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2019/05/10 【山口】周南

フランス仕込みの感性が生み出す「理想のパン」|戸嶋利雄さん[CHEZ L’AMI JOT]

by 大村 たかし
防府市出身。地方新聞社で18年間記者として活動後、コーチ、カウンセラーとして独立。起業家へのインタビューやプロフィール記事の作成、書籍の編集も行っている。趣味は…

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サイの角のように両端が尖ったバケット。パリッと芳ばしい音を立てて噛みちぎると、中はしっとりもっちもちだ。口の中は小麦の薫りとほのかな甘さで満ちていく。ふだん食べ慣れているパンとは明らかに違う。このクセのある味を求めて、高速道で40分かけて毎月訪れ、まとめ買いするファンもいるという。

【焼きたてのバケット。先端が尖っているのが特徴だ】



フランス仕込みの「邪道」?

光市の住宅街にあるそのパン専門店は、「CHEZ L’AMI JOT(シェ・ラミジョ)」。オーナーシェフの戸嶋利雄(とじまとしお)さんは、フランスで修行した本格派だ。だが取材を始めると、そんなこちらの固定観念を簡単に打ち壊してくれた。

【ショーケースには約30種類のパンが並ぶ】

「僕は邪道なんです」

例えばバケットの生地は、粉10に対して水9の割合でつくるという。「一般的な製法だと、水は6くらい。でもそれじゃ焼き上がりが水分不足になってしまう。僕の作りたいバケットじゃないんですよね」

その生地を触らせてもらった。ぷるんとしながら、ぺたっと手のひらになじんでくる。まるで赤ちゃんのほっぺたのようだ。

【真剣な表情で生地にクープを入れる戸嶋さん】

「この感触。これが僕にとっての理想」

その理想を求めて、試行錯誤を繰り返す。「まずイメージがあって、逆算しながら近づけていきます。何度も失敗を重ねて、もう嫌だと思いながら(笑)」

そうまでして作り上げたとしても、マニュアル化はしないという。



進化し続ける「理想のパン」

「マニュアル化したら、そこで終わり。僕はずっと進化し続けたいから。それができるのが個人店の醍醐味です」

【特性の生地には、フランス産や国産の小麦粉のほか、米ぬかやきな粉も混ぜる】

そこで頼りになるのは、自分の感覚だ。特に小麦粉は手の感触で決める。「手を突っ込んだ瞬間、気持ちがザワザワする粉は尖っていて育て甲斐がある。そういうのが好きなんですよ」。そうして厳選したフランス産、カナダ産、国産などの石臼挽き粉に、父親が栽培した稲の米ぬかなどもブレンドする。

しかし、終わりなき探究をずっと続けるのは大変ではないだろうか?

「もちろん、闇の中に迷い込んで逃げ出したくなるときもあります。それでも進んでいると、少しだけ光が見えて、ちょっとずつ自分のイメージに近づいていく。その瞬間がたまらなく嬉しい」

そんなストイックな戸嶋さんだが、パンにのめり込むきっかけは意外にもヤワイ。

高校卒業後、広島の大手製パン会社に就職。「同じ部署にいた女性を振り向かせたくて、休みの日にいろいろ作り始めたんです。『俺、こんなに美味しいパン作れるんだぞ』って。若い男の動機なんて、みんなそんなもんでしょ」

だが、そこからいまに至る経緯は結構ハードだ。

その会社を数年で退職。東京の個人店で働きながら、パンの本場フランスへの憧れを募らせていった。2011年夏、思いが抑えきれなくなり「2、3日分の着替えと本だけをバックパックに詰めて」単身渡仏。毎日500~600本ものバケットを焼き上げる店で働き始めた。

【焼きたてのクロワッサンも人気だ】

言葉の壁は持ち前の人なつっこい笑顔でクリア。当初は馬鹿にされることもあったが、「国籍や年齢は関係なく、能力があれば認められる国。一度いいのを作ると、その瞬間からリスペクトされるのでやり甲斐があった」という。街ではスリや強盗にも遭遇。「でも、1年間なんとかサバイバルできた。お陰で生きる力がハンパなく付いた」。



パン職人の誇りを継承

独特のバケットには、フランスのパン文化への敬意も込められている。

「現地の職人から教わったんです。『トシ、この先端の尖りは、人の手じゃないと作れない。機械じゃなくて、ひとつずつ人間が作っているという証。職人の誇りなんだよ』と」。

【バケット生地をこねながら、職人の誇りである「尖り」を付ける】

2018年3月に生まれ故郷で開業。個性の強いパンも少しずつ受け入れられ、いまではたくさんのリピーターに愛されている。

取材中には、周南市から毎月訪れるという欧州出身の男性がやって来た。「ここはホンモノ。作り手の感性を感じるし、食べていて楽しくなってくる。だからいつも、1ヶ月分をまとめて買うんだよ」。バケットのほか、クロワッサン、ライ麦パン、カンパーニュなどを両手に抱えて満足そうだった。

【ショーケース越しの対面販売スタイルもフランス仕込みだ】

よく見ると、30種近くあるパンはすべてショーケースに収められ、スタッフが注文を受けて取り上げている。見慣れたセルフサービス方式ではないのだ。「フランスではこれが当り前。人の手で作ったパンを、人に食べてもらう。だから僕も、人と人との交流を大切にしたい」

店の一角のイートインスペースには、壁一面にフランス映画のポスターが何枚も貼られ、アート本も並んでいる。流れているのは、もちろんフランスの歌だ。

【イートインスペースには、フランス映画のポスターなどが並ぶ】

自称「邪道」な戸嶋さん。実はパン作りも、店作りも、揺るぎのない「型」をベースに、本場への深いリスペクトで溢れている。

ではこのフランス語っぽい店名には、いったいどんな深い意味が込められているのだろう?

「フランス語のAMI(友だち)という言葉が好きで。たまたま僕の名前(TOJIMA)を逆に並べたら、繋がったんです」。そこに、「~の家」を意味する「CHEZ」と冠詞を付けたという。「僕の造語。あんなフランス語ないですよ(笑)」

サイの角のように「我が道」を独り歩む戸嶋さん。その尖った個性と、その手から生み出されるクセの強いパンにすっかり魅了されてしまった。


取材時期:2019年4月
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。
最新の情報は直接各スポットへお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

取材・文:大村 たかし
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Spot Information

CHEZ L’AMI JOT

住所 山口県光市虹ヶ丘2丁目11-8
TEL 0833-48-5419
営業時間 9:00~19:00
定休日 火、水曜日

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