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2019/07/24 【山口】山口

静かな山あいに佇む創作アトリエ。十数年をかけて自然と同じ場所へ還ってきた、家族のはなし。|自由創作いとう

by 武井 奈々
大阪生まれ大阪育ち。瀬戸内海の穏やかで豊かな暮らしに惹かれ、2017年山口県周防大島へ移り住みました。海の向こうに四国の山並みを眺めながら、島暮らしを満喫中。島…

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山口市徳地。徳地の町中から仁保へ抜ける国道376号線を走っていると、突如「自由創作いとう」と書かれた木の看板に出会います。国道からそれらしき建物は見えず、「こんな山の中に一体何があるのだろう?」と気になりつつも通り過ぎていた場所に、ついに伺うときがきました!



徳地の山奥、「自由創作いとう」を探訪!

国道からほんの少し入ると、案外すぐに到着。目の前には小川が流れ、心地よい鳥のさえずりに包まれます。ここが、カフェ&ギャラリー「自由創作いとう」です。

出迎えてくれたのは、伊藤家のお母様と二人の娘さん。お母様の雅代さん(写真左)は染織、長女の実起さん(写真中央)は服飾、次女の友美恵さん(写真右)はお菓子、そしてお父様の文男さんは木工、長男の太一さんはガラス工芸、と各自が別々の創作活動を行なっているアーティスト集団なんです。



家族の個性が混じり合う空間

店内には太一さんのガラス作品をはじめ、丁寧に染織されたストール、アフリカンプリント生地を使った小物、木の温もりを感じるカトラリーや小鳥の巣、可愛らしいクッキーなど、伊藤家の皆さんが生み出した力作で溢れています。それらが並ぶテーブルや棚も、木工作家の文男さんが手がけたもの。

【緑を眺めるカフェスペース。文男さんが作ったウッドチェアは、温かみがあり座りやすい。テーブルとペンダントライトは太一さんの作。家族の個性が融合する空間】


どうして、家族が同じ場所で、ここまで多彩な創作活動に関わるようになったのでしょう?



伊藤家の、ものづくりの原点

元々は徳山市(現周南市)で暮らしていたという伊藤一家。徳地のこの場所に移り住んだのは2000年のことでした。

「家の隣にアパートが建ってしまって。創作活動に打ち込めて、大きな音をたてても大丈夫な場所を探していました」と雅代さん。

「お母さん自ら、ユンボに乗ってこの土地を開拓していたよね」と実起さんが笑います。

昔から趣味で染織をしていた雅代さんと、日曜大工が得意だった文男さん。そんな両親の元で育った3人のお子さんは、母手作りのおやつを食べ、父の大工道具で遊び、夏休みの宿題で縫い物に挑戦するなど、自然とものづくりに親しむ機会に恵まれていたそうです。



海外での経験を経て

「自由創作いとう」がオープンしたのは11年前。

「今はたまたま一緒にいるけれど、それまでは皆離れ離れだったんですよ」

長男の太一さんは高校卒業後、すぐに渡米。ガラス工芸の基礎を学び、約十年間国内外で研鑽を積みました。子どもの頃から海外に憧れていたという実起さんも、アメリカで暮らした後、世界各地を旅しながら布を買い集め、服飾雑貨やオーダーメイドの衣装を手がけるように。「この子だけは海外に行かないと思っていた」(雅代さん)という末っ子の友美恵さんも、兄、姉の姿を見て、外の世界へ出て行ってしまいました。

海外に行くことを応援してくれたご両親ですが、

「行くからには、手に職をつけてきなさい。自分が将来これで食べていく、という目標を見つけてくること」と雅代さんは子ども達に伝えたそう。

その言葉通り、3人はそれぞれの道を見つけ、歩き出しました。

「思い思いに好きなことをしてきたけれど、時が経つと共に、みんな自然とこの場所に戻ってきた感じですね」と実起さん。

現在はそれぞれに家庭を持ち、住まいは別々ですが、日中は「自由創作いとう」の各自のアトリエで制作活動を続けています。

【昔の牛小屋を改装したアトリエ。実起さんの使うアフリカンプリントのハギレを雅代さんが裂織(さきおり)に使うことも。母娘でおしゃべりをしながら制作は進む】

【カフェでいただける友美恵さん作の日替わりケーキセット(全4種)。グラスは太一さんの作品。しっとりとした抹茶のスポンジにあずきの程よい甘さが絶妙なハーモニーを生み出す】



趣味を突き詰めた先にあるもの

店頭で販売する焼き菓子だけでなく、カフェで提供するスイーツ、リクエストがあればバースデーケーキも請け負う友美恵さん。「私はきちんとお菓子作りを習ったことはないし、お店で修行をしたこともないんです。だから『パティシエ』と言われるとなんだか……。かと言って『趣味』っていうのも違う気がする」という友美恵さんに、雅代さんは言います。

「誰かに習うとその型にはまってしまうでしょう。自分でできるのなら、なんでもやり始め、突き詰めたらいい」

現在は皆さんで「自由創作いとう」を運営していますが、家族の形は時の流れと共に変化するもの。

「お母さんが引退したら、私たちでやっていけるのかな」と心配する娘さん達に、「私がここに初めて来たのは49歳の時なのよ。そう考えたら、あなた達まだまだこれからじゃない」と笑顔でバトンを渡そうとする雅代さんでした。

“趣味を突き詰めて、自由に表現する。何にも束縛されず、括りもなく、ただ好きなことを自由に続けていくための場所”

そんな想いをこめて「自由創作いとう」と名付けた雅代さんの言葉に、私も背中を押されたような気分で心が軽くなりました。



取材時期:2019年6月
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。
最新の情報は直接各スポットへお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。


 

取材・文:武井 奈々
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Spot Information

自由創作いとう

住所 山口県山口市徳地堀4115
TEL 0835-53-1060
営業時間 10:00〜17:00
定休日 毎週水曜日、第2・第4土曜日

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