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2019/09/09 【山口】周南

神戸から山口県の限界集落へ。「最高の環境」から世界へ発信する気鋭の映像作家|松浦竜介さん[シズクフィルムズ]

by 大村 たかし
防府市出身。地方新聞社で18年間記者として活動後、コーチ、カウンセラーとして独立。起業家へのインタビューやプロフィール記事の作成、書籍の編集も行っている。趣味は…

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結婚式場やホテル、カフェなどの洗練された映像作品を次々と発表しているシズクフィルムズ代表、松浦竜介さん。2018年秋に神戸から、山口県光市の限界集落に移住したばかり。撮影秘話や県内の知られざるスポットなどの話になるのかと思ったら、「パーマカルチャー(農業を中心とした自然循環型生活などの総称)」「環境問題」「生命の尊厳」……など、予想外のキーワードが飛び出してきました。映像制作を軸に、幅広い知見と体験を持つ松浦さんには、未来の世界についての鮮明なビジョンが見えているようです。


―ホテルやカフェ、結婚式場などを紹介する映像作品を、すでにたくさん作られていますね。山口へ移住されて1年も経っていませんが、短期間でかなりご活躍ですね。

ありがとうございます。確かに、40本以上の作品がありますね。でもそのうち半分ほどは僕がボランティアで作らせていただいたものなんです。「お店のプロモーション動画を制作します」といっても、僕がどんなものを作れるのかお相手には当然分からないので。まずは無料で作って、見ていただくことから始めていったんです。


―どれもとてもきれいで、つい最後まで見入ってしまいますね。空気感が伝わってくるというか……。

大阪で1年半ほど、ブライダル関係の映像制作会社で働きました。その際に現場で身につけた撮影技術が、いま生きていますね。

【出演者と撮影した映像を確認する松浦さん】


―なるほど。周防大島町のホテルでの結婚式をPRする作品など、すごく完成されたものを感じましたが、そういうプロ経験がベースにあるのですね。納得です。

そうですね。あれが山口での最初のお仕事でした。当時は、大島大橋の事故の影響で観光業が大変な時期でしたね。なので同じ町内のカフェやピザ専門店などもボランティアで撮影して、作品化してSNSで発信させていただいたんです。自分にできることで、少しでも力になれたらなと思って。



ネットも繋がらない限界集落。でも「ここが最高!」

―それにしても、静岡県生まれで神戸にお住まいだった松浦さんが、なぜ山口へ?

大学時代の仲間で、周南市の八代地区に移住して農業をやっている友人がいるんです。彼が空き家を見つけてくれて、「来ないか」と。それがここ、光市室積の岩屋地区だったんですね。


―しかし、ここはずいぶん山の中ですね。神戸から来ると相当なギャップがあったのではないですか?

いえ、まったく。確かに限界集落で、インターネットも繋がりません。でも、農園として使える耕作放棄地も借りられたし、海もすぐそばにある。自然と共生しながら、時々カヤックフィッシングを楽しめる暮らしを目指している僕には理想的な環境です。地域の皆さんもよく「ご飯食べにきいさん(おいでよ)」と誘ってくれるし、「もっと甘えてええよ」とも言われます。本当に有難いですね。


―映像作家として仕事をするには不便ではないですか?

不便さは学生時代に留学していたフィリピンで慣れているので、逆に楽しんでいます。それに、僕がここに移住を決めた理由は、映像作家として仕事を軸にしながら、環境問題を根本的に解決するための場をつくり、パーマカルチャー的な暮らしを実践していくことなので。



環境問題は「生命の尊厳を育む」ことから

―フィリピン留学、環境問題、パーマカルチャー。映像とはまた違ったお話に聞こえますが……。

そうでしょうね(笑)。でも、僕の中ではすべて繋がっているんです。

もともと僕は環境問題の科学的・技術的解決に関心があって、大学の工学部でそうした勉強をしていました。でも、学生時代に10カ月ほどフィリピンのミンダナオ島にある大学へ留学したとき、「科学や技術では根本的に解決できない」と気づいたんです。


―なにがあったのでしょう?

