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2019/08/30 【山口】岩国

撃沈経験から奮起。30年間第一線で走り続けるダンサーの情熱|北嶋宏子さん[AMMパフォーミングアーツ]

by 大村 たかし
防府市出身。地方新聞社で18年間記者として活動後、コーチ、カウンセラーとして独立。起業家へのインタビューやプロフィール記事の作成、書籍の編集も行っている。趣味は…

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「ワン、ツー、スリー」。ピアノのリズムにそって、20人ほどの子どもたちがバレエの基礎レッスンを続ける。短い休憩が終わると、今度はビートのきいたポップスでの激しいダンスに変わった。

「ジャズダンス、バレエ、ヒップホップ。基礎がきちんとできて始めて、本当に表現できるようになるんです。だからうちでは、地道に練習を積み重ねますね」

岩国市今津町のダンススタジオ「AMMパフォーミングアーツ」。代表の北嶋宏子さんがこのスタジオを開いて、2019年4月で30周年を迎えた。国際コンペティションでの入賞、国内大会での優勝など、生徒たちと共に輝かしい足跡を残しながら、止まることなく走り続けてきた北嶋さんの「これまで」と「これから」とは……。

AMMが得意としているのは、コンテンポラリーダンス。タンクトップやブルマー姿で水中眼鏡を掛けて踊るなど、現代人の内面を象徴的に表現する作品が評価されてきた。

【北嶋さん提供】


ただ、斬新な作風はときに、国内では理解されないことも。2010年に発表した「RUN」は、走り続けることを強いられる現在社会の厳しさなどを表現した問題作。「でも東京で披露したときには、審査員から『何がしたいの?』『ウケ狙いか?』などと散々でした」と振り返る。ところが、その後九州であった国際ダンスフェスティバルでは、主催団体の韓国人から「インタレスティング!」と激賞された。翌年、ソウルでの国際ダンスフェスティバルに出演したところ、最高賞のひとつに輝いた。



すべての始まりは、アメリカでの「撃沈」

山陽小野田市出身の北嶋さんがダンスの魅力に触れたのは、高校生のとき。「大学生のお兄ちゃんがいる友だちがいて、その子の家に行くとディスコミュージックがかかっていたんです。KC&The Sunshine Bandの『That’s the way』とかね。そういうのを聴きながら、お兄ちゃんにダンスを教えてもらったのが始まりかな。もうそれが面白くて」

【ステージでパフォーマンスをする北嶋さん(中央) 北嶋さん提供】


社会人になって本格的にダンスを学び始めたころ、「本気で踊りたいのなら、アメリカに行った方がいい」とアドバイスを受け、1989年に渡米。しかし、そこで大きなショックを受ける。

「完全に撃沈されました。ディスコダンスとか、ソウルダンスしか知らなかった。それだけをやってきたから。でも、違ったんです。ジャズダンスとか、バレエなどの基礎がしっかりないと、ぜんぜん話にならない」

ただ、そこで引き下がることはなかった。90年にAMMを設立すると、その年から8年間、ロサンゼルスやニューヨークでのダンス研修に毎年参加。自分と本場とのギャップを埋め続けた。日本でもバレエ教室に通い、自らを磨き続けた。

そのようにして築いてきたスタジオには現在、2歳から65歳まで約60人が通う。30年間のうちに、生徒を指導する立場となった教え子も少なくない。カナダでダンサー兼モデルとして活躍している男性もいるという。



物や情報にあふれる社会の虚しさを、ダンスで

北嶋さんは2018年、10年ぶりに渡米。そこで気づいたことがあるという。

「アメリカは10年前と何も変わっていないんです。流行に囚われているのは日本人だけ。ファッションは特にそう。自分が似合う服を知っていて、それを着こなしているんです。流行りの格好をとっかえひっかえして喜んでいるのは日本人だけ。ちょっと恥ずかしい」

服だけでなく、物も情報もあふれている毎日。それらに振り回され続けて生きる人々の姿を描いたのが最新作のひとつ「ヴォーグ・エクストラ」だ。

【ヴォーグ・エクストラのワンシーン 北嶋さん提供】


着飾った6人の女性が、それぞれのスーツケースに詰めた衣類をステージ上にばらまき、それらを拾い集めて身にまといながら、即興でファッションショーを繰り広げていく。スカートをスカーフ代わりに首に巻いたり、他人が脱いだばかりの靴下を手袋にしたり。着ては脱ぎ捨て、着ては脱ぎ捨て……。

「流行を追いかけて、高いブランドもので着飾ってみても、心は満たされない。そんな毎日を重ねて人生を浪費していく現代人って、自分の生き方を見失ってしまった悲しい存在なんじゃないかと思うんです」



ずっと踊り、育てていく

日々レッスンを続け、人を育て、加えて新しい表現世界も生み出していく。それを30年間継続するというのは並大抵のことではない。継続の秘訣について聞いてみると、意外な言葉が返ってきた。

「好きなことで生きていくって、決して自由じゃない。常にリスクがある。ずっと絶壁に立ち尽くしているような危機感のなかで、なんとか踏ん張ってきた感じです。いままでも、もう嫌だなと何度か思いました。でもそのたびに、コンテストに招待されたり、コンペティションで優勝したりして、止まれなかったんです。あとは、根が脳天気だったから。どこかに絶対大丈夫って思っている自分もいるから(笑)」

そんな北嶋さんのいまの目標は「80歳まで踊り続けること」。

「生きることは戦いですよね。この生き方が良かったのかどうか……、きっとそれは死ぬときに分かるはず。そのとき、振り返って楽しかったかどうか、そういうことだと思う。だから、私のもとに人が集まってくるかぎりは、いくつになろうと教え、育てていきたい。これしか、私にできることはないので」

そう言うと、ダンスをしている生徒たちの輪のなかに飛び込んでいった北嶋さん。指導するときの瞳には、真剣さとともに、ほかのことを忘れて没頭している少女のような純真さが輝いていた。

 

取材時期:2019年7月
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。
最新の情報は直接各スポットへお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

取材・文:大村 たかし
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Spot Information

AMM パフォーミングアーツ

住所 山口県岩国市今津町4丁目11-3
TEL 0827-28-6774
定休日 水曜、祝日
URL http://www.amm-pa.com/

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