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2019/09/22 【山口】周防大島

綿花の栽培、糸紡ぎ、染色から機織りまで。数十年ぶりに復活した、周防大島の機織り文化 |はた織り倶楽部 糸をかし

by 武井 奈々
大阪生まれ大阪育ち。瀬戸内海の穏やかで豊かな暮らしに惹かれ、2017年山口県周防大島へ移り住みました。海の向こうに四国の山並みを眺めながら、島暮らしを満喫中。島…

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細やかな糸が一本一本美しく織り込まれた布地。昔ながらの手織りの機織り機で作られたものです。

山口県の周防大島。かつて「機織り」は島の人々の生活に密着していました。時代が進むにつれ、その文化は途絶え、現在は使われなくなった多くの機織り機が島内の民俗資料館などに保管・展示されています。

そんな古くから馴染みのあった機織りを周防大島で復活させようと活動されている方がいます。

長谷川樹子(みきこ)さん。2015年にお父様の故郷である周防大島へ移り住みました。

「私は関東で生まれ育ち、長らく東京に住んでいたのですが、少しずつ“何かが違う”と感じるようになって。お金を出して素敵なものを買っても、時間が経てばすぐに飽きてしまう。その繰り返しのような消費社会に疑問を持ち始めたんです」

そろそろ田舎に住みたいと、周防大島に来たものの、「さて何をしよう?」

しばらくは自分が夢中になれるものを探していたといいます。そんな時、出会ったのが隣町の柳井市の伝統織物「柳井縞(やないじま)」。

興味を持った長谷川さんは、6ヶ月間集中して柳井縞を学ぶコースで機織りの基本を学びました。修了する頃には、すっかりその魅力にハマってしまったそう。

【長谷川さんの織った柳井縞の作品。江戸時代に発達した柳井縞は、当時白黒の縞模様が主流の地味なものが多かったが、今では新生柳井縞として様々な色が使われている】



機織りが教えてくれた豊かな時間

「機織りをしている間は、自分の心と向き合えるんです。これまでの人生に思い巡らしながら、どんどん集中していく。それはとっても貴重でかけがえのない時間」

その時々の様々な感情、喜びや悲しみ、イライラでさえも、そのまま一緒に織り込んでしまうような感覚があると話してくれました。



服部屋敷で活動する「糸をかし」

こちらは現在、長谷川さんが主に活動拠点としている服部屋敷※です。

周防大島には、使われなくなった機織り機が数多く存在します。

「こんな巧みな機械を眠らせておくなんてもったいない。もう一度、この島で機織りを復活させたい」

機織りを趣味で終わらせるのではなく、地域を巻き込んだビジネスにできないか、と長谷川さんは2016年、周防大島町の起業プランコンペにエントリーし、見事大賞に選ばれました。

最初はたった一人でのスタートでしたが、その熱い気持ちに引き寄せられるように、徐々にメンバーが増え、今では総勢8名で「はた織り倶楽部 糸をかし」として活動しています。

※服部屋敷とは……幕末の在郷士族、服部家の屋敷で町指定文化財のひとつ。地元長州大工の代表作であり、各所に伝統的で高度な技術が垣間見える立派な古民家。機織りの他、ひな祭りや映画鑑賞会など地域の様々なイベント会場として多くの町民に利用されている。



糸つむぎの愉しみ

この日はメンバーのうちの二人、原田さん(写真右)と河本さん(写真左)が糸つむぎを行なっていました。糸つむぎというのは、その名の通り、コットンボール(綿の実)から糸をつむぎだすことです。この作業がなかなか難しいそうで、上達するまでの時間は「糸繰り(いとくり)三年、はた三月(みつき)」と呼ばれているのだそう。

「難しいところが、また楽しいんです。もっと上手になりたい、とやめられなくなる(笑)」と長谷川さん。

糸をつむぐ元となるコットンボールですが、実はこちらも全て自家製。長谷川さんを中心に、メンバーの皆さんがそれぞれの畑で無農薬栽培されています。



一粒の種から生まれた綿が糸になるまで

【5月に蒔いた種は9月上旬に収穫の時を迎える。取材時(8月中旬)には白や薄紅色の花が咲き、弾ける前のたくさんの綿が実っていた】


以前は雑木の生える荒れた畑でしたが、綿を植えるなら、と地域の方がブルドーザーで整地してくださったのだそう。

「毎年、イノシシや葉巻虫と格闘しながら育てています」と長谷川さん。畑を見回り、葉巻虫を見つけては一つずつ取り除いていました。

【コットンボールから、綿の繊維を切らないよう丁寧に種を取り出す。実はこの綿のふわふわした部分も種の一部】

種とゴミを取り除いたら、ちょうど手の中に収まるくらいのサイズの玉を作ります。こちらを先ほどの糸車にセットし、細く長い糸を紡いでいきます。

たった一粒の種から気の遠くなるような長い時間と労力をかけて出来上がる糸。さらに島内に自生するクサギやキンケイギクなどの植物で染色をすることもあります。



「糸をかし」のこれから

【絣(かすり)はまだ勉強中。なかなか上手くいかなくて……と話す長谷川さん】


今は知り合いの方から注文を受けて、織った布で浴衣やモンペを仕立てているのだとか。

「作成にはどうしても時間がかかるので、大量生産はできませんが、今後は様々な商品開発をして、自分たちが作ったものを販売していきたいですね。例えばタオルや、酒屋さんがしている前掛けなど小物類も作っていきたい。それとは別に、無農薬栽培の綿は肌に優しいので、どこかの工場と提携して他の商品も作っていけたらいいな。織りあげる時間を楽しめるような、機織りの体験教室も考えています」

“周防大島に機織りを復活させたい”

一人の思いが徐々に大勢の人々に広がり、ここからさらに新たな「機織り文化」が始まろうとしています。

まだ、周防大島産の織物の名称は考え中とのこと。「はた織り倶楽部 糸をかし」のメンバーは随時募集中なので、興味がある方はぜひ一度、服部屋敷に足をお運びくださいね。


取材時期:2019年8月
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。
最新の情報は直接各スポットへお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

取材・文:武井 奈々
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Spot Information

はた織り倶楽部 糸をかし

住所 山口県大島郡周防大島町西方 (服部屋敷)
TEL 0820-78-2514
営業時間 活動日/火曜日、金曜日(訪れる際は要事前連絡)

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