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2019/07/08 【山口】岩国

「れんこんグリーン?」丁寧に、ユニークに、岩国の風土だからこその輝きを求めて|齋藤裕史さん、由香理さん[ガラス工房〇(マル)]

by 大村 たかし
防府市出身。地方新聞社で18年間記者として活動後、コーチ、カウンセラーとして独立。起業家へのインタビューやプロフィール記事の作成、書籍の編集も行っている。趣味は…

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透明のような、薄緑のような……。これを「なんとかグリーン」と呼ぶとしたら、どういう言葉が一番ぴったりなんだろう。

山口県岩国市の山間部にある「ガラス工房〇(マル)」のギャラリー。扉を開けてまず目に飛び込んでくるのが、この若葉を溶かし込んだような色合いの作品たちです。



灰から生れる瑞々しさ

「この色は、れんこんの灰がもとになっているんですよ」。作者であるガラス作家、齋藤裕史さんからそう説明を受けて、さらに疑問が……。

【ギャラリーでお客さんに説明する裕史さん(中央)】


れんこんって、あの泥の中で栽培するれんこん?
しかも、その灰から、こんな色が?

【れんこんを焼いた灰。これがあのきれいなガラスに……?】


そもそも、どうしてれんこんの灰を使うなどという発想に至ったのでしょう?

「ここの風土でしか出来ないものを創りたい」。裕史さんと妻の由香理さんの頭にまず浮かんだのが、岩国の特産品のれんこんだったそうです。ただ、どの程度の灰を混ぜたら色がでるのか。前例がないために、1カ月間ほど試作を繰り返しました。

「いくらやっても色が付かないので、恩師にアドバイスを求めたりしました」と裕史さんは振り返ります。結果、想定よりかなり多めの灰が必要だったことが判明。最適な配合バランスを見いだし、透明でありながら蓮の新芽のような瑞々しい緑色が映える「岩国れんこん硝子」が誕生しました。

使っているのは、収穫後にれんこん畑に残った茎や根、売りに出せない端っこなど。焼いて灰にし、さらに粉状にしたものをガラスの原料と混ぜ、1300度に熱した溶解炉で溶かし合わせます。通常ならそのまま日の目をみることなく土になっていくだけのものが、こうした魅力的な作品に生れ変わるというのは、なんとも不思議な感じがします。

グラス、花器、皿のほか、生のれんこんで型をとった箸置きも。「岩国れんこん硝子」は、いまでは工房の代名詞となっています。

【生のれんこんで型をとった箸置き】



「〇」誕生秘話?

工房は2014年に開設。「〇(マル)」という屋号には、ガラスを吹いたときのふくれた形のイメージや、人の輪といった意味も込められていますが、そのほかにも「大きな理由」がありました。

「工房開設前に双子を妊娠中で、お腹が大きくまん丸にふくらんでいたから」と裕史さん。由香理さんも「双子だから二重丸にしようって案もあったけど、それはさすがに呼びにくいので」と笑います。

そんな明るい二人は、富山市のガラス作家養成校「ガラス造形研究所」で出会いました。

裕史さんは京都府出身。高校卒業後、ギャラリーでバイト中にガラス作家と知り合ったことがきっかけで興味を持ち、この道へ。「完成させることより、創っている過程が好き。手で直接触れられないのも楽しい。道具を使いながら思うように整形できると『よし!』となりますね」

地元出身の由香理さんは大学卒業後、名古屋の手芸用品・服飾メーカーに就職。忙しく働いていたある日、デパートでガラス作家の個展を見て、「布と違って、こんなに固い物でも自由に扱えるのか……」と衝撃を受け、ガラス作家を目指し始めました。

研究所を卒業後、それぞれ個人作家のもとでのアシスタントを経て結婚。裕史さんにとって岩国市は移住先ですが、「父の実家が島根県柿木村(現吉賀町)なので、ここに何の違和感もなかった」といいます。工房には近所のおじいちゃん、おばあちゃんもよく遊びにくるそうで、「私より、よっぽど馴染んでいる。お年寄りのアイドル」と由香理さんも驚いています。



素顔は妖怪好きの科学者?

実は由香理さんは、地学が大好きな理系女子。河原にいくと石を眺めて何時間でも楽しめるとか。大学では地球科学を専攻し、研究者としての人生を考えていたことも。まったく異分野にみえますが、「私にとっては石もガラスも同じ。とてもきれい」。また、オリジナルの妖怪を考え、生態や性格まで細かく設定し尽くしたうえで、ガラスを使って「この世に生み出す」という聞き慣れない趣味も持っています。

【由香理さんが生み出した妖怪「だんごもち(幼体)」】


もちろん、妖怪や岩国れんこん硝子だけでなく、二人がつくるオーロラのような色ガラスも人気です。

一見、かなり個性の違うお二人ですが、作品制作においてもっとも大切にしていることは真円のように一致しています。

それは「丁寧さ」。

「いくら上手でも、それが人の心を打つとは限らない。逆に、それほど技術的に高度ではなくても、とても心をひかれる作品を創る人はいるんです」と裕史さん。由香理さんも深くうなずきながら「大切なのは、丁寧か、そうでないか。それは作品にはっきり表れますから」と教えてくれました。

山あいの集落に流れるゆるやかな時間と人の輪のなかで、これから二人がどんな作品や妖怪たちを生み出していくのか、個人的にもとても楽しみです。


取材時期:2019年5月
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。
最新の情報は直接各スポットへお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

 

取材・文:大村 たかし
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Spot Information

ガラス工房〇(マル)

住所 山口県岩国市土生23-1
TEL 0827-93-4533
URL https://garasukouboumaru.jimdo.com/

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