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2019/08/21 【山口】小野田

利用客の少ない無人駅を地域交流の場に!地元の方がホームで手を振って見送ってくれる、あつい駅|厚保交流ステーション

by 村野 哲郎
宇部市出身。山口銀行在籍中で、これまで山口県内外の拠点で勤務。 子供の頃から鉄道好きで、休日には「撮り鉄」「録り鉄」「乗り鉄」「模型鉄」「修理鉄」そして「呑み鉄…

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ディーゼルカーに乗り込み、のんびりとローカル線の旅を楽しんでいると、気になる駅名が目に留まり、下車してみることに。

新幹線が停車する「厚狭(あさ)駅」から美祢線に乗り換え2駅目、山に囲まれた小さな駅「厚保駅」です。



この駅、何て読むの??

なるほど!「あつ」と読むのか。ホームに降り立ち感心していると、
「こんにちは」
私に声がかかりました。

振り返ると穏やかにほほ笑む男性が。
「中に入って、コーヒーでも飲みませんか」
先を急ぐ旅でもなく、招かれるまま後ろをついていきました。



あつ交流ステーション

そこには、ご婦人方が談笑されておられました。
招き入れてくださったのは、厚保交流ステーションの管理人・大橋継雄(おおはしつぎお)さんです。

「無人駅が改装され、交流ステーションとして運営してるんです。まあ、ゆっくりしていってください」

お菓子とコーヒーを出しながら、初対面の私に親しげな笑顔を向けました。

【駅の中にある厚保交流ステーション】



試練に耐えて

美祢市は、セメント材料などに使用される石灰石の全国有数の産出地。美祢線はかつて昼夜問わず「物流の足」「地域の足」としての役割を担っていました。

【美祢線は石灰輸送でも重要な役割を果たした】


しかし輸送手段は鉄道から自動車へと変わり、作業員や家族も離れていき、高齢や過疎の波も押し寄せました。10年前の豪雨災害では線路が寸断されてしまう事態も経験しました。
「私の思い、伝わるでしょうか」と大橋さん。

【思いを語る大橋継雄さん】


厚保駅のそばに住む大橋さん。地元の農業団体を定年退職した以降、住み慣れた地域が次第に色あせていく様子を目の当たりにし、「何とかしなければ」との思いを募らせていました。

転機が訪れたのは6年前。行政とJRが手を組み、それまで無人駅だった厚保駅を地域の交流の場として活用する事業を企画しました。運営事業者の募集を知り、自ら手を挙げたのでした。

「まず地元の住民が気軽に利用できるような運営を心がけています」とステーションの利用予定表を見せてくれました。

「PTAの会合もこのステーションを利用いただいています。仕事帰りの親御さんも気軽に参加できるよう、利用時間も柔軟です。エアコンもついているので好評です」

【大正琴やコーラス、絵手紙サークルなど予定がぎっしり】

【この日は、ご婦人のグループが「ちぎり絵」を製作中】


「ロケーションが鉄道ファンの心をくすぐるんでしょうね。県外からふらりと立ち寄られ、蒸気機関車が走っていた頃の写真をいただいたこともあります。美祢線への思いを熱く語られると、つい『もう、ここに引っ越してきませんか』と言ってしまいます」と笑う大橋さん。



横断幕に思わず涙

ほう、駅にはいろんな方が訪れるのですね。6年もの間、活動を維持されてきた秘訣はどこにありますか?

大橋さんの答えは意外なものでした。「出かけることですよ」

「周りにこれといった観光スポットはありません。『来ていただく』のではなく、地元から『出かける』ことが大切だと思い、近くのお祭りやイベントへ、地域の皆で美祢線に乗っています。春には厚狭のおひなさまめぐり、美祢の桜まつりがありますし、これからの季節、花火大会にも出かけたいですね」

【臨時観光列車が厚保駅に停車(提供:大橋継雄さん)】


「思い出深いのは、人の心温かさを感じた時の出来事ですね。吉田松陰先生の妹が主役になった大河ドラマが放映された年、美祢線には週末、ラッピングされた臨時の観光列車が走っており、地域の住民に声をかけて50名がここから東萩に出かけました」

【お見送りには地元だけでなく九州からも(提供:大橋継雄さん)】

「出発時にはたくさんの人が横断幕で見送っていただきました。また、私たちの活動を知った方々が遠く九州からお越しになり、手製のブーケを振ってサプライズの演出をしてくださったんです。思わず目頭が熱くなりましたよ」



「企画」に年齢は関係ない!

大橋さんは続けます。「駅舎に文庫本や漫画も置いたりお茶菓子を出したりして、来られた方が列車の待ち時間に退屈しないように工夫しています」

【電動自転車も無料で貸し出してくれる】


「駅から出かけられる方には、私たちがホームに出て、姿が見えなくなるまで手を振っています。結局、私たちにできることは、利用される方々に『感謝』の心をこめることなんだと思います。それって誰がやるとか年齢とか関係ないんですよね」と……

【ステーションには、利用者の感謝のことばがたくさん】



やっぱり駅名は気になる

大橋さんと話しているうちに旅の再開の時間が迫ってきました。
お話を伺っている中でもまだモヤモヤしていました。この駅名の由来って……

「答えはそこにありますよ」

大橋さんは笑いながら敷地の一角を指さしました。

【かつては「阿津」と書き、「湿地にある交通の拠点」を示す地名だったようだ】



厚保駅は熱い駅!

利用客の少ない無人の駅や路線にも、いろんな物語が詰まっています。そして、維持するために頑張っている方々もおられます。
何気に立ち寄った厚保駅でしたが、実は熱い駅だったのですね(笑)

たまには、のんびりと鉄道旅もいいものです。皆さんもぜひ訪ねてみてください。
次の目的地へディーゼルカーがやってきました。また来ますね、厚保駅……

取材時期:2019年7月
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。
最新の情報は直接各スポットへお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

取材・文:村野 哲郎
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Spot Information

厚保地域交流ステーション

住所 山口県美祢市西厚保町本郷115
TEL 0837-58-0810
営業時間 8:30~22:00
定休日 年末年始(12月29日~1月3日)
URL http://www.c-able.ne.jp/~a-st/

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