村 たかし
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Spot Information

いろやギャラリー

住所 山口県岩国市横山2丁目4-17
TEL 0827-43-6081
営業時間 11:00~17:00
定休日 水曜日
URL https://iwakuni.iroya168.com

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