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2019/07/29 【山口】山口

鍛錬を重ねた人の手でしか生み出せない、美しい吹きガラスの世界|ガラス工芸作家 伊藤太一さん【たいちグラスアート】

by 武井 奈々
大阪生まれ大阪育ち。瀬戸内海の穏やかで豊かな暮らしに惹かれ、2017年山口県周防大島へ移り住みました。海の向こうに四国の山並みを眺めながら、島暮らしを満喫中。島…

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繊細でなめらかな曲線が織りなすレース模様。吹きガラスの器は見ているだけで、心に涼しい風を運んでくれます。この美しい器を生み出すガラス工芸作家に会いに、山口市の徳地へ向かいました。



徳地の静かな山奥に佇む「たいちグラスアート」

小川が流れ、鳥がさえずる自然に囲まれた「自由創作いとう」。伊藤家のご家族それぞれが各自の創作活動に取り組んでいる拠点です。その敷地内に今回ご紹介する、伊藤太一さんの工房「たいちグラスアート」があります。ちなみに太一さんは伊藤家の長男。なんとこの工房、独立時に太一さんが大工さんに聞きながら、ほぼ一人で建てたのだそう!



25年前、吹きガラスとの出会い

こちらが伊藤太一さん。工房の隣にあるギャラリーには、ご自身で製作した器やグラス、花瓶、オブジェなど色とりどりのガラス作品が並んでいます。

元々は美術学校で陶芸を専攻していたといいますが、その隣で行われていたガラス工芸のクラスに惹かれ、いつの間にかどっぷりとガラスの魅力にはまっていったのだそう。

「陶芸は作り上げるまでに時間がかかりますが、ガラス工芸は勝負が早い。例えば今日作ったグラスは、明日にはもう使えるんです」

そのスピード感や、直に手で触れて形を決められない面白さに魅了され、アメリカの専門学校や大学、富山の研究所など国内外の様々な場所でガラス工芸の技術を学び、腕を磨きました。

太一さんの作品はヴェネチアングラスの技法を取り入れた吹きガラスが中心です。その特徴はこちらのレース棒(写真右下)を使っていること。棒状のガラスの中に、螺旋状に模様が入っています。このレース棒から、冒頭でご紹介したような緻密なレース柄の器ができるのですが、その工程は実に複雑。まず、レース棒に必要なガラス棒を作ります。色ガラス(写真右上)を伸ばして棒状にし、無色透明のガラスと合わせることで中に色の芯を入れます。それらを何本か組み合わせ、熱で溶かしながら細く長く捻り、10mほどに。そうして出来上がったものをカットし、ようやくレース棒が完成します。想像しただけで、気が遠くなりそうな作業……。でも、その棒が今度はどのように器になるのでしょう?

「言葉で説明するより、一度ご覧いただいた方が分かりやすいですね」と太一さん。



吹きガラスが生み出される瞬間に密着!

という訳で、工房での製作風景を見せていただくことに!職人の技を間近で見るなんて初めてで、ドキドキします。

「これが常にガラスが溶けている炉です。中の温度は約1190度。365日、ずっと付けっ放しなので、光熱費がかかるんです」

そう言って笑う太一さん。工房だけでなく、この炉も溶接してご自身で製作されたのだそう!

先ほど登場したレース棒。様々な模様を組み合わせ並べていきます。これを1100度の炉で温めつなぎ合わせている間に……。

1190度の炉から、溶けたガラスを少し取り出し、形を整えます。

そこへ、始めに炉で温めつなぎ合わせておいた板状のレース棒を巻きつけていきます。

これがグラスの側面になる部分です。ここからはガラスを熱しては形を整え、また熱しては次の形が生まれる成型作業の繰り返し。ハサミやトングなど鉄製の道具を使うので、少しでも迷いがあると刃先が熱いガラスに変に当たって、作品の仕上がりに影響するのだそう。

吹いて空気を送り込むと、徐々に膨らんでいくガラス。この膨らみが最終的にはグラスの側面、飲み口へかけてのカーブになっていくのですが、この時点では全く出来上がりの予想がつきません。一番始めの段階ではグラスの形をしていたものが、次第にそれとはかけ離れた、不思議な物体のように見えてきました。黙々と製作を続ける太一さん。温められたグラスは次々と姿を変え、変幻自在の生き物のようです。

あれよあれよという間に工程は進み、グラスの飲み口部分を仕上げる作業に入ります。

出来上がったのがこちらのグラス!飲み口は口当たりの良いように薄く仕上がっています。すぐに底部分を取り外し、冷却炉へ。冷却と言っても炉内の温度は約490度。そのまま外に置いておくと、外気に触れた急激な温度変化で割れてしまうのだそう。最初にレース棒を熱する工程から仕上がりまで約20分。吹きガラスの技術を極めた職人だけが持つ、集中力と瞬発力が成せる神業。「流れるような動きに感動しました」と伝えると、

「昔は、『あなたの動きはロボットみたいに硬い、それが作品にも現れてしまうから、もっとガラスのように、流れるように動きなさい』と先生によく注意されていました」そう言って太一さんは笑います。



ガラス工芸作家として今思うこと

「今は安価で工業製品のようなガラスが多く、それが大量に出回っている時代ですが、人の手が生み出すものには、特別な手の“味”というものがある。それは今後技術が進歩してもAIには生み出せないものじゃないですかね」

その言葉に、ガラス工芸作家として生きる、伊藤太一さんの喜びと誇りを感じずにはいられませんでした。

 

取材時期:2019年6月
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。
最新の情報は直接各スポットへお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
 

取材・文:武井 奈々
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Spot Information

たいちグラスアート

住所 山口県山口市徳地堀4115
TEL 0835-53-1060
営業時間 10:00〜17:00(自由創作いとう)
定休日 毎週水曜日、第2・第4土曜日(自由創作いとう)

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