そこには、どうしようもないほど深刻な途上国の環境汚染の現実があったんです。例えば、乗り合いバスは真っ黒い排気ガスを大量にまき散らしながら走っています。水路には生活排水がどんどん流れ込み、ゴミだらけの川では、川底からメタンガスがボコボコ発生しているんです。

それらを目の当たりにして、例えば先進国で電気自動車を普及させることでCO2の削減を訴えても、とてもカバーしきれないんじゃないかと。それは途上国の現実の前では、ほとんど無力だと。

【ミンダナオ島で植林活動をした仲間たちと 松浦さん提供】


―では、どうすればいいと?

ミンダナオ島で暮らしたおかげで、僕は現地の人たちの生活背景がよく分かったんですね。単にゴミを捨てるな、生活排水を流すな、排気ガスを出すな、というだけではほとんど無意味だと。そうではなく、生活様式を根本から変えていかなければ何にもならないんです。そして、そのためには一人ひとりが「生命尊厳の心を育むこと」が不可欠だ、と。


―生命の尊厳……。それは、具体的にはどういうことですか?

決して難しいことではないんです。自分以外の生命を思いやる心を育む、ということです。その土壌の上ですべての経済活動や政治が営まれるなら、身近な川をメタンガスが湧き出るまで汚してしまうということは起こりません。そのためには、まず教育から見直す必要があるんですね。


―根本解決は教育から、ということですか?

ええ。環境問題の解決は、究極的には一人ひとりの意識が鍵なんです。つまり、まずは人にフォーカスする必要がある。そう考えて、大学卒業後に一年間勉強をし直して、神戸大学大学院の国際協力研究科に入りました。途上国での教育開発について学ぶためです。そのときにアフリカ・ウガンダ政府でのインターンシップも体験しました。でも、ここでまた壁にぶち当たってしまうんですが(笑)。



研究ではなく「自分で実践し、発信していく」

―ウガンダで、壁に?

ええ。現地の小学校に視察に行くと、小さな教室に200人以上の子ども達が詰め込まれて授業を受けていたんです。とても勉強に集中できる環境ではない。では、課題の解決に向けて、政府は限られた資金、資源を何に対して投資すればもっとも成果が出るのか。現地では、そんなことを研究していたんですね。

【すし詰め状態のウガンダの小学校 松浦さん提供】


―成果というのはこの場合、すし詰め状態の解決を指すのでしょうか?

表面的には、それもひとつです。でも根本は、教育の成果ですね。何に投資するなら、より効果的な教育ができ、成果に繋がるのか。それらの指標としては、テストスコアや生涯年収などが一般的です。けれど、環境問題から教育に入った僕にとっては、それが疑問でした。なぜなら、世間でいうところのいい教育を受けたエリートでも、森林破壊や大気汚染を進行させるような仕事を続けている例はたくさんありますから。つまり、従来の指標では、環境問題の解決に向けた教育の成果を計ることはできないんです。


―確かに、数値では計りにくいでしょうね。考え方とか、生き方の問題でしょうから。

研究者として、そういう新しい指標を作るという道も考えましたが、それよりも僕自身が「生命尊厳の心を育む場をつくっていこう」と思うようになったんです。


―なるほど。そういう場として、この環境は最高なのですね。

そうなんです。これから、同じ思いを持っている仲間たちとともに、この耕作放棄地を整備して果樹やハーブを育てていきます。そしていずれはこの農地を拠点に、パーマカルチャーを体験でき、生命の尊厳について学べる活動をしていきたいんです。そしてその活動を映像化して発信していきたいですね。


―映像作家、環境問題解決、生命の尊厳、パーマカルチャー。多様な側面を持つ松浦さんが、最終的に目指しているのはどのようなものでしょうか?

そうですね。僕は絆という言葉を大切にしています。映像制作で繋がった皆さんはみんな友だちだし、仲間だと感じています。これからのパーマカルチャー的な活動で知り合っていく人たちも、当然仲間です。そうした人たちと利害関係を越えた関係を築いて、その輪を少しずつ世界に広げていきたいと思っています。たとえ小さくても、それが僕にできる世界への貢献だと信じているので。

【農園として整備する耕作放棄地を見下ろしながら、今後の展望を語る松浦さん】


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松浦竜介さん(シズクフィルムズ)
住所/山口県光市室積
URL/https://www.facebook.com/sizukufilms/

取材・文:大村 たかし
